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1. 嵐がくる

 



 『嵐がくる』


 山の奥から迫りくる黒い空は、暗雲と稲光を孕んでいる。


 出発前の深夜。星の(きら)めきの残る夜空を見上げていた自分にそう言ったのは、部下の誰だったろうか。


「隊長。あの速さなら、城下まで無事辿(たど)り着けるか(あや)しいのではないかと」


 そう言って、隣で馬を休ませている副隊長のアルフレッドは、困り果てた様にため息を吐いた。

 休ませると言っても、馬に水を飲ませるその為のほんの(わず)な時間だ。


「・・・・わかっている。だが、この辺りに『アレ』を逃れる岩陰も、負けぬ程頑強な建物もない。城下迄はあともう少しだ、急ぐ他にはないだろう。それにアレがこのまま城下に進む様なら、どうにかしなくては」


 丁度隣国(りんごく)との境にある、どちらからも干渉し辛い位置にあるその森は、小型の魔獣が潜む事で知られている。国境の領地を治める辺境伯領(へんきょうはくりょう)の騎士でも、うまく煙に巻く逃げ足の速さと巧みさ。そして簡単には手出しし難いその森を根城にし、関所や領地に頻繁に現れ被害を出していた野盗は、狼の様な魔獣を従え、人畜見境無しに被害が多発していた。そしてその訴えを受け、まだ夜も明けやらぬうちに、王城から部下を連れ、騎馬15騎を引き連れ討伐に来たのが、陽が昇り始める少し前位か。

 そこまでは良かった。野盗も魔物の討伐もそれ自体初めてでもない。罠を張り、森の手前迄追い込んで挟み撃ちにし、対処も含めて半日程で粛清(しゅくせい)討伐共(とうばつとも)に早々に完了した。


 ところが、だ。


 縛った野盗を領地の騎士団へ引き渡し、倒した魔獣の後処理を始めた所で初めてそれに気が付いたが、その時はまだ普通の雨雲にしか見えなかった。



 *******



 ゴロゴロと鳴く空の声。山の奥から迫る暗雲に気付いたのは、まだたった半刻程前だ。雷鳴(らいめい)(とどろ)かせ、時を追う毎に、渦巻く風の勢いを増しながら迫りくる。もうあと僅かもすれば、追い付かれてしまうだろう。


 常軌(じょうき)(いっ)した嵐の速度に、やはり近場にあった洞窟で凌げば良かっのではないか。まず部下の進言を聞いていたのだ。それに重きをおかずに来たのは、只々己の浅慮(せんりょ)からである。きちんと事前に対策をするべきであったと、後悔しても今更だ。


「皆準備はいいか、そろそろ出発するぞ!風も随分強くなっている。雷雲の進行方向は変わりそうにない・・・・急ぐぞ」

「はい!」


 響いたアルフレッドの声に、再び馬を走らせ始める。全速力でで進む馬に、馬上で(はず)む鎧の音がガチャガチャと耳をついて、手綱を持つ手にぎゅっと力を入れ、苛立ちを抑える。

 脚となる馬ももう限界に近かった。少しだけ休ませはしたが、なんとか保ってくれと祈る他ない。

 城下迄はもうわずかだが、嵐は狙い澄ましたかの様に風速を上げ、尚も肥大しながら騎馬隊の後、地面の樹々を舐めとりながらついてくる。


 巻き上げられ、バキバキと音を立てそれに飲み込まれてゆく樹々。隊の後ろを追従するその様は、さながら、口を開け牙を剥く巨大な魔獣のようだ。


 遠くに小さく見え始めた城門に、少しだけ背後のそれに目をやり、小さく息を呑む。


 これはもう、無理かもしれない。このまま城下迄アレが辿り着いてしまっては、恐らく甚大な被害が出てしまう事になるだろう。


 見え始めた王都に、残された手段はもう残り少ない。


最早猶予(もはやゆうよ)はない、か・・・・・アルフレッド!」

「!」


 全速力で馬を走らせながら、アルフレッドは己を呼ぶ声を振り切る様に背後を()(あお)いだ。一瞬の間の後男に視線を戻せば、何かを確認する様な強い眼差(まなざ)しが、アルフレッドの視線と交差した。


「すまん、隊を先導して先へ行け」

「は・・・・・何を、」

「アレは、俺がなんとかする」


 並走していたアルフレッドの返事は待たない。なんと言われるかなど、長い付き合いで分かりきっている。


「ちょっと待て、ソレイル!!」

「アル・・・・被害は最小限に留めたいが、力は加減は出来そうもない。俺が戻るまで頼んだぞ」


 一瞬の短いやり取りの後、馬の背から大きく後へ跳ね降りた。

 スピードを緩めようとする後続の騎馬達に、アルフレッドが「脚を緩めるな!!」と声を上げる。


 失敗は許されない。全てを巻き上げ、大気をうねらせながら育ち続けるその様は、異常としか言いようがない。


 身を震わせる程の恐怖が湧く。けれど、それより強く、重いモノが己の内にはあるのだと、兜に頭を納め、大きく息を吸う。


 引く訳にはいかないのだ。己は国を、民を、『護る』為に存在するのだから。


 闇色に染まる空に鳴り響く雷鳴。チカチカと眩しい程の雷光を惜しげもなく発しながら、嵐を従え眼前に迫り来る。


「さて・・・・お相手願おうか」


 騎馬隊が充分距離を取ったのを確認し、呪文等必要としない、純粋で、濃厚な魔力が男の身体を包んだ。







初投稿にて、とても緊張しております。少しでも楽しんで頂ければ幸いです!



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