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006話 勇者の呪い

商隊護衛冒険者が住むギルドハウスに行き、アイリス師匠に魔法の稽古を付けて貰うことになった

「修行の成果を見せて貰った訳だけど……」

「訳だけど……?」

「私の弟子は天才かっ!!」

「!?」

「いやぁ〜、この年齢で、特に精度が凄いわ!

 実践主義でスピード重視なんて人も居るけれど、有効かどうかは精度によるのよねー。

 スピードなんて実践してれば嫌でも身につくんだから。」

「あ、ありがとうございます。」


ガゼルが休憩がてら、こちらを優しい眼差しで見ているのが恥ずかしい……。


「でもね、クゥリくん、“灯火(トーチ)”以外の光魔法は使っちゃ駄目よ。

 さっき木陰で見せてくれたような、色を変化させるアレンジとかも止めた方が良いわ。」

「それは何故ですか?」

「勇者の呪いよ。」

「勇者の呪い?」

「なんだそれは?」


休憩していたガゼルが興味深そうにこっちにやって来る。

テラス用のダイニングテーブルの横の余っている椅子をアイリス師匠に促されるまま、ガゼルは腰を掛けて話の輪に入ってきた。


「光魔法って、本来は勇者専用魔法らしいのよ。

 “灯火(トーチ)”なんていう簡単な生活魔法と呼ばれるもの自体は問題ないのだけれど、

 勇者でないものが、光魔法を無理に扱おうとすると呪いにかかってしまうのよ。」

「勇者専用の魔法って、御伽噺のか?幾重もの光の剣が魔王の闇の衣を切り裂いたっていう。」


ガゼルが子供の頃の寝物語を思い返すように聞き返す。


「うーん、恐らくね。勇者専用の光魔法が本当にあるのかは分からないわ。」

「その口ぶりだと、勇者の呪いは本当にあるって事か?」

「そう、ね。勇者の呪いと呼ばれる現象自体は確かにあるのよ。見た事があるの。」

「「えっ」」


オレとガゼルがハモった。


「あまり言いふらさないで欲しいのだけれど、私は一時期、魔術学院に通っていた事があるの。

 魔術学院の中で光魔法の研究はご法度なのにも関わらず、稀に好奇心旺盛な人が真実を知ろうと試してみて、どうしても事故があるみたいで……、私の知っている先輩が勇者の呪いに罹ってしまったわ。」

「勇者の呪いに罹ると、どうなるんですか?」

「先輩は亡くなったわ。

 だからクゥリくん、“灯火(トーチ)”以外は使わず、用途も明かりとして使用して欲しいの。」


アイリス師匠はオレの頭を撫でながら、目を細めて少し悲しげな顔をしていた。

悲しい思い出なのだろう。

でも自分の中で組み立てられた、ある仮説を確認するためにはどうしても聞かざるを得ない。


「師匠、辛いことを思い出させてしまうかもしれないのですが……、勇者の呪いの症状を教えていただけないでしょうか。」

「クゥリ、好奇心でそういう事を聞くのは……」

「ガゼル、いいの。クゥリくんは真剣だし、好奇心だけで聞いてる訳じゃないと思う。

 それに私としても、きちんと納得して、危ない事をしないように約束をして欲しいしね。」

「分かった。ただな、クゥリ。誰でもアイリスみたいに分かってくれる人間ばかりじゃないぞ。

 そこは間違えるなよ。」


ガゼルがオレの頭をグリグリと乱雑に撫でる。

仕草は子供として扱っているものの、子供である自分に対して人として向き合ってくれてるのが分かるこの人たちがオレは好きだ。


「あまり気持ちの良い話ではないから、端的に話すね。

 先輩は光魔法の実験を進める度に具合が悪くなって行って、魔石を使った魔力バックアップを受けた実験を行った後は、一ヶ月くらい容体が悪くなり続けて、亡くなったわ。

 右腕を中心に体が赤く腫れ上がった後、身体が壊死していって、回復魔法は逆に体調を悪化させていたわ。」


アイリス師匠が一度目を強く瞑り、見開いて真剣な目でこちらを見据えて言う。


「だから、勇者の呪いは本当にあるの。

 クゥリ君にあんなに苦しむような思いはして欲しくないから、光魔法は最低限必要な時にだけ使ってね。」


アイリス師匠の話を聞いた限り、やはり光魔法で放射線を作り出したんだと思われる。

放射線で遺伝子が壊れて、体が壊死して行ったんだろうし、遺伝子が壊れてるので自己治癒が出来ないから回復魔法も効かない。


「話してくれてありがとうございます。危険性はよく分かりました。

 ここからは仮説の話ですが、勇者の呪いとは見えない光の毒によるものだと思います。」

「「見えない光の毒?」」

「すみません、実を言うと“灯火(トーチ)”の魔法を操作訓練のために色々試した事があり、その中で光の色を変える事をしていた時に気づいたのですが、色を濃くするイメージで光を圧縮するように“灯火(トーチ)”を使うと段々青色、紫色となっていくんですが、一定以上を超えると光が見えなくなるんです。」


アイリス師匠が心配そうな顔をしている。


「ただ自分では、色が見えなくなるかどうかくらいまでにするのが精一杯で、勇者の呪いを再現するくらいの強い光魔法は使えないと思います。」

「色が見えなくなるというのは、実際にそうなったんならそうなんだろうが、見えない光に毒があるってどういうことなんだ?」


ガゼルが首を傾げている。


「話を一つ一つ進めたいので、ちょっと遠回りになりますが聞いてください。

 太陽の光をガラス細工に通すと、虹みたいな光が見える時ないですか?

 僕の家は雑貨屋なので、そういう物も置いてあって、分かるんですが……。」

「そうね、私も見たことあるわ。」

「アイリスが言うんなら、そうなんだろうな。」

「太陽の光って、いろんな色を内包しているんだと思うんですよ。ここは仮定ですね。

 虹とかは内包した色が解けて見えている状態だとすると、紫色以降の見えない光も内包していてもおかしくはないと思っています。これも仮定ですね。」

「えっ、太陽にも見えない光、つまりクゥリくんが言う勇者の呪いが含まれているということ?」

「そうですね。ガゼルさんって日焼けしてますよね。」

「おぉそうだな。」

「日焼けって夏だけします?」

「いや、冬もする時あるな。北方遠征した時は日焼けした覚えがある。」

「日焼けって暑さは関係ないですよね。暖炉でもしないですし。」

「そうだな。」

「でも肌が弱い人って日焼けでも真っ赤になるじゃないですか。」

「うん、クゥリは何が言いたいんだ?」

「太陽の光って少しだけ毒があるという話です。」

「日干しとかも言うけど……うーん?」


いまいちピンとは来ないようだ。

紫外線と言えば、現代人だと分かることを考えると前世はあらゆる前提に科学が組み込まれていた事を実感する。そして紫外線は目に見えない。目に見えない光の毒とは紫外線で、これがさらに波長が短くなるとエックス線やガンマ線といった、所謂放射線に該当する。


「しかし太陽の光に毒があったとして、結局勇者の呪いとどう関係があるんだ?」

「ここからは、状況からの推測でしかないんですが、例えば紫色や青色の光に毒があるのであれば、“呪い”なんて言い方をしないで青色光や紫色の光は危険っていう話になると思うんですが、そんな話は聞かない。つまり、何が危険か分からないから“呪い”なんです。」

「ふむ」

「そうであれば、先ほどの紫色の先にある見えない色の光が毒になるんじゃないかと思います。より大きな魔力消耗が必要なので、普通だと実践しないでしょうし。」

「目に見えないから確認のしようがないような……」

「そうですね。だから仮説でしかないです。」

「それに日焼けする?のが太陽の光の目に見えない光の部分っていうのも、いまいちよく分からない。」

「それは仮定ですからね。何かで説明できた訳ではないですから。」

「もう頭がこんがらがって来た……」

「僕の考えを整理すると、

 1.光魔法で紫色以降の光は見えなくなる

 2.太陽がガラス細工を通した時に虹が見える

   太陽の光は虹のようにあらゆる色を内包すると仮定

 3.太陽の光には虹として見える範囲以外の紫以降の光も実は持ってると仮定

 4.太陽の光には弱毒性があり、それが日焼けになると仮定

 5.紫色や青色などの光が危険とされることはない、

   つまり呪いは見えないからこそ呪いと言われている

 6.見えない光こそが毒性にあたるもので、太陽光にも微量に含まれていると推定

 7.勇者の呪いは大出力の見えない光だと推定

 という感じになります。」


はえーって顔を二人がこちらに向けている。


「……私の弟子は天才かっ!!」

「!?」

「本日2回目だな。」

「凄いわ!魔術学院に発表すべきよ!特別待遇入学出来るかもしれないわ!」

「いや、まだ確定できてる話じゃないですし、それに……」

「「それに?」」

「たぶんそれを証明するための実験を繰り返すと、勇者の呪いになりかねないので、怖くてしたくないです。」

「そ、そうね。それは危ないからしないで欲しいわ……」

「色々とクゥリが考えているって事は分かった。ただな……。」


そう言いながら、ガゼルはむくりと立ち上がりストレッチをしながら告げて来た。


「頭でっかちだけじゃあ、世の中やっていけないってこった。

 お勉強はそれくらいにして、折角だし久々に剣術を見てやろう。」


ショートソードサイズの木剣を放り投げられて、慌ててキャッチする。

ガゼルの不適なニヤリとした顔に観念して、剣の修行をつけてもらう事にした。

いやまあ、アイリス師匠と比べれば加減もしてくれてるし、現実的な指導をしてくれるので全然良いのだが……。


アイリス師匠は座ったまま応援観戦に回り、夕暮れ近くまで三人で一緒に過ごした。

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