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002話 《理術》

この世界には魔法がある。

魔法というのは、魔術と法術の総称を指す。


魔術の源は魔力(マナ)。植物が作り出しているとされる空気中に漂っているエネルギーは外マナと呼び、それらを呼吸で吸収して体内に蓄積したものを内マナと呼ぶ。

魔力(マナ)と呼ぶ時は大体の場合は内マナを指していることが多い。

内マナを消費して、外マナに魔術現象を媒介して火や水や風、電気や念動力などの事象を発生させ、対世界に有効な干渉術理を魔術と言う。


法術の源は気力(イド)。教会では法力と呼んでいる。

気力(イド)とは生き物が宿している生命エネルギーのこと。

この気力(イド)を消費して自己強化をしたり、自己・他者の回復を促したりするなど、対生物に有効な干渉術理を法術と言う。

魔術と違い、対世界干渉に向いていない為、気を飛ばすというような活用方法は出来ない。また法術の一種として、近接戦闘に特化した闘気術と呼ばれるものがある。


魔法については、3歳の頃から本を読むことで少しずつ学んでいき、4歳の頃からうちの商会関係の護衛者たちから教えて貰う機会を親の目を盗んで設けていた。

魔術と呼べる現象を行使出来たのは5歳になる頃で、法術も同様だった。

目当ての護衛者は商隊に付いていく関係で、教えて貰える機会が少なかった為に基礎訓練をひたすら積んでいた。


オレは魔術と法術両方を少なくとも扱えるという事で、そこで誰しもが思いつくであろうことを実行してみたのだ。

ようするに、魔力(マナ)気力(イド)が合わさって最強に見えるというヤツだ。


しかし、これを実行する人はなかなか居ないようだった。

というのも、この世界、国では多神教の世界観で、神様ごとに教会があり、魔術に長けた神と法術に長けた神は別々となっている。

7歳に洗礼を受けることもあって、通常はそれぞれの教義に従っていく慣習があり、魔術と法術の両方を覚えるのはあまり一般的ではないようなのだ。


そんな一般的ではない事であれば猶更やってみたくなる性質のオレは、暴走して大きな事故にならないように極力小規模で、魔力(マナ)気力(イド)を掛け合わせてみる実験を行った。

その結果、周囲の世界が罅割れるような感覚に陥って頭の中で警鈴が鳴り響くことになり、すぐさま中止をしたのだった。


「という訳で、魔力(マナ)気力(イド)を掛け合わせることが禁忌に該当するとか、何かあるんだろうか?」


投げかけた第三王子の目は、先ほどよりも鋭い目線をしていた。

しばらくの沈黙の後、第三王子はフゥとため息をついて、目を閉じながら振り返らずに右手を挙げた。


「フェルクス」


第三王子がそう呟くと、音もなく執事風の白髪の壮年男性が王子の後方にスッと現れた。


「は、此処におります。」


おかしい。明らかにおかしい。魔術?いや、光の屈折とかで対応をしていたとしても、外マナの流れでさすがに気づくはず。


「自力で《理術》に到達しそうな者が居る」


王子が振り返らずに、フェルクスと呼ばれた執事風の男へ向けてしゃべる。

執事風の男は一瞬目を見開く動作をした後、目線をこちらに移した。


「申し遅れました。わたくしはフェルクスと申します。ヒィロ・ハイデルウィンザー・アルヴシュタール第三王子殿下の執事長を務めております。」


執事長がこちらに向き直って非常に紳士的に挨拶をされたので、慌てて立ち上がりこちらも返す。


「いえ、こちらこそ、ご丁寧にありがとうございます。

 クゥリ・クライネと申します。よろしくお願いいたします。」


ふむ、と執事長が目線を左に流し考えるしぐさをした後、すぐに出てきた言葉に驚くこととなる。


「クライネ商会のご子息でしたか。ヒィロ様と議論できるような卓越した者であれば、耳に入って来そうなものですが……。

 もちろん、先ほど話している内容は分かりませんでしたが。」


執事長がちらりと王子を見る。


「許せ。機が来れば話すこともある。」


「かしこまりました。」


この一連のやり取りで一番驚いたのは、クライネ商会を知っていたことだ。

大商会ならいざ知らず、下請けのクライネ商会の名前まで覚えているとは、このじいさん、どれだけの情報網と知識なんだ……。


「おっしゃる通り、クライネ商会の三男でございます。本日は王子殿下にお招きいただきまして、お話をさせていただいておりました。」


話が少し切れた間で、王子が執事長のフェルクスに振り向き、目を見て話し始めた。


「このクゥリを私の勢力下に置く。扱いは爵位持ちと同等。情報共有レベルは私と同じと考えてよい」


「それは……、かしこまりました。」


「すまぬな。重要人物として認識してくれれば良い。

 ひとまず、彼に《理術》について説明をしてくれぬか。」


なんか色々と凄い単語が飛び出たが、これは王子の役に立たないとまずいヤツだな……。

早期引退用に考えていた販売用のアイディアあたりとかを一部明け渡した方が良いだろうな。


「クゥリ様、立たせたままで申し訳ありません。お座りください。」


コホン、と執事長が一息をついている間に、オレはソファに座りなおす。


「クゥリ様はどこまで《理術》についてご存じでしょうか?」


「いえ、全く存じ上げません。魔力(マナ)気力(イド)を掛け合わせたところ、世界に罅が入り壊れかける感覚があったので慌てて止めたという話を王子殿下にいたしましたら、フェルクス様を呼ばれました。」


「然様でございますか。わたくしに敬称は不要でございますよ。

 それでは、わたくしが《理術》についてクゥリ様にご説明をさせていただきます。

 まず《理術》とは、魔力(マナ)気力(イド)を融合して理力へと昇華させ、その理力を行使して引き起こす現象を指します。

 クゥリ様が魔力(マナ)気力(イド)を融合させようとした時に感じた世界が罅割れるという感覚、これは《理術》に目覚めようとする時に起こったものと推測されます。

 世界に罅が入るという表現は、言い得て妙でございますが、理術・理力を知覚するにあたり、世界と自身とを阻んでいる殻を破ろうとする時の感覚であると考えられます。

 啐啄同時(そったくどうじ)という諺がございます。

 鳥の雛が卵から孵る時に、雛が内側から、親が外側からコツコツと殻を叩いて破るという事から表される諺ですが、それと同じように《理術》に目覚めるには外側からの力も必要となります。」


なるほど、自分一人ではその《理術》とやらには目覚められないのか……。

 

「また今お話をしている《理術》についてですが、こちらは秘匿事項で口外は厳禁で、知らぬ者に伝えるのは死刑が適用される場合がございますので十分ご注意ください。」


マジかっ!危ないことな感じはしていたから、まだ交流のある冒険者たちには相談してなかったんだよな……。


「まだ誰にも話してはおりません。機会が無かったことと、恐らく危険なことだと思っておりましたので。」


「かしこまりました。公の場で《理術》という単語は使わないようにお願いいたします。」


「承知いたしました。」


オレが頷いて返事するのを見届けると、執事長はさらに説明を進める。


「さて、《理術》についてですが、これを扱えることで恩恵が二つございます。

 まず一つ目が魔術と法術が飛躍的に強化がされます。

 そして二つ目が、9つのクラスに分類される、ご自身が該当クラスに応じた能力を得られる事です。」


クラス制?しかも9つ!?7つのクラスで戦争とかするヤツじゃなくて……?


「簡易的に9つのクラスをご紹介をさせていただきます。今から話す内容がすべてではございません。


 強化師(リィンフォーサー):力、防御、速さ、回復力など、特に法術・闘気術関係が一つ目の恩恵より強力に強化できます。

 狙撃手(スナイパー) :魔術などの遠距離能力が強力に強化されます。特筆すべきは闘気術で遠距離能力が開花します。

 道化師(アルルカン) :相手の五感を狂わせる能力が使用できるようになります。

 調教師(テイマー) :動物や魔獣などの生き物を使役する能力を得られます。

 錬金術士(アルケミスト):ゴーレムなどの無機物を使役したり、生み出したりする能力を得られます。金属を容易に変形させるなどの者も居ます。

 付与術士(エンチャンター):武具などに特殊効果を付与することができます。

 召喚士(サモナー) :伝説上の幻想種を召喚して使役する者も居るようです。実在しない幻獣などが扱われます。

 審問官(インクィジター) :五感を使って、不確かなものを判定できます。嘘を見破る能力などがあります。

 求道者(イクスプローラ) :妄執の果て、一念岩をも通す。求めるものがそれに辿り着く為の現象を引き起こします。」


うーん、いっぱいあって、いきなり覚えづらいのと、恐らく機能的に綺麗に分類されてなさそうだな。

強化師(リィンフォーサー)付与術士(エンチャンター)支援効果(バフ)を人か物かで分けられてそうだし、調教師(テイマー)錬金術士(アルケミスト)召喚士(サモナー)あたりはもう少し整理が出来そうな気がする。

おそらく元々ある用語に無理やり収めた感があるな。


「最後の求道者(イクスプローラ)がいまいち掴めなかったのですが……」


「そうですね、こちらは事例を一つお話いたしましょう。

 法術の一種で、闘気術というものがありますが、斬撃系奥義の一閃はご存じでしょうか?」


「はい、知っております。剣の刃を延長する形で闘気を纏わせて、遠い距離の相手を斬り伏せる奥義ですよね。

 達人では10メトル先を斬ることが可能だとか。」


「その通りでございます。闘気や気力(イド)は自身から離すと途端に能力が落ちる為、闘気で刃を延長するにも間合いは10メトルが精々と言われております。

 しかし求道者(イクスプローラ)の能力者は50メトル、100メトル先を斬り伏せました。

 10メトルが精々と呼ばれているのも、これも《理術》で闘気術が強化されたレベルのものでございます。

 そして求道者(イクスプローラ)の能力者は、闘気で延長した刃で斬ったのではなく、自身の剣で斬っておりました。

 おそらく距離を無視するような能力なのだと思います。

 本人が望み、ただ剣で遠くのものを斬る、それだけの想いの結晶がその能力者の求道者(イクスプローラ)の本質と考えられております。」


他の分類に当てはまらないものが、求道者(イクスプローラ)に分類されそうだな。

なんというか、特質的なアレな感じかな……。


「もちろん、あくまで一例でございます。

 求道者(イクスプローラ)の能力者は非常に稀で、それぞれ能力が全く異なりますので、特殊な能力とお考え下さい。

 過去に求道者(イクスプローラ)の鍛冶師が居たという記録がございまして、そのものが作った剣は魔剣や宝剣などとも呼ばれ現存しております。」


魔剣なんてのもやっぱあるのか!!


「フェルクス、統制者(ルーラー)のことも説明せよ。」


簡単な説明がひと段落した所で、王子から横やりが入った。


「……、よろしいのでしょうか?」


「先ほど情報共有レベルは私と同等にしろと申したぞ。彼に情報の出し渋りはしなくて良い。」


「かしこまりました。クゥリ様、9つのクラスがあると申しましたが、それ以外の特殊なクラスもございます。」


おぉ、エクストラクラスというやつか!


「先ほどヒィロ様よりお話がありました、統制者(ルーラー)は、先ほどの9つのいずれにも該当せず、貴族専用のクラスとなります。」


貴族専用……?

うーん、統治者側専用となると、何か徴収するとか支配する為の能力という感じなのかな?


統制者(ルーラー)  :配下の複数の人間から力を借りて強力な力へ昇華する能力や、ルールを課すなどの能力がございます。」


うーん、これが貴族専用……?そう言っているだけな気がするな。

中央集権型や相互協力型みたいな能力って、貴族、血統に縛られる理由みたいなものが無いように思う。儀式的な何か物が必要になるとかだろうか。

貴族と平民の大きな違いは知識量の差と、知識や帝王学などを学ぶ時間的余裕だろう。ここで方向性が決定づけられるんじゃないだろうか。


「もしかして、ある程度なら育つ環境とかを調整することでクラス分類を誘導できるとかありますか?」


「ある。先ほどフェルクスが貴族専用と言ったが、そうでもない可能性がある。」


答えに一瞬言い淀んだ執事長を見て、王子が即答した。


「……クゥリ様、今の話は貴族でも直系の後継の人間などの一部のものが知る内容でございます。口外は決してせぬようにお願いいたします。下手すると一族郎党死刑になるかと……。」


執事長お疲れ様ですね。すいませんね。

口が裂けても言えない内容でしたね。すいません。


「またヒィロ様もクゥリ様も通常は《理術》についてを知るのは、現在の年齢ではあり得ないことです。

 貴族で《理術》の説明を受けて開花するのは早くても10歳。15歳の成人の儀で貴族の責務として引き継ぐのが通常でございます。」


確かに見た目も実態も7歳の子供だし、そう言われてもしょうがないな。

精神年齢は違うけど。


「他にも王族専用と言われる、君主(ロード)というクラスもあると聞いております。

 ただどのような能力かはわたくしも把握をしておりません。」


王族専用か……。しかし、統制者(ルーラー)と何が違うんだろう。


「色々と口頭で説明をいたしましたが、百聞は一見に如かずとも言います。

 わたくしの道化師(アルルカン)の力の一端をお見せいたします。」


"震えて眠れ(インビジブル)"


前世のアニメで見た光学迷彩のように執事長の周囲の空間が歪んで、執事長が見えなくなった。


「いかがでしょう、クゥリ様。知覚できますでしょうか?」


周囲から反響するように聞こえる声から、どこに居るかも分からず、まるで気配も消えている。


「わたくしは動いては居りません。"震えて眠れ(インビジブル)"を発動したのみでございます。」


「これは相手に干渉する能力なのでしょうか。それとも自身に干渉する能力なのでしょうか。」


質問を受けて、執事長が姿を現す。


「非常に良い質問です。自身に干渉をして、世界に同調して姿だけでなく存在を消すというのに近い事象と存じております。」


魔術は世界への干渉術理で、法術は人・生物への干渉術理だ。しかしながら、魔法は万能ではない。

魔術では火や水は生み出せても、土は生み出せない。恐らく魔術は電磁力に働きかけをする力で、物質生成は出来ないのだろう。

水が作れるのは恐らく空気中の水蒸気を集めたものなのだと思う。

法術では回復法術も人が自力修復できる範囲の傷しか治せない。それらを明らかに凌駕しているのが、この《理術》だ。

世界の法則自体を書き換えるような力とも言える。


「うーん、《理術》は自身の心象を具現化して世界の理を書き換えるような術理という事でしょうか……。」


「なるほど、王子殿下が重要人物と呼ぶだけはありますな。」


頭の整理をしながら独白をしたところを拾われて、大仰に捉えられてしまった。 



少しの静寂を置いて、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。


「お取込み中失礼いたします。リリィ・エヴァリュミエール・アルヴシュタール第五王女殿下が参られました。」


扉の前で待機していた侍女が王女殿下の来訪を告げると、部屋の中の人間は王子へと視線を集中させた。


王子は短い息を吐くと、執事長を横目で見ながら頷いた。


「お入りください。」


執事長は扉へ向かってそう告げた。

前話で、地理情報にエルフ自治区の説明の追加と、法術の源を気力という説明に修正いたしました。

求道者のルビを変更しました。


情報量が多い小説ですみません。

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