第7話 権輿
「全く、許せん奴らだ。儂の馬車を襲う計画なんぞ立ておって、今日は客からの不満が続出だ」
ブルートは屋敷でワインを飲みながら自分の領地の方を見ていた。
「まぁ、その計画もまさかワシに漏れているとは、思っておるまい。我があの集会に買収している奴がいないなど甘い話もあるまい」
ブルートがワインを飲みながら上機嫌でいると後ろの扉が大きな音を立てて開くと、一人の兵士が慌てた様子で入ってきた。
「ブルート公爵様! 屋敷が何者かに襲撃されました」
「何ぃ? なぜ屋敷が襲撃されるのだ!」
「わかりません。ですが、すでに馬車の兵士は全て屋敷へ急行しております」
「うるさい! そんなことはどうでもいい。まずい、これが帝国に知られれば儂は間違いなく消される」
ブルートは動揺のあまりワインの入ったグラスを落とした。この事件が明るみに出れば帝国は足がつく。
世界的英雄である勇者が自ら作った法を、勇者が使った国でで侵す事に関わっていたなどとなると他国ましてや帝国民まで反帝国運動をする可能性があった。
その情報を消すために帝国がブルートを殺しにくるのは明白だった。
「もう、手遅れだがな」
その背後には黒のローブに、赤の線が入った銀色の仮面にをつけた男が立っていた。ブルートは声を聞いた途端、顔が青くなり、体全身を震わした。それでも、本能的に自分のやるべきことがわかっていた。
「暗殺者殿お待ちください。まだ確実なる証拠を掴まれてはおりません。あの小物なんぞ。恐るるに足りません。どうかお待ちくでゅぇつっ……」
ブルートが膝をつき頭を地面につけて、銀仮面の男に必死に命乞いをしている最中、無情にもブルートの首は宙を舞った。
「はぁ、わからんのか? 貴様が帝国の貴族と取引していたなどと思い込むな。貴様はただ利用されていただけにすぎないのだからな。まぁ、死人に言っても無駄か」
銀仮面の暗殺者は、飛んでいったブルートの首を一瞥したのち、北の方を見た。
「勇者の一族、ヘルトか。面白くなりそうだ。さて、仕事も終わった事だ。帰還するか」
銀仮面の暗殺者はその場にいた腰を抜かして動けなくなっていた伝令の首を刎ねてから闇に紛れて消えていった。
次の日の朝には、ブルート公爵邸にはただ1つの死体だけを残して、一夜で全てのありとあらゆる物が無くなっていた。
カイン達が元奴隷を引き連れながらブレイブ城へと帰還すると、元奴隷たちをガイルに任せてから、カインとレオンはすぐにカインの執務室に向かい、ウォードの報告を聞いていた。
「何? 屋敷にブルートの首しか残って無かっただと!」
「はい。私が名乗りあげて、一番最初に状況確認をしました。我が国での細工はないと考えられるでしょう。あまりに手際が綺麗すぎます」
カイン達が取りに行った契約書も偽物であるため、ブルートの派閥を一掃することができなかった。そのため、カインは憤りを感じていた。
「まぁ落ち着きなカイン。邪魔なブルートは殺された。それだけだ。まだ帝国と戦う気はないのだから、なにも詮索しない方がいい」
怒っているカインにレオンは事実と今後について語って嗜めた。
「まぁ、確かにな。済んだことをあれこれ言っても仕方ない。ウォードご苦労だった。準備を進めてくれ」
「はっ。かしこまりました」
報告を終えたウォードは執務室を出て行くと、練兵所の方へと向かった。
「これでひとまずはブルートの下にいた貴族も怖くて何もできないだろうね」
「これで、俺のやり方に文句を言う奴は居なくなっただろう」
「そうだね。これでようやく始まったね」
「ああ、ようやくだ」
カインは椅子から立ち上がり、自分の執務室に飾ってある初代勇者の絵画を見た。
「必ずや、全種族平等の世界を作り上げて見せます」
カインは絵画に向かって、力強く宣言をした。
「レオン」
カインは絵画を見ながらレオンを呼びかけた。レオンは呼ばれるとカインに近づいた。
「お前は俺の偉業を手伝ってくれるか?」
カインはレオンへと向き直りレオンの顔を見て、手を差し出した。
「当たり前だ。でも、俺たちの偉業だろ?」
レオンはカインの手を力強く取り、カインに笑いかけた。
「そうだな。なら、まず俺たちの偉業の第一歩を始めよう」
「ああ。この一歩を踏み出せば僕たちは止まらない。前だけを向いて歩いて行こう」
ヘルト歴365年、ヘルトはルベン、シメオンへ進軍を開始した。兵数はヘルト軍は五千、王国連合は7千5百の数で戦いが始まった。これはのちに、レビの戦いと言われる。