第66話
ヘルト皇国では、ようやく勲章授与式が開かれた。各貴族には、旧帝国派戦及び王国と覇国戦における陞爵についてと手紙が送られていた。
貴族達は朝早くからブレイブ城へと向かい、謁見の間で左右に分かれて集まっていた。後方の扉が開くと貴族が一斉に膝をついた。
開いた扉からは先頭にカイン、少し後ろの左右にレオンとレイジが続いて入場した。カインは上段にある椅子に座らずに振り返った。
「今回は知っての通り会議ではなく授与式だ。内容は俺とレイジとレオンの3人で決めた異論は認めない」
カインは同じ上段で左右にいる二人を見ながら全体に言い聞かせた。
レオンとレイジはどちらも新たに形成された二つの派閥のそれぞれトップだ。カインが権力を握る前のヘルトにはウォードの軍部派閥とブルートの貴族派閥があった。
しかし、ブルートが死んだと同時にカインが王になった。そこでカインはウォードの派閥ばかりを重用した。
その結果、ブルートの派閥はリーダーもいなくなり、団結してカインに反抗する事なく。全員が国政から遠ざけられて、瞬く間に勢力を失い自然消滅した。
そこで、現れたのがシメオンだった。シメオンはヘルトと戦争をせずに降伏したため、シメオン家の力はそのまま取り込まれた。さらに、シメオンの後継であるレイジはすぐさまレオンと同等にカインに重用されたため、新勢力のリーダーとしては申し分なかった。
旧ブルート派の貴族たちは、レイジとレオンの仲が悪いという噂もあって、すぐにレイジの派閥に入った。
今、レイジの派閥はレオンに比べて多いが旧ブルート派と旧シメオンの貴族との確執があり、一枚岩ではない。そのため、両勢力は互いに牽制しあっていた。
貴族たちは、カインとレイジを両方を敵に回せばほとんどの貴族が敵になってしまう。つまり、下手な事を言うとどちらかの気を損ねることとなる。
「まずはグランツ・レビとガイルの2人は前へでよ」
カインは初めにグランツとガイルを呼んだ。初めに二人が呼び出された事により貴族たちは驚いたが、カインに釘を刺された以上黙って成り行きを見守っていた。
「「はっ!」」
グランツは貴族らしい格好をして前に出てきたが、ガイルは着飾らず普段の鎧の姿で現れた。
「お前ら二人はルードそして、オルドの君主、シュマン・ルード及びライター・オルドを倒した功績として、男爵に任命する」
「「ありがたき幸せでございます皇王陛下」」
カインがいいきると、二人は膝をついて感謝を示した。カインはガイルが意外に様になってるのを納得するように笑った。
「そして、ガイル。これからはガイル・リッターとして名乗れ。そして、本日より騎士団を編成する。一つ目は、近衛騎士だ。その団長はリッター男爵、そしてグリフォン騎士団の団長はレビ男爵を任命する」
集まった貴族がざわつき出した。グランツとガイルに爵位が授与されるだけでなく新騎士団の団長になるという事は貴族たちには不満しかない。
しかし、下手に異論を言うと何をされるかわからないのと、レオンとレイジが黙っていることもあって、誰も文句を言う事は無かった。
「それでは次に行こうアポー・バオム子爵」
カインが名前を呼んだが、返事はなかった。一部のものがある方向を見ると全員が釣られるように視線が集まる場所を見た。
「えっ? 私ですか?」
間の抜けた声が謁見の間に響いた。アポーは全身から汗をかいていた。
アポーは先程の戦いで真っ先に撤退していったが、手酷い目に遭わされたため、カインの事を警戒していた。しかし、この状況で、前に出ないのはあからさまにおかしいとアポーは考え、重い足取りで前へと進んだ。
「申し訳ございません。まさか、私が呼ばれるとは思ってもおりませんでした」
アポーはこの場で積荷全てを放り出して逃げだしたため、自分に功績があるとは考えていなかった。
なぜなら、アポーが運ぼうとしていた物資は全て覇国に奪われ、兵士は散り散りになりほとんどが帰ってこれていなかった。
アポーは今、この場で遮断されるのではないかと怯えていた。
「何と、貴殿のような勇敢な者がこの場で呼ばれないなどあるわけがないだろう。私が覇国軍との戦いで撤退する際に、自ら進んで囮になると申し出たではないか。あの時は、何と素晴らしい心がけかと思ったぞ」
カインは目を閉じながら歯を食いしばり、瞳からは涙が流れ出ていた。
「いえ、それほどではございません皇王陛下。私は臣下として当然のことをしたまでです」
バオムはカインの言葉を聞くと、いきなり調子が良くなり、かいていた汗はすぐに止まり堂々と胸を張った。
「ああ、そんなに謙遜しなくていいのだぞ。そこで、貴殿はこれからバオム子爵はバオム伯爵とする。領土に関しては旧ケルド領の中央とする。これからも貴殿の真の忠誠に期待しているぞ」
カインは先ほどまで涙を流していた思えないような嬉しそうな顔でアポーの両肩を叩いた。
「はい、ありがたき幸せでございます皇王陛下」
アポーは陞爵を受け、軽い足取りで自分の持ち場へと戻った。
「それでは、次はレイジ・シメオン卿」
レイジは無言でカインの前まで歩いて行った。その場にいた貴族たちはすぐにざわつき出した。
「何と無礼な。礼儀もわからん倅なのか」
「いや、それほどの功績があるのと、皇王陛下の義兄であるぞ。当然であろう」
会場の熱は徐々に暑くなり、賛否両論が溢れかえった。それをカインが手を伸ばして会場を静まらせた。レオンが腕を組んでずっとその場から微動だにしていなかったため、会場はすぐに静まった。
「ルード及びオルド軍の撃破、覇国との戦いで撤退していた私への素早い援軍。これより、シメオン侯爵家はシメオン公爵へと陞爵する。領土はシメオンの旧領の一部を復帰させる」
「ああ」
レイジは笑いながら答えた後に、ゆっくりと自分の立ち位置に戻った。レイジは戻る際に、レオンを見るとレオンもまたレイジを見ており視線が交差した。
その場にいた、貴族は2人の気迫に息を呑んだ。それを遮るかのようにカインが声を出した。
「最後に、レオン・ブレイド侯爵」
カインがレオンの名前を呼ぶと、先にレオンが視線を外した。
「はっ!」
レイジとは、打って違いカインの呼び掛けに答えてから歩き始めてカインの前へと立った。
「ケルドの占領及び、数倍の王国軍の侵略を退けた。そなたの功績を称して、ブレイド侯爵家は公爵家とする。領地はこれより、ルードの中央を任せる」
「ありがたき幸せでございます皇王陛下」
レオンは臣下の令をした。会場は拍手の嵐が巻き起こった。拍手が収まり出すと、レオンはゆっくりと自分の立ち位置に戻った。
「諸君よ。くれぐれも統治で不正がないようにな。奴隷だけは断じて許さん。以上だ、本日はこれにて解散とする」
カインが号令すると貴族たちは膝をついた。カインは堂々と中央の道を歩いて行った。その後ろにレオンとレイジが並んで後を追った。




