第65話
「仕事を増やすんじゃねえ!!」
カインの執務室から、レイジの大きな叫び声がブレイブ城の中をこだました。
「いやー、まさか俺もこんな事になるなんて思ってなくてさ」
レイジに睨みつけられたカインは視線を逸らして窓から食料を貪るグリフォンで溢れかえっている城の中庭を見た。
「お前のせいで城にあった食糧がほとんど無くなって、使用人から俺たちまでここ数日、この豆、硬い非常食のパンと具なしスープしか食べてないんだぞ?」
レイジは執務室の机に並んでいる3人分の寂しい料理が並んでいた。レイジは文句を言いながらそれを食べていた。
「はあー、一難去ってまた一難。ゆっくりする暇もねえ。お前は大人しくできねぇのか?」
レイジは自分の皿の豆を一つ一つをスプーンで取って、スープにつけたあとに食べるを繰り返した。そして、カインに渡されたグリフォンの食費による紙を見て顔を歪めた。
「俺は旧覇国派領土の抵抗軍の支援に忙しい。だから、この食糧事情はお前が何とかしろ」
覇国軍が旧覇国派領を占拠したのちに、占領地全てに例外なく人族と人族のハーフを対象とした人族奴隷化政策を開始した。それに反発した村や街が反発して、それが元となり抵抗軍が形成された。
抵抗軍は旧ホエイを本営としている。抵抗軍のリーダーはホエイの元主人が仕切っている。エルナーとマドナの君主は互いに戦死をして、一族郎党は覇国に処刑された。
そんな中、いち早く軍を撤退したホエイ軍は降れば、マドナとエルナーのように処刑されると考え必至に対抗している。しかし、徐々に形勢は悪くなり、組織的抵抗がかろうじでできるぐらいとなっている。
皇国として、これを支援することによりさまざまな恩恵があるため、直接的に支援を行なっていた。
レイジは紙をカインに戻すと、再び食事を始めた。
「おい。お前なら二つ同時にできるだろ?」
「………」
カインの質問にレイジは答えずじっと自分の皿に置いてある最後の豆を見ていた。
「おい、何とか言いやがれ。こうなったら、そこにある最後の豆は俺がいただく」
すでに食べきったカインは素早くスプーンをレイジの皿に伸ばした。レイジはカインの行動に素早く対応し、カインのスプーンを自分のスプーンで弾いた。
「てめぇ、ふざけんな。これは俺のもんだ。そして、それはてめえが解決しやがれ」
レイジとカインは豆を巡る激しい攻防が始まった。しばらくは拮抗していたが、徐々にレイジが優勢となっていった。
「お前、大したことねぇな。このままこいつは俺がいただくぞ」
レイジは攻撃の手が緩んだカインを煽った。カインは机の上に置いてある箸を持つと、そのままレイジの皿の豆をつまんだ。
「おいおい。油断は命取りだぜ?」
カインは誇らしげにつまんだ豆を掲げていた。
カインは豆を食べようとすると背後から突然豆を奪われた。
「まったく、二人して何してるだよ」
レオンは呆れた顔で笑いながら、箸でカインとレイジが争っていた豆をつまんでいた。
「レオン。よくやった。そいつは俺の豆だ。返してくれ」
レイジは嬉しそうにレオンに向かって、スプーンを向けた。カインもレイジに対抗してスプーンを差し出した。
「なに言ってやがる。俺が取ったんだ俺の豆だ」
レオンはしばらく迷うと摘んでいた豆を自分で食べた。
「「ああっーーー」」
レイジとカインは同時に叫びながら指を指した。レオンはそんな二人を気にすることなく座って、誰も手をつけていない料理を手につけた。
「喧嘩両成敗だね」
レオンが食事をしているとカインとレイジは顔を見合わせて、レオンの食事に向けてスプーンを伸ばした。しかし、レオンは二人のスプーンを箸一本でいとも簡単に撃退した。
「くそ、相変わらずバケモンだ」
「触れることすらできねぇ」
カインとレイジは互いに感想を言った後に顔を見合わせた。二人は動き回ってあらゆる攻撃を仕掛けたが、レオンは難なく凌いだ。その上で、落ち着いて食事をしていた。
「もう、やめだやめだ」
レイジは勝てないと諦めソファーで横になって、葉巻を吸い始めた。カインはレイジが諦めた後も必死にレオンの豆を奪おうとしていた。
「おまえ、そんな余力あるなら。これをしろ」
レイジは起き上がって諦めないカインの胸に、先ほどの紙を叩きつけてそのままカインを押し倒した。
「そうだ。レオンお前が」
カインはレオンの顔をを見て、ふと気づいたかのようにレオンに指を差した。
「そういえば、カイン。ヴァイスとカールの事忘れてたよね?」
レオンはカインに笑いかけると、カインは伸ばした指はを徐々に縮こまらせていった。
「えっ? いや………、もちろん忘れてないさ」
カインはレオンの問いに徐々に視線を逸らしながら答えた。
「森においてかれたんだって、カインはグリフォンに乗って帰ってきたけど、彼らは……」
カインは全身に汗をかいて、明明後日の方角を見ていた。レイジは頭を抑えて呆れた顔でカインを見ていた。
「どうりでお前と一緒に行ったあいつらを最近見てなかったわけだ」
レイジは扉の方に立っている二人に指を差した。カインはレイジが差した方を見ると置いていったカールとヴァイスがやつれた顔で立っていた。
この二人は原初の森から歩いて帰ってきただけでなく、帰ってきてもまともな食事が食べれないことで完全に疲弊しきっていた。
「ひどいですよ。私たち、あの後、どうなったと思ってるんですか!」
カールがふらふらとカインに詰め寄ると、カインはゆっくりと後退した。
「あっ、カールにヴァイス。無事だったか」
カインは気まずそうに二人に向かって言葉を投げかけた。
「はい。置いてかれるのをしっかりと目に焼き付けました」
ヴァイスの皮肉にカインは黙りこくった。そして、視線を逸らした先に食料問題についての書類を見つけると、嬉しそうな顔でヴァイスを見た。
「そうだ。ヴァイス、挽回したいと言ってたよな?」
「えっ? それはそうですが………」
ヴァイスは嫌な予感を感じとり、若干顔を引き攣らせながら満面の笑みで見つめてくるカインを見た。
「よしなら、チャンスをやろう。これを解決してこい。そしたら、考えてやらんでも無い」
カインは自分の提案に満足したように頷いた。それでも、納得してなさそうなヴァイスを見て、両肩を叩いた。
「俺はそのことについて話すなとは言ったが俺は許すとは言ってない。さぁ、解決してこい。そうだな。カールも補佐としてつけてやるから」
カールはカインの言葉に嬉しそうに頷くと、ヴァイスが持っていた食糧問題の書類を捲り始めた。
カールの反応に全員があっけに取られた。カールはそんな視線に気が付かずに嬉しそうにしていた。そして、ヴァイスはすぐにカインに向き直った。
「ですが、置いてかれたのとは」
ヴァイスはカインに抗議をしようとしたが、カインはヴァイスとカールを方向転換させて、部屋の外へと追いやった。
「よし、それ以上はここで喋るな。後で話そう」
ヴァイスは抗議しようとしたが、カインの後ろにいる女性に恐怖を感じて、そのまま黙って部屋の外へと出ていった。
カインは後ろを振り向くといつもの笑顔でメアリーが立っていた。
「えっとな、メアリー。これはだな……、どこから見てた? 」
カインは言い訳を言おうとしたが見つからなかった。
「豆の見苦しい戦いからですかね。そのおかげで、私達が部屋の掃除をすることになるのですが」
メアリーは困った顔で汚くなった部屋を見回したあと、そのあとで、カインとレイジを見た。レイジは驚いた顔で自分に向かって指を差した。
「おい待て。俺もか?」
メアリーはいつも通り笑顔でレイジを見ていると、レイジはため息をついてカインを睨みつけた。
「お前が大人しく譲ればよかったんだ」
カインはレイジを睨みつけに対して自信満々に胸を張って答えた。
「何言ってやがる。元はと言えば、全部お前のせいだろ?」
レイジは呆れた声で、両手を上げながら首を振った。
「なんだと? 俺はこの国の王だぞ」
「なら、俺はお前の義兄だぞ」
二人は睨み合いをした後に、同時に鼻を鳴らして視線を逸らした。
「うるさいですよ。ついてきてください」
メアリーは淡々たした声で二人を呼んだ。
二人は一斉にレオンの方を見ると、レオンは笑顔で二人に向かって手を振っていた。レオンの反応に二人は肩を落として、重い足取りでメアリーの後を追った。
3人が中庭の近くを通りかかるとカインは中庭で騒ぎが起きているのを見つけた。
「あっ、見ろ。グリフォンと乱闘してる奴らがいるぞ。腹が減って困ってるのは俺たちだけじゃ無いみたいだな」
カインは嬉しそうにしながら、中庭でグリフォン達と乱闘している集団を指さした。
「あれは………」
レイジが目を凝らして見ると、グリフォンの長とガイルが中央で体をぶつけ合っている姿をとらえた。
「テメェの大鷲の剣じゃねぇか! お前だけじゃなくてお前が選んだ人材も問題しか起こさねぇのか?」
レイジはカインの頭を叩いて、元気満々にグリフォンと戦う大鷲の剣を指差した。カインは少し考えて、レイジの肩に手を置いて、レイジの耳元に囁いた。
「おい。よく考えろレイジ。そもそもグリフォンのせいで腹が空いてるんだ。あいつらが食べてるのは今頃、俺たちの腹に入ってるはずのものだろ。なら、俺たちが奪うのではなく奪われたんだ。それに俺たちが勝てばあの飯は俺らのもんだ」
レイジは、グリフォンの足元に転がっている肉を見て、涎を垂らした。
二人は互いに視線を合わせて頷くと、メアリーがある程度離れた瞬間に中庭へと走り出した。
「「俺らも混ぜやがれ!」」
カインとレイジが走り出すと二人の足元にナイフが突き刺さった。二人はぎこちなく振り向くとナイフを構えて仁王立ちしているメアリーを見た。
「な、に、を、してるんですか? 早く、戻ってきてください。それとも、説教を追加されたいのですか?」
メアリーは凍てついた笑顔で二人の事を見つめていた。二人は顔を見合わせた後に、素早く同時に頭を下げた。
「「はい、すみませんでした」」
二人は恐る恐るメアリーの元に戻り、当たり前のように地べたに座った後、メアリーに引き摺られていった。
その後、グリフォンと戦っていたガイル達はグランツがレオンに通報したことにより、ヘルト軍が動く大騒動となった。
今回の首謀者であったガイルは理由を聞かれた際に、「新人教育の一環だ。俺は何も悪く無いぞ」と騒いでいるのを見たレオンは笑い、グランツは頭を抱えていた。




