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第63話

 小粒の雨が静かに降る中、ガイルはブレイブ城裏の墓地にある一つの墓前で座っていた。


 ブレイブ城の裏にある墓地は功績が認められた者をこの墓地で墓を建てることとなっている。


「俺を置いて勝手に死んじまいやがって」


 ガイルはゴロスと書かれている墓の前にボロボロな木のお椀を置いた。


「これは俺とお前で仲直りの水を飲んだ時のお椀だ。確か、あの時も雨が降っていたな」


 ガイルとゴロスが初め会った時、ゴロスはガイルの夢を無理だと馬鹿にしている集団の筆頭だった。しかし、ある土砂降りの雨の日の勝負に負けて以来、ゴロスはガイルの強さに感服し、夢を応援する立場となった。


 そのときに、ガイルとゴロスはブレイブの裏路地で生活していたため、お金が無かった。そこで、二人は仲直りの証としてこのお椀を掲げて雨水を集めて二人で飲んだ。


 ガイルはある程度お椀に水が溜まるとそれを口の中に流し込んで飲み干すとお椀を供物台に置いて立ち上がった。


「お前の夢は必ず叶えてやる。だから、そこで安心して眠ってろ」


 ガイルは笑いながら立ち上がると、ゴロスの墓に向かって拳を突き出した。ガイルは突き出した拳を下ろした。


「なんだ、来てやがったのか」


 ガイルは振り返ることなく感覚でカインとレオンがいることに気がついた。声をかけられた二人は顔を見合わせながら笑った。


「ああ」

「もちろん」


 当たり前だという二人の返答を聞いてガイルは少し嬉しそうにゴロスの墓を流し見た。


「もし、お前らが俺に話しかけてきてなかったら今ごよこいつとスラムの奴等を束ねて生きてたかもな」


 ガイルが笑っていたがカインは渋い顔をした。それに気づいたガイルはカインの肩を叩いた。


「気にするな。こいつも、俺も、大鷲の剣の奴らも、裏路地でギリギリの生活をしてた。もしかしたら、こんな感じに埋葬できずに裏路地にそのまま捨ててただけかも知れねぇ」

「そうか」


 ガイルはゴロスの墓を見て嬉しそうに笑っていた。カインはガイルの話を聞いて、安心した顔で笑った。カインは持ってきたエーデルワイスをゴロスの墓の供物台に置いた。


「お前の勇気を讃えて、この勇者の花を。いつか、このブレイブもハイレンのようなスラムの無い街にすると誓おう」


 初代勇者ハヤトは魔王討伐の功績により、世界の全てを支配していた統一帝国からこの土地を安堵された。ハヤトはハイレン・シメオンと違って統治が上手ではなかった。


 その結果、ブレイブには幾つかのスラムができてしまった。


 カインはしばらく墓を見て立ち尽くした。そして、ゆっくりと振り返りゴロスの墓を後にした。レオンは墓に深く一礼してから、ガイルは何も言わずにカインの後を追った。




「ゴロス。こいつを大鷲の剣で鍛えてやれ」


 カイン達は訓練所に着くと一人の獣人の少年が立っていた。


「こいつは?」


 ガイルは少年に指を指すと、首を傾げた。少年は背筋を正して大きな声で答えた。


「ヘルメン・マドナです。よろしくお願いします!」


 ガイルはゴロスが馬を託した少年がいると聞いていて興味を持っていた。


 ガイルはヘルメンの瞳を覗き込むと、ヘルメンの力強い瞳に満足したように頷いた。


 カインはヘルメンを見て嬉しそうなガイルを見て自然と口元を綻ばせた。


「俺に威圧されて目を閉じずに見返すか気に入った。着いてこい。まずはお前の武器を選ぶぞ」

「はいっ!!」


 ガイルはヘルメンを連れて武器庫へと向かった。ガイルは墓地から出た時よりも足取りは軽かった。ヘルメンの尻尾は左右に大きく揺れ動いていた。


 カインとレオンは嬉しそうな二人を見送ったあと、ブレイブ城の地下にある勇者の墓へと足をすすめた。二人は勇者ハヤトを中心にした墓の一番外の墓の前に立った。


 そこにはウォード・フォルテと書かれた墓が建てられていた。


「ウォード、小さい頃からここまで本当に色々教わった、怒られもした。それでも楽しかった、ありがとう」


 カインは顔に涙を浮かべながらウォードの墓に感謝を伝えた。そして、すぐに勇者の墓から走って立ち去った。


 レオンは走り去るカインを止めずに見送るとゆっくりとウォードの墓へと向き直った。


「ウォード将軍。いや、お義父様、お世話になりました。父上に代わり、私とメアリーを育てていただき大変感謝しております。見ていてくださいこれからも貴方に胸張って自分のした事を言えるような人間になります」


 レオンは二つの木剣をウォードの墓に置いて最敬礼すると、入口から袋を抱えたレイジが勇者の墓に入ってきた。


「あれ、ウォード将軍は嫌いじゃなかったかい?」

「ああ、あんな手紙を毎日毎日送ってきやがるからな。だがな、俺はこういうのに公私混同しない。名誉あるものが死んだんだそれを惜しむのは当たり前だ」


 レイジはウォード将軍の墓の前に座ると、大きな袋をウォード将軍の供物代においた。


「将軍、お前こ手紙は正直に言うと凄えうざかった。めんどくさくて手紙を返さなかったら。返事を書け、反省しとるのか。もう、うんざりだった」


 レイジはめんどくさそうな顔をしながら首を振りながら頭を抑えた。


「だけどよ。貴方の忠誠に、誇りに俺は尊敬する。だから、俺は全ての手紙の返事を書いたから、しっかり読んどけ」


 レイジはウォードの墓に指を指した。レオンはレイジの宣言に驚いた顔をしてレイジを見た。


「驚いたよ。あの手紙を全部見てたんだ」

「ああ」


 レイジは引き攣った顔で笑って答えた。レオンとレイジは勇者の墓で二人仲良くウォードについての会話を始めた。




 カインは執務室で未開封のウォードの手紙を読んでいた。ひとりの兵士が執務室の扉の前で声を出した。


「皇王陛下! ウォード将軍の屋敷を整理していると、陛下宛にと書かれた手紙が見つかりました」


 カインは内心驚きつつも口には出さずにゆっくりと落ち着いて部屋の外に出た。兵士はすぐに頭を下げて一つの手紙をカインに差し出した。


「ご苦労だったな。下がっていいぞ」

「はっ!」


 手紙を届けた兵士はすぐにその場を後にした。カインは執務室に戻ると手紙を読んだ。


「ああ、わかった。ウォード、ゴロス、俺はこれからも進む。だから、そこで見ていて俺たちの偉業を!」


 カインはウォードの手紙を置いて、空へと手を伸ばした。手紙には大きな文字で『立ち止まらず進め』と書いてあった。

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