第48話
夕刻のブレイブ城――。
城内の会議室で、カインは次々と届けられる報告に耳を傾けていた。
「レイジ様が、ルードと帝国の連合軍を撃退いたしました」
最初に飛び込んできたのは、レイジ勝利の報せだった。
その場にいた者たちは一斉に歓声を上げる。
「「おおっ!」」」
手を叩き、口々に称賛の言葉が飛び交った。
「さすがはレイジ様だ。私の武器調達が功を奏しましたな」
「前半は同意いたしますが、功績の大半は私の補給計画でしょう」
互いに自分の手柄を主張し合う貴族たち。
カインは小さく息を吐いたが、表情には出さなかった。
――次の報告が来る。
報告に立った兵士の様子から、カインは嫌な予感を覚えた。
「ご報告申し上げます。先日、オルド軍とヴァイス軍が交戦。皇国軍は敗退……殿を務めたウォード将軍が、戦死いたしました」
「……何だと」
椅子が大きな音を立てた。
カインが勢いよく立ち上がる。
「それは、本当か」
兵士は目を逸らさず、静かに頷いた。
その瞬間、カインの力が抜けた。
ゆっくりと椅子に腰を落とす。
最後に見たウォードの背中が脳裏に浮かんだ。
貴族たちは顔を見合わせ、青ざめる。
兵士は一度息を整え、報告を続けた。
「さらに、帝国国境付近に展開していた王国軍が、カウダ砦へ侵攻を開始。加えて、覇国がルーデンス地方へ兵を進めております。覇国派諸国より援軍要請が届いております」
室内の空気が凍りついた。
先ほどまで喧騒に包まれていた会議室は、水を打ったように静まり返る。
やがて、不安が溢れ出す。
「これは……まずいのではないか?」
「皇国と名乗ったことが刺激になったのでは?」
「三強国に並ぶなど、無理だったのだ」
誰もがカインの顔色を窺った。
彼が反応を示したのは、ウォードの報告だけだった。
「ひとまず軍を戻すべきですな」
「援軍など出さず、戦力を整えるべきです」
進言が飛ぶ。
その中で、カインは静かに口を開いた。
「軍を戻す必要はない」
一瞬の間。
「援軍は出す。そして――俺が率いる」
空気が張り詰める。
ケイレブが立ち上がった。
「危険でございます。どうか再考を」
カインはゆっくりと首を振る。
「止めても行く」
その目を見て、ケイレブは悟った。
「……承知いたしました」
貴族たちは沈黙する。
「本日の会議はこれまでとする。出陣については追って伝える」
カインは立ち上がり、会議室を後にした。
◆ ◆ ◆
自室に戻ると、扉を閉めた瞬間、力が抜けた。
ベッドに身を投げ出す。
「ウォード……」
天井を見つめる。
「俺は、お前に何も言えていない。礼も、感謝も……」
視界が滲む。
「ヴァイスではなく……お前に任せていれば、違ったのか?」
選択を誤ったのは、自分だ。
経験の浅い指揮官を避けるべきだと分かっていたのに、感情で決めた。
拳を握り締める。
そのとき、扉がノックされた。
「カイン様。ルーナです。入ってもよろしいでしょうか?」
優しい声。
カインは涙を拭い、明るく答えた。
「ああ、大丈夫だ。少し散らかっている。明日にしてくれ」
「……そうですか」
残念そうな声。
安堵しかけた、その瞬間――
扉が開いた。
「なっ……!」
ルーナが入ってくる。
「やはり、大丈夫ではありませんね」
静かな声。
カインの頬を伝う涙を見ていた。
立ち上がろうとするが、ルーナに制される。
「横になってください」
「ああ……」
ルーナは隣に座り、ハンカチで涙を拭う。
「カイン様。もう少し、私を頼っていただけませんか?」
上目遣い。
「私は、頼りないでしょうか?」
「いや……そんなことはない」
真っ赤になるカイン。
ルーナはじっと見つめる。
「最初にお会いした時のこと、覚えていませんね?」
耳元で囁かれる。
「な、なぜそれを」
「メアリーから聞きました」
「レオン……あの野郎」
「では、本当に覚えていなかったのですね」
にこりと微笑む。
だがその笑顔の奥に、わずかな圧があった。
「……そうです」
冷や汗をかくカイン。
「では、私が教えて差し上げます」
「お願いします」
ルーナは静かに語り始めた。
――二人が初めて会ったあの日のことを。
次回は、ルーナとカインの出会いについて書きます。本当はもう少し早く出す予定でした。
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