第42話
レオンはケルド軍が出陣せずに街に篭っていた。兵数はヘルト軍が2500なのに対して、ケルド軍はセルパン渓谷の守備である1500以外の3500が首都ケルドルクに篭っていた。
レオン軍は街は包囲せず、近くに陣を張って睨み合いをおこなっていた。
レオン軍が会議を行なっているテントの中に伝令が駆け込んだ。
「伝令です。レイジ軍はルードを破りました。しかし、中央軍にて戦いがありました。敗戦濃厚となり、撤退をしたところ、ウォード将軍が殿を務め、せ……戦死いたしました」
「そんなばかな」
「本当なのか?」
「あの、ウォード将軍だぞ」
伝令の報告を受けて会議をしていた者たちがどよめいた。口々に騒ぎ出した。全員が最初の吉報よりも後の凶報だけが頭に入った。
そこに、新たな伝令が飛び込んできた。
「ご報告申し上げます。お、王国がセルパン渓谷に進軍を開始いたしました」
「なっ! 王国は帝国と睨み合いをしていたのではないのか?」
「まずいです。王国がこのルーデンスに流れ込んで来れば」
新たな報告により、さらに会議は混乱した。口々に色々な言葉を交わしていた。
そんな中、レオンとその隣にいるグラズガだけは反応を示さないでいた。
「静まれ」
レオンは机を叩いた。その場にいたものは全員驚いてレオンに注目した。温厚で情に熱いレオンが机を叩いて、鋭い目で全員を見渡したからである。
「ウォード将軍の死は残念だ、王国の動きも驚くものがある。だが、我々はやらなければいけない事がある」
レオンの言葉に全員は自分達は今敵地であることや、レイジ軍の勝利についてなど考えることがある事に気がついた。
「これは一旦、レイジ軍と合流して侵攻してきた王国軍を撃退するべきです」
「それではケルドが追撃してくるかもしれません」
「そもそも、敵軍はケルドではなくすでに王国に変わりつつあります。ケルドなんぞすでに考えるべきではありません」
「レオン殿、どう致すのですか?」
会議にいる者達は気持ちを整えて、口々に今後の対応について意見を出し始めた。諸将は最終的にレオンに判断を仰いだ。
「我々だけでケルドを落とす。そして、この軍勢で急いでセルパン渓谷のカウダ砦に援軍として向かう」
レオンは堂々と現実的ではない事を言った。グラズガはレオンの隣で目を見開いて見ていた。
「それはなりません。我々が言ったところで何も変わりませんよ」
「そもそも、我々だけでケルドルクを落とすのが無茶です」
一斉にレオンの作戦に反対をした。それぞれができるわけがないと思った。レオンは後ろを振り向いて、目を見開いているグラズガを見て綻ぶように笑った。
そのあと、前に向いてこの場にいる全員に作戦の説明をした。説明を聞いたものは全員反論するのをやめて息を呑んだ。
その日の夜になるとヘルト軍は動き出した。一斉に銅鑼を持ってケルドルクを囲んだ。
「いまだ。鳴らせ」
レオンの号令と共にケルドルクにはドラの音が響き渡った。
「敵襲だっ!!」
「敵が攻めてくるぞ」
ケルドルクの城壁と町の中ではドラの音に叩き起こされてすぐに防御体制を作った。しかし、敵は攻めてこなかった。
ヘルト軍は数日の間それを続けた。それにより、ケルド軍は徐々に反応の遅れや攻めてこない脅しだと感じ始めていた。
「来る日も来る日も賑やかだな。もはや、合唱部隊に見えてきたぞ」
「全くだ。毎日あっちは大変だな」
ケルドルクの兵士には、危機感が欠如し始めていた。しかし、そんな中でも場内でずっと警戒を怠らなかったものがいた。
「フェイ様、今回もどうせドラが鳴ってるだけですよ。毎日、ドラが鳴るたびにそんな警戒してたら身が持ちません。お休みください」
一人の鎧を着た人物がフェイに膝をついて隣でずっと警告をしていた。
「だ、だが、今日は本当に攻めてくるかもしれないだろクロッツ」
フェイの目は真っ赤になっており、目元にははっきりとクマができていた。
「いい加減にしてください。そんなことを言ってここ4日寝ていないではないですか」
クロッツと呼ばれた男も少しやつれた顔をしていた。フェイはクロッツを睨みつけた。
「うるさいぞ。私も寝れるものならそうしているわ。このドラの音がまるで私に終わりを告げる音に聞こえて仕方がないのだ。それだけではない、王国まで来ているのだぞ。気が気で仕方がないのだ」
「フェイ様……」
クロッツは心配そうな顔をして、フェイを見た。クロッツがフェイの肩を叩こうとすると、大声が響き渡った。
「敵襲だー。起きろー。敵が攻めてくるぞ」
「ほ、ほら。攻めてきたぞ」
クロッツはフェイが怯えた声だが、少しだけ自慢げに胸を張るフェイにため息をついた。
「また、ドラが鳴ってるだけですよ」
「だが、いつもならここまで響くドラの音が聞こえていないぞ」
クロッツは耳を澄まして音を聞き取ろうとしたがドラの音が一切しないことにはっと気がついた。
「なっ! まずい。フェイ様今すぐ城壁に向かい指揮をお取りください」
クロッツはすぐに指揮するようにフェイに頼んだ。
「ああ、そうするよ」
フェイはよろよろと立ち上がり、クロッツに支えてもらいながら敵が来た方へと向かった。
クロッツとフェイが城壁に向かっていると走って本邸に向かう兵士に出会った。
「フェイ様、ほとんどの兵士はいつもの嫌がらせだと思いなかなか起きなかった為、急に攻撃してきたヘルト軍に対抗することもなく城壁を越えられました。今すでにヘルト軍がすぐそこまで迫っております」
フェイは息を吸った後に、息を吐いた。
「そうか。ならば、降伏しよう。私はもう疲れた」
しばらくすると、ヘルト軍がすぐにその場に到着した。
「我が名はレオン・ブレイド。フェイ・ケルドはどこにいる?」
フェイはレオンの前に出て膝をついた。
「私です。これよりフェイ・ケルドはヘルト皇国に全面降伏いたします」
「わかった。皆のもの勝鬨をあげよ」
「「「うぉーーーー」」」
ヘルト軍はたった4日にして寡兵でケルドルクを落とした。そして、次の日にケルドルクを出発した。




