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第41話

 ウォードは先陣を切り、オルド軍に向かって駆け出した。殿として残ったヘルト軍は誰一人臆すことなく全力で敵軍に目掛けて走り出した。


「「「ヘルト皇国に栄光あれっーーー!!」」」


 掛け声を打合せしていたわけでもなく全員が同じ言葉を叫んでオルド軍に突撃した。


 オルド軍は足止めだと思っていた部隊が勇猛果敢に突撃をしてくるヘルト軍に虚をつかれた。そして、恐怖を覚えた。なぜなら、ヘルト軍は諦めるどころか笑いながらオルド軍に突撃しているからだ。


「足止め? そんなわけなかろう。狙うはライター・オルドの首ただ一つ。このまま敵陣を突っ切るぞ」


 ウォードは先頭で剣を掲げた。一瞬だけ、ウォードの気迫により、この場にあるものが全員、ウォードの掲げる剣が光ったように感じた。


 一同は息を飲み込みウォードを見て静まり返った。ウォードはこの一瞬で敵軍を見渡して、強襲部隊が左に多い事を確認した後、敵の左側に向けて剣を指した。


「「「うぉっーーーー」」」


 ヘルト軍殿部隊は一斉に声を上げた。そして、ウォードが指した方向に向かって進み始めた。


「カイン様……」


 ウォードは敵陣を進みながら、カインとの思い出を回想していた。




「ウォード。肩車してよ」


 ウォードに向かって小さな少年が走り寄ってきた。ウォードは嬉しそうに少年の頭を撫でた。


「しょうがありませんな。カイン様」


 ウォードは幼きカインを肩に乗せて肩車をした。カインはウォードの肩の上ではしゃぎ始めた。


「たかいー。たかいー」

「これこれ。危ないですよ」

「大丈夫。大丈夫」


 ウォードはカインを注意していたがその顔はとても嬉しそうにしていた。カインはバランスを崩して慌ててウォードの額に捕まった。


「ほら。危ないじゃありませんか」


 ウォードはにこやかに笑いながら、カインをゆっくりと降ろした。


「ごめんなさい」


 カインは俯いてウォードに誤った。ウォードは笑みを浮かべて頭を撫でた。


「ええ。誰でも間違うことはあります。ですが、次に同じ間違いをしなければいいのです」

「うん」


 カインはウォードの言葉を聞いて、嬉しそうに頷いた。ウォードはそんなカインを再び撫でた。


 カインとウォードはそのあと手を繋ぎながら、ブレイブ城内を歩いていた。


「ねぇ。ウォード」


 カインは急に顔をあげてウォードの顔を見た。ウォードはすぐに腰を下ろしてカインの目線に合わせた。


「なんでしょうか? カイン様」

「さっき触った時、ウォードの頭にコブが二つあったでしょ。痛くなかった?」


 カインは少し気まずそうにウォードの顔を見た。ウォードは心打たれたかのように目尻に涙を浮かべた。


「カイン様。その他者を想う気持ちは必ず君主となってもお忘れにならないでください。そして、これはヘクスネーソス連邦に行って自分で見てきてください。さすれば、わかるでしょう」


「わかった。ウォードのそのコブ直せるようにするね」


「はっはっはっ、これは我々の誇りでもありますので取らなくて大丈夫ですよ。それよりも、最初に言ったことは約束ですよ」


「うん、絶対に守る約束。じゃあ、勇者の約束をしよう」


 カインはニコニコしながら、ウォードに向けて小さな小指を立てた。


「はっはっそうですな」


 ウォードは大きく笑った後にカインの小さな小指に小指を重ねた。


「ゆびきりげんまん〜」


 ウォードは楽しげに歌うカインを嬉しそうに見つめていた。


「〜ゆびきった」


 カインはとびっきりの笑顔でウォードを見た。そんなカインにウォードは笑顔で応えた。



 ウォードはオルド兵を倒しながら、顔をほころばせた。


「本当に本当に大きくなられましたな。カイン様」


 ウォードは目の前にいないカインに向かって思いを馳せた。



「接近戦をしても勝てないぞ。遠くから弓を放て」


 オルド軍は止まる気配のないヘルト軍に向かって距離を取って矢を放ち始めた。


「こんなもので、我々を止めれると思うなよ若造が」


 ヘルト軍は体に矢が刺さろうとも減速せずに、走り続けた。


「に、逃げろー。相手は鬼だ! 勝てるわけがない」


 ヘルト軍の迫力にオルド軍の一部は逃げ始めた。ヘルト軍は数を減らしながらもただ一直線に敵の本陣に進んだ。




「ライター様。ヘルト軍がすぐそこまで迫っております。ひとまずお逃げください」


 後方で軍を指揮しているライターの元に一人の伝令が走ってきた。


「なんだ? まだ止まらないのか?」

「それがすでにそこっ」


 ライターの前で話していた兵士の首が宙を待った。首を切った本人は血と水に濡れながら、体中に矢が刺さっていた。


「と、問おう。あなたの名前は?」

「ウォード・フォルテ」


 ウォードは老人とは思えない鬼のような眼光でライターを睨んだ。ライターはウォードから放たれる殺気に腰を抜かした。


 しかし、ウォードは一歩も動かなかった。そして、その場で崩れ落ちた。


 ライターはウォードが倒れた後もしばらく体を動けないでいた。


 ライターは立ち上がり、恐る恐ると死んだであろうウォードを通り過ぎて、自分の軍を見渡した。


 雨が振る中、ヘルト軍の屍よりも多くのオルド軍の屍が積み重なっていた。


 そんな中、ヘルト軍の死体はどれも安心したような顔をしていた。ウォードも同じく笑みをこぼしていた。


「ゼバルド様、今からそちらに向かいます。カイン様、立ち止まることなくこのままお進みください」


 ウォードは最後の力を振り絞り、ここにいない己の主人達に向かって呟いた。




「ウォード………」


 カインは雨降る空を執務室の窓から見上げながら小さくつぶやいた。

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