第40話
「どういうことだ? 攻撃を仕掛ける前に援軍に行った部隊の位置を確認した時、かなり遠くにいたではないか」
ヴァイスは攻撃する前にしっかりと援軍として送った部隊の位置がかなり遠いことを確認していた。もし、走ってくればかなりの疲労で闘うどころじゃないと考えていた。
「それが、敵は突如として防具を脱ぎ捨てて、武器だけを持ってこちらに全力で走ってきております。ものすごいスピードでしたので馬でなければ追いつかれていました」
伝令はあまりもの敵の気迫に怖気付いており、震えていた。
「まずい。このままだと我が部隊は総崩れだ。撤退する今すぐ撤退を開始しろ」
ヴァイスはすぐに撤退を指示した。しかし、ウォードは首を横に振った。
「無理だ。戦場で舞台とは急な方向転換は至難の業。それこそ私ですらやった事がない。ましてや敵と交戦している」
ヴァイスはウォードの返答を聞いて膝から崩れた。ヴァイスを見たウォードは意を決した顔をした。
「仕方ない。ヴァイス、お前は出来るだけ兵を纏めて最初の陣地に向かえ」
「ウォード、まさか……」
ヴァイスはウォードの発言にすべてを理解した。ヴァイスは最後まで言い切れないでいた。
「カール、ヴァイスの補佐を頼んだ」
躊躇っているヴァイスを他所にして、ウォードは連れてきたカールを呼んでヴァイスの補佐を頼んだ。
「ウォード将軍!!」
カールは名前を呼んだが、ウォードは手でカールの言おうとしたことを制した。
「撤退のドラを鳴らせ」
ウォードは隣にいた兵士に指示を出した。近くにいた兵士は慌ててドラへと駆け寄り、鳴らした。カールはすぐにヴァイスの元へと駆け寄り立ち上がらせた。
ウォードは立ち上がったヴァイスの方を向き肩に手を乗せた。
「ヴァイス、わかっただろう。お前は頭はいいが万能じゃない。すべて己でやろうとするな。もっとたくさんの人を頼れ。お前はこの戦争中に私に考えてることを教えてくれなかった。それは私ではなくてもいい。将来、腹の内を伝えれるような人間を作るのだ。孤高と孤独を間違えるな。何事も協力して行うのだ」
ウォードは言い切ると、大きな笑みを作って笑いかけた後に踵を返した。
ヴァイスはすぐに立ち上がりウォードを掴もうとしたがカールに阻まれた。カールをヴァイスが見ると、カールは泣きそうな顔で首を振った。
「ウォード、行かないでくれ。私が悪かったです。本当はレイジ殿とレオン殿と行った会議で何もできなかった事を悔やんでいたんです。だから、功を焦って、落ち着いて考えればよかったです。ごめんなさい。だから、戻ってきてください。もっと、私に教えてください」
ヴァイスは大声で泣いた。そして、今までウォードに黙っていたことをすべて打ち明けた。しかし、ウォードは決して振り返ることは無かった。
ヴァイスはカールに担がれて、抵抗をしたが常に鍛えているカールを振り解くことはできなかった。
ヘルト軍はドラが鳴るとすぐに撤退を開始した。しかし、敵から離れる前にオルドの強襲部隊がヘルト軍へと喰らいついた。
強襲により多くの兵が死んだヘルト軍はさらなる損害を出して離れることができたが、オルド軍の追跡が迫っていた。ウォードはヘルト軍の最後尾にいた。
「ウォード将軍、ご報告です。敵の追撃部隊がすぐそこまで迫っております」
ウォードは報告を聞いて目を閉じた。しばらく経った後にゆっくりと目を開いた。
「そうか。我々の逃げれた兵はどのくらいだ」
「今だとおよそ半数以下かと、死傷者は1500名以上、行方不明はおよそ500名ほどです」
ウォードは苦々しい顔をした後に一言だけ「わかった」と答えた。ウォードは直ぐに反転すると、後方にいた兵士が一斉に反転しその場に立ち止まった。
「すまないな。お前ら」
ウォードは残った兵士に謝罪をした。ここに残った兵士は数々の戦いをウォードと共にしたメンバーであった。そのため、残った兵士たちはほとんどが高齢だった。
「何言ってるんだ。これからは新たな世代。先先代の臣下である我々が残る必要もあるまい」
「その通りだ。我々は主君より生きすぎた。ここで主君の元へ向かおうではないか」
残った者は口々に思うことを言い出した。ここに残った者は誰も悲壮な顔はしておらず全員笑っていた。この光景を見てウォードは溢れんばかりの涙を流した。
「この馬鹿者どもが」
ウォードはすぐに涙を拭うと、潤んだ目でオルド軍を睨んだ。ウォードは大きく息を吸った。
「我が名はウォード・フォルテ。さぁ、かかってこい若造ども、我々が相手してやるぞ」
ウォードは目一杯に叫んだ。オルド軍はウォードの気迫に一瞬だけ立ち止まった。しかし、オルド軍はすぐにウォードの部隊に向かって突撃を開始した。
突撃してくる敵を見てウォードは静かに笑った。そして、戦場にひたひたと雨が降り始めた。
「ゼバルド様、カイン様にもう私はいなくても大丈夫でしょう。私もまもなくそちらへ参ります」




