第34話
ヘルト歴366年夏、カイン・ヘルトは君主の座に着くと共に、ヘルトをヘルト皇国と改名し、自らを初代皇王と名乗った。そして、その年の秋に、帝国派の国々へ侵攻を開始した。
帝国派の国々はこちらから進軍すると思っていてまさか進軍されるとは思っていなかった。
ヘルトが宣戦布告をした時に、帝国派の諸国はオルドに終結して、侵略する方法の作戦会議をしていた。
「ヘルトが進軍してきただと? 何処に?まさか我らケルドではあるまいな?」
猫背で痩せ細った男が驚いたように報告を聞いて、自国の心配をした。彼はケルドの君主であるフェイ・ケルドである。
フェイはこの中で最も立場が低い。帝国から最も遠いためである。しかし、この国にはアッパーガース山脈にあるセルパン渓谷がある。そのため、渓谷の入り口には帝国が莫大な費用を費やした砦がある。
王国としては落とすのに時間が掛かる、帝国との国境にも近いなどの理由があって攻撃をされていない。
「いいえ。ルードに向けてレイジ・シメオンが進軍してるそうです」
フェイは報告を聞くとすぐに席に座り、机の上に置いてあるコーヒーを飲み始めた。そのフェイの反応を睨みつけながらも、ルードの君主であるシュマン・ルードは深刻な顔をした。
「フェイ貴様も他人事ではないぞ。原初の森と帝国を繋ぐ街道はルードにしかない。ルードが落とされると貴様らも援軍などと言ってられる状況ではないぞ」
フェイは王国を抑えているのにも関わらず最も自分が不遇であることが気に食わず度々協力をしない。
「我々は、渓谷を抑えるので手一杯だ。御三方でどうにかしてくれ」
「貴様っ!」
シュマンはフェイに向かって殴りかかろうとした所をもう一人の人物に抑えられた。
彼はライター・オルドである。この中で最も若いが国力で言えば一番強い為、この3カ国の中では盟主の役割をしている。
「まぁ、落ち着け。フェイの言い分も一理ある。あそこが抜かれると王国の騎士団どもが乱入して、この平原は一瞬にして王国に占領されるぞ」
シュマンはライターには反抗できず悪態を突きながら席に座った。
「御託は終わったか?」
3人は声を聞くと同時に一斉に机の奥に構えている人物の方を見た。
「フレイ将軍、どうか我々をお助けいただけないでしょうか?」
フレイ将軍と言われたこの男はオパルス選帝侯の右腕である。全身に鎧を着込んでおり、顔までもヘルメットを被っている為、顔は全くわからない。
この中では立場が最も高い。この男がここを見捨てると言えば帝国はここから完全に手を引くことを示す。3人はフレイの方をずっと眺めていた。
「私は私の任務をするだけだ。今いるのは500程度の帝国軍しかいないがな」
シュマンとフェイは満面の笑みで喜びを表した。
「本当ですか。さすがフレイ将軍です」
「ありがとうございます」
二人は代わる代わるにフレイに感謝の言葉を述べていた。
「それでは私はルードへと向かう」
「フレイ将軍、ありがとうございます」
フレイは直ぐに会議室の外へと出ていった。シュマンはすぐにライターの方へと向いた。
ライターはシュマンのあからさまのアピールに思わず腹が立ったが、顔には出さないようにした。
「私も有事がなければ援軍を派遣しましょう」
「さすがはライター殿、助かります。私は忙しいのでこれで失礼させていただきます」
シュマンは嬉しそうにフレイについていった。フェイは安堵した顔をしてコーヒーを飲んでいた。
「フェイ殿、ゲルドが不安なのでしょう? 早く戻られてはいかがですかな?」
ライターはフェイの前に立ち、早く帰るように威圧した。フェイはすぐにたじろいだが、慌てて自分を取り繕った。
「ふん」
フェイはコーヒーを飲み切ると鼻を鳴らしてすぐに部屋の外へと出ていき、ケルドへと帰っていった。この日の会議はこれで解散となった。
数日後、ライターは執務室でヘルトがオルドにも進軍を開始したと言う報告を聞いた。
「まさか、同時進行してくるとはな。これは援軍を出している場合ではないな」
執務室にいるのは、ライターと赤ん坊を抱えた妻のローラ・オルドがいた。
「ここは大丈夫なのですか?」
ライターはローラの質問に苦い顔をして答えた。
「わからない。我々に向かってきている軍に勝っても、リードが落とされたらおしまいだ。だから、お前は帝国に亡命をしろ」
ライターは真剣な表情でローラに命令をした。ローラは泣きそうな顔で子供を抱き上げた。
「あなたもお逃げにならないのですか?」
「俺は君主だ。俺が一番に逃げ出したらダメなんだ」
ライターはこの足並みが全く揃わない3カ国では日が昇る勢いのヘルトに勝つことは出来ないと考えていた。また、フレイ将軍は帝国派を助けるとは言っていないのも気がかりの一つであった。
ライターはローラが抱えてる赤ん坊に近づいた。
「いいか、ドゥクス。お父さんとはお別れかもしれない。でもお父さんはどんなに離れていてもお前の事を愛してるからな」
ライターは言葉を投げかけた後、おでこにキスをした。その言葉を聞いてローラは泣き始めた。ライターは泣いているローラの背中をさすった。
「マルコはいるか?」
「はいここに」
ライターは大きな声で名前を呼ぶと鎧を着込んだ男が素早く部屋の中へと入ってきた。
「妻と我が子を無事に帝国のモリス家へ無事に届けてくれ」
ローラの生まれは帝国の貴族の一つであるモリス子爵の娘なので、ライターはそこならば受け入れてくれると考えていた。
ライターがマルコに命令するとマルコは驚いた顔をした後に、泣きながら答えた。
「私は貴方に最後までお供したいです」
ライターは首を横に振った。その後、鎧を着込んでいるマルコに向かって抱きつき、頭を撫でた。
「俺はお前が路地裏で暮らしているのを見て、俺の気まぐれで助けた。だが、今では弟も同然だ。これはお前にしか任せられない。だから、頼む」
「ひどいですよ。そんなことを言われては断ることができないですよ」
マルコとローラはその後、ここを出るための準備を始めた。一人、執務室に残されたライターはゆっくりと椅子に座って静かに泣き始めた。




