第2話 傭兵
二人は会議室へと入ったと同時に大きい歓声が会議室に響き渡った。
「カイン様、これよりどうしますか? このままでは奴の思惑通りです。そもそも軍部を一人も会議に呼ばないとは」
鎧を着込んだ筋肉質の老人が前に出てきて膝をついた。この老人はウォード将軍であり、ヘルト軍の最高責任者であり、この国では珍しい生粋の軍人貴族だ。
基本的にヘルトの軍人は平民からの志願者か、跡を継ぐことのできない貴族の次男以降で構成されている。
クラウスが国を治るようになってからは戦争をほとんどしなくなったことで、軍部は政治から遠ざけられるようになった。
「まぁ落ち着け、確かにやばい状況だ。しかし、焦っても意味はない。だがブルートさえ排除すれば、父上も考え直してくれるだろう」
「たしかに奴が邪魔者でしょう。しかし、どうやって奴を排除するのですか?」
「そこでだ、あいつを失脚させるために奴のや、……」
カインが続きを話そうとした瞬間にレオンがカインの口を抑え込んだ。カインはレオンを睨むが睨み返され、驚き狼狽した。
「ここから私が話そう。この密貿易の中身は奴隷だ。そもそも奴隷はこの国のヘルト四法では禁止されている。これはあからさまな国家反逆罪である」
この国では初代ハヤト・タカダ・ヘルトの決めたヘルト四法により禁止している奴隷を自分の領地へと入れ、それを秘密裏に売り捌いていた。
「そこで我々は密貿易の馬車を襲う。しかし、私や若様、君達が数日居なくなれば奴に勘付かれる。そこで信用できる傭兵を雇い、その者たちに密貿易の護衛をしてもらい襲わせるのが作戦だ」
その話を聞き、この場にいる者達は素晴らしい考えだ口々に俺を称賛した。その中で一人、手を高らかに挙げる少年がいた。
「では、私たちは何をすればよろしいでしょうか?」
彼の名前は、カール・サラオス子爵で、両親を早くに病で失い、若いながらも爵位を継いだ現在最年少の貴族だ。
「それでしたら、この後の戦争で活躍してもらいましょう」
レオンが軽くカインを見ながら言った。カインはレオンの意図を読み取り、全員に向けて話し始めた。
「そうだな。時間が惜しい。計画が成功した前提で話を進める。お前たちは軍の再編と鍛錬をやってもらいたい。俺らがこのままブルートを潰した後は、すぐに隣のルベンに攻撃を仕掛ける。その時までになるべく強い軍にしといてくれ。その管理をウォード将軍に頼む」
「かしこまりました。この老骨必ずやご期待に応えて見せましょう」
老将は膝をついて、意気揚々と応えた。
ウォードは若い頃から、侵略してくる他国と戦ってきた。そして、彼が指揮する軍は不敗を誇り、ルーデンス地方では堅牢のウォードと呼ばれている。
「ならばこれで本日は解散とする。軍の事はひとまずウォードに任せる。他のものもウォードの手伝いをしてくれ」
「「「はっ」」」
カインの命令にその場にいた全員が膝をついた。その後、カインとレオンは会議室を後にした。
空が朱色に染まり出した頃、二人は首都郊外の廃墟へと向かっていた。
「カイン」
「な…なんだ?」
カインは名前をよばれた瞬間にびくっと肩を震わした。そして、カインがゆっくりと振り向くと鋭い眼光でレオンがカインを睨みつけた。
「間違えてあの場で本当の作戦を話そうとしたでしょ? これを調べるのに僕がどれくらい手間暇かけたと思ってるんだい?」
「まあ、そこは……。あー、もう着いてしまったな。よし、あいつらを呼ぶぞ!」
カインは言い訳が思いつかなかった。このまま会話を続ければ説教が始まると感じすぐに話を切り替えた。
「はー。もう、しょうがないな」
俺の慌てた様子を見て、レオンは苦笑いしながら答えた。
「おい、仕事の時間だ!!」
カインの掛け声と共に夕日に照らされた廃墟の奥から武装した人間が50人くらい現れた。大剣を背負った大男がカインへと話しかけた。
「準備万端だ」
「ならいい、先に近くの森で潜伏していろ」
「おうよ。野郎ども準備しろ」
カインの返答を聞くと、大男は号令をかけた、他の傭兵は急いで準備を開始した。
「お前も参加するのか?」
大男は、首を傾げて質問した。この大男は、傭兵団『大鷲の剣』、団長のガイルだ。ガイルは、裏路地のガキ大将だった頃に、カインとレオンがお忍び下町にいた時に出会った。
その日、以降二人が下町に行った時に友人としてよく遊んでいた。
今は、カインに支援してもらった金で傭兵団をつくり、たまにカインからの依頼を直接こなしていた。
「ああ、あの害虫をこの手で潰してやりたいからな」
「カインは別に行かなくてもいいだろ」
カインが悪どい笑みを浮かべていると、レオンが呆れた顔でため息をついた。
「まぁいいだろ。そっちの方が楽しいんだから。さぁ、行くぞレオン準備しに行くぞ」
カインはまるで新品のおもちゃを与えられた子供みたいに笑い始め、ブレイブ城の方へと走り始めた。
「全くしょうがないな」
レオンは笑いながら走り過ぎ去るカインを見ながら暗い廃墟の中でため息を溢した。
「まぁ、いいじゃねぇかレオン。人は多い方が楽しいだろ」
ガイルはため息を吐くレオンの肩を叩きながら大きな声で笑い始めた。