第27話
王国の使者が去ってから数日後。
カインたちはルーナを伴い、シメオンからブレイブ城へと帰還した。
帰還と同時に、ブレイブ城では戴剣の儀が執り行われた。
戴剣の儀は、ブレイブ城地下――勇者の墓にて行われる。
「我がクラウス・ヘルトは、ここに宣言する。本日をもって隠居し、君主の座をカイン・ヘルトに譲る」
クラウスは墓の中央に刺さった聖剣を引き抜き、隣の鞘へと納めた。
そして、静かに跪くカインの前に立ち、聖剣を差し出した。
カインはそれを受け取ると、墓の中央へ進み、聖剣を高く掲げた。
暗い墓所は、聖剣の放つ光に照らされ、宝石のように輝き始める。
「これより我が国はヘルト皇国と名乗る。
私は初代皇王、カイン・ヘルトである」
カインは聖剣に誓い、宣言した。
「王国を倒し、帝国を倒し、覇国を倒す。
すべての国を征服し、勇者の理想のもと、
奴隷なき平等な世界を作り上げる」
「「「仰せのままに、皇王陛下」」」
集まっていた貴族たちは一斉に跪いた。
宮廷画家はこの瞬間を描き、
その絵に『戴剣の儀』と名を付けた。
画家の雅号はアルテ。
かつて『ヘルトの誓い』を描いた人物である。
◆ ◆ ◆
戴剣の儀が終わると、カイン・ヘルトは即座に結婚パーティーの準備に取り掛かった。
「この場で俺に挨拶した後、次はお前かレイジの元へ向かうだろう。
しっかり派閥を作ってくれ」
「まあ、自然とできるだろうから任せて」
レオンとレイジは、まだ爵位を継いではいない。
だが、皇王の側近であることは誰の目にも明らかだった。
戦勝会議だけを見れば、二人が親しいようには見えない。
だからこそ、国が大きくなれば権力争いが起きる――
そう考える貴族が出るのも当然だった。
「忠誠と欲望、どちらも欲しい人材だ」
「忠誠なら心当たりはあるね」
カインは貴族名簿を整理し、
レオンは警備体制の最終確認をしていた。
「忠義と努力だ。才能がなくても、努力する者は使う」
「カールをいきなり将にしたのは、厳しかったね」
「ああ、反省してる。副将から経験を積ませるべきだった」
カール・サラオスの報告書を見て、カインは苦い顔をした。
兵からは「途中から作戦成功が不安だった」という苦情も来ている。
「即戦力採用は控えよう。次も成功するとは限らん」
「そうなると、軍を指揮できるのは僕とレイジ、ウォードぐらいだね。
ガイルとグランツは別の役目があるし、
内政官もブルート派だ。改善が必要だ」
ヘルト皇国は、深刻な人材不足を抱えていた。
将来、三強国が同時に攻めてきた場合――
対応できる将が足りない。
さらに海に面しているため、海軍指揮官も必要になる。
カインは苦笑しながら書類を閉じた。
「人材不足は考えても仕方ないな。
そろそろ時間だ。俺はルーナの所へ行く。
レオンはレイジを手伝ってやってくれ」
「了解。警備はウォードに任せるよ」
カインはルーナの部屋の前で深呼吸し、ノックした。
「どうぞ」
扉を開けると、白を基調とした飾り気のないドレスを纏ったルーナが椅子に座っていた。
「どうですか? 似合っていますか」
その美しさに、カインは言葉を失った。
「ああ……月から来た女神だな。
勇者の名言で言うなら、月と亀――」
「本当ですか。ありがとうございます」
次の瞬間、背中に冷たい気配を感じる。
「あら。誰が亀なのでしょうか?」
隣に立つメアリーが微笑んでいた。
「い、いや、例えだ。最大級の賛辞だ」
「そうですか。今回は特別に見逃して差し上げましょう」
目は笑っていなかった。
「助かる……」
カインは苦笑しつつ、ルーナに手を差し伸べた。
「行こう。ちょうどいい時間だ」
「はい」
二人は手を取り、会場へ向かった。
パーティーは何事もなく、円満に進んだ。
◆ ◆ ◆
――レオンとレイジ――
謁見の間では、レイジが指示を飛ばしていた。
「この量、一人は無理だろ」
「終わったから手伝いに来たよ」
「聞いてくれ。カインに命令されて断れなかったんだ」
「はいはい。二人ならすぐ終わる」
準備はあっという間に完了した。
「レイジ、そろそろ貴族が来る」
「それで?」
「僕たちは、あえて離れよう」
レイジはすぐに理解した。
二人は別々の方向へ歩き、距離を取る。
貴族たちは、その光景を見て囁き始めた。
――あの二人、仲が悪いのではないか。
その噂こそが、二人の狙いだった。




