第26話
カインはすぐに起きると、全員を呼び集めて会議を始めた。
場に集まったのは、カイン、レオン、レイジ、ガイル、グランツの五人である。
オッタァとメアリーは、王国の使者をもてなす名目で時間稼ぎのため、すでに席を外していた。
「話せる時間は多くない。この使者の目的は何だと思う?」
カインは集まった面々を見回し、意見を求めた。
「王国派を倒したことへの因縁にしちゃ遅すぎる。もう一年は経ってるからな」
シメオン時代から王国と接点のあったレイジでも、狙いは読めなかった。
「婚姻の話は国内止まりだしね。仮に漏れていても、祝い目的って感じじゃない」
レオンも首をひねる。
カインはグランツとガイルの方を見た。
「怪しすぎるな。ひとまずぶっ飛ばすか?」
「馬鹿を言うな。今、王国と事を構えても勝ち目はない。……残念ながら、私もわからん」
ガイルは半分冗談、グランツは真顔で否定する。
ガイルに至っては、そもそも話を完全に理解していない様子だった。
カインは一瞬考え込んだが、すぐに結論を出した。
「本人に聞くのが一番早い。行くぞ、レオン」
「おいおい、ちょっと待て」
部屋を出ようとした瞬間、レイジに服を掴まれた。
「俺も行く。シメオンに関わる話かもしれねぇ」
「……確かにな。ついてこい」
カインは頷き、ガイルとグランツに指示を出す。
「二人は部屋の外で待機してくれ」
「任せとけ」
ガイルは胸を張り、グランツは静かに頷いた。
◆ ◆ ◆
使者の待つ部屋の扉を、カインは躊躇なく開けた。
「おや。ではまず、私から名乗らせていただきましょう。
リオネ王国のロシュ・クラークと申します」
「ご丁寧にどうも。私はカイン・ヘルトです」
ロシュ・クラークは整った顔立ちのエルフの青年だった。
エルフは王国南部の森林地帯に自治領を持ち、族長は公爵と同等、あるいはそれ以上の待遇を受けている。
王国とエルフ族は、古くから強い絆で結ばれていた。
「エルフ族で王国貴族とは、珍しいですね」
「ええ。私は自治領と隣接する土地を治めておりまして、王国とエルフの“玄関役”といったところでしょうか」
そう言ってロシュは頬をかいた後、大きく息を吸った。
「私は幼い頃に読んだ『英雄ハヤト』が大好きでして。
特に、勇者がグリフォンに乗る場面には心を打たれました。
その血を引くカイン殿にお会いできて光栄です。よろしければ聖剣を――」
目を輝かせ、距離を詰めてきたロシュを、レオンが一歩前に出て制した。
「あ……失礼しました」
「そう言っていただけるのは光栄です。ただ、聖剣は今は手元になく」
「それは残念です。では、本題に入りましょう」
ロシュは名残惜しそうにしながらも、すぐに切り替えた。
その様子を、レイジは無言で睨んでいた。
「王国と、密約を結びませんか」
「密約……とは?」
カインは内心で警戒を強めつつ、平静を装った。
「最近、帝国が新たな兵器を開発したとの情報がありまして」
「帝国の貫射弓以外にも、ですか」
カインは心中で舌打ちした。
「なぜ、その情報を我々ヘルトに?」
「王国は、あなた方によってこの地方から追い出されました。
だからこそ、ヘルトにルーデンスを制圧していただきたいのです」
ロシュは淡々と続ける。
「帝国や覇国にこの地を渡すわけにはいかない。
ですが今、ヘルトと戦って影響力を取り戻す余裕はありません」
あまりに率直な物言いに、カインは違和感を覚えた。
「……それで、我々に何を?」
「帝国派と戦う際、試作品が使われるでしょう。その情報を全て王国へ。
そして、覇国に問われた際には、虚偽の情報を流していただきたい」
「即答はできません。後日、書状で返答という形でも?」
ロシュは一瞬考え込み、すぐに頷いた。
「結構です。ただし、帝国派と事を構える前に」
「承知しました」
◆ ◆ ◆
会談を終え、カインたちはロシュを見送った。
途中、ロシュは足を止め、笛を吹いた。
しばらくして、空からペガサスが舞い降りてくる。
「見送り、感謝いたします。良い返事を期待しております」
そう言い残し、ロシュは空へと消えていった。
「あれが王国空軍……」
誰もが、遠ざかるペガサスを見つめていた。
「なぁ。俺、今回いらなかったんじゃねぇか」
レイジの言葉に返事はなかった。
「……それと、あのエルフ怪しすぎる。王国より、こっち寄りだ」
「勇者に心酔してたね」
「害がなけりゃ、今はいい」
三人はそれ以上語らず、城へと戻った。
◆ ◆ ◆
一方、ペガサスに乗るロシュ。
「あぁ……あれが勇者の一族……なんと素晴らしい……。
今度の集会で、皆様に自慢しなくては」
恍惚とした笑みを浮かべながら、ロシュは王国へと帰っていった。




