第25話
「おい。そんなことで俺を呼んだのかよ」
「いえ、とても重要なことです」
レイジは、呼ばれた理由を聞いた瞬間、逃げ出した自分が馬鹿らしくなった。
「はぁ……それなら逃げるんじゃなかった」
「だがレイジ、俺はこいつの呼び方が悪いと思っている。いつも俺たちを怒って――」
「……何でもありません。逃げた私たちが悪いです」
カインは不満を口にしかけたが、メアリーの表情が一瞬で消え落ちたのを見て、即座に謝罪に切り替えた。
「いいですか、カイン様。結婚するというのに、男性側から贈り物の一つもないなど論外です。
ですから、妹様に詳しく、かつ話を漏らさないレイジ様に協力していただこう、というわけです」
「はぁ!? 物なんてもらっても仕方ねぇだろ。大事なのは心だろ、レオン」
カインは金貨より友情、宝石より縁を重んじる男だった。
「女性は、そういうところに敏感なんだよ。ちゃんと渡さないと、愛想を尽かされる」
レオンの言葉に、カインは黙り込んだ。
それを見て、レイジは呆れたように息を吐く。
「はぁ……しょうがねぇな。こんなやつに嫁ぐとは、妹が不憫になってきた。俺も手伝う」
やる気はなさそうだが、協力する意思は示した。
「で、ルーナは宝石や黄金じゃ喜ばねぇだろ。服も違う……何をやれば喜ぶ?」
「役に立ちませんね」
即答だった。
「おい、呼んどいてそれはねぇだろ」
「まったく使い物になりませんね。レオン、何か案は?」
完全に無視された。
突然振られたレオンは、少し考え込む。
「正直、そこまで話してないから……。メアリーはどう思う?」
「そうですね……夫婦になるのですから、お揃いのものなどはいかがでしょう」
少し照れた様子で答えるメアリー。
レイジはそれに気づきニヤついたが、鋭い視線に即座に引っ込んだ。
「それだ! お揃いはいい。よし、それにしよう」
カインは一人で盛り上がっていた。
「……そうだ。ルーナは花が好きだ」
レイジは、庭園で本を読み、世話をする妹の姿を思い出す。
「なら、押し花を入れたペンダントはどうだ?」
「さすがレオン。その案を採用する。行くぞ、花屋だ」
◆ ◆ ◆
花屋に着いたものの、カインは完全に迷子だった。
「何が何だか、さっぱりわからん」
名も知らぬ花を眺めていると、レオンが声をかける。
「押し花にする花は決まった?」
「種類が全然わからなくてな」
「これはエーデルワイス。勇者の墓に咲いてる花だよ」
「ああ、あの白い花か。じゃあ、それにする」
そこへ、レイジがアイリスを手に戻ってきた。
「ここはルーナがよく来る店だ。来ると必ずこれを買ってくってな」
「なら、それで決まりだ」
押し花にした二輪は、メアリーが選んだ同じペンダントに収められた。
◆ ◆ ◆
夕刻、城へ戻る。
食卓には、海の幸と香辛料をふんだんに使った料理が並んでいた。
「本日は、ルーナがカイン様と二人で食事をしたいと申しておりまして」
「もちろんだ。俺も用があった」
レオンたちは別室へ案内される。
「え、いきなり二人!? やばい、緊張してきた……」
扉の前で深呼吸するカイン。
「俺、女性とあまり話したことが――」
「あら、カイン様。その続きは?」
背後にメアリー。
「この話は後日です。それと、これをお忘れなく」
ペンダントを渡され、カインは部屋へ入った。
「昨日ぶりですね、カイン様」
「ああ」
鼓動が落ち着くのを感じる。
「私のこと、覚えていますか?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……覚えていないのですか」
「待て。それより、渡したいものがある」
話題を強引に変え、ペンダントを差し出す。
「結婚を誓う品だ。同じものを身につけていれば、離れていても近くに感じられる」
「あの時の花……本当は覚えていたんですね」
「……ああ」
「では、私はエーデルワイスを」
「つけてあげようか」
「お願いします」
月明かりの下、ルーナは静かに微笑んだ。
「どうですか?」
「ああ……綺麗だ」
その夜、二人は穏やかな時間を過ごした。
だがカインは眠れなかった。
――前に会ったことがある?
そして、もう一つ。
(俺、何一つ自分で考えてねぇじゃねぇか)
この贈り物が、後に
「ヘルトでは結婚前にお揃いの贈り物を贈る」
という風習を生むことを、彼はまだ知らなかった。
◆ ◆ ◆
翌朝。
海に反射する朝日が宝石のように輝く中、扉が叩き開けられた。
「カイン様、起きてください」
「……どうした、シメオン侯」
「王国の使者が、ハイレンに到着しました」
「――何?」
穏やかな朝とは裏腹に、
ハクレン城には不穏な空気が流れ始めていた。
ようやく三強国の一角、王国の登場です。すぐに帝国と覇国も登場する予定です。覇国は少し先になるかもしれません。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
※カイン女性経験少ないと感じてるだけで、少ないわけではありません。




