第24話
カインたちがハクレン城に入城した翌日。
カインは苛立っていた。
ハイレンに来たにもかかわらず、ルーナには会えず。
さらに、しばらく身体を動かしていないことも相まって、気分は最悪だった。
「おい。なんでレイジはともかく、俺まで部屋から出ちゃいけねぇんだよ。
それより、なんでルーナに会えないんだ?」
「まあまあ、落ち着いて。メアリー、なんか怒ってたよ」
レオンは、メアリーから「カインを部屋から出すな」と命じられていた。
「……わかった。レイジに説教した後、次は俺ってわけだな。
最近、やらかした覚えはねぇんだけどな」
「たぶん、そういうことだろうね」
カインは腕を組み、この状況から脱出する方法を考え始めた。
大人しく待つ必要はない――そう結論づけた瞬間だった。
コンコン、とノックの音。
その一瞬、レオンの視線が扉に向いた。
――今だ。
カインは迷わず窓を開け、そのまま城の外へ飛び出した。
「カイン、メアリーが来たんだけど――」
振り返ったレオンの視界に、カインの姿はなかった。
開け放たれた窓だけが、静かに風を通している。
メアリーはレオンを睨みつけた。
「二人そろって逃げるとは……レオン、追いますよ」
「グランツたちにも声をかけるよ」
「ええ。その方が早いわ。私はオッタァ様に
“ご子息が逃亡しました”とお伝えしておきます」
二人は即座に動き出した。
◆ ◆ ◆
城を抜けたカインは、
「ここまで来れば大丈夫だろ」と判断し、街の大通りを歩き始めた。
「ここを通るのは、留学のとき以来か」
白を基調とした街並みに、色とりどりの商品。
あちこちから、楽しげな笑い声が響いてくる。
「相変わらず、この街の人たちは楽しそうだな」
ルーデンス地方は三強国に囲まれた交易の要衝だ。
ブレイブ城が内陸の中継地であるのに対し、
ハイレンは海上交易の中心として莫大な利益を上げている。
三強国同士は不仲だが、商人の流通は止めていない。
戦争のない時期には、国境を越えた行き来が当たり前だった。
「あそこにいるのは……レイジじゃねぇか?」
本来、城に軟禁されているはずの男が、街の中心にいた。
「レイジ様、最近見かけませんでしたね」
「うちの店、いつ来てくれるんです?」
「見てくれよ、この銛! かっこいいだろ?」
老若男女を問わず、人が人を呼び、輪が広がっていく。
「悪かったな。ちょっと仕事が立て込んでてよ。
明日はそっちの店で食うから、うまいの頼むぜ」
レイジは一人一人の話を、面倒がらずに聞き、答えていた。
その姿に感心していると、レイジがこちらに気づいた。
「おっ、カインか。悪い、ちょっと待ってくれ」
人々に別れを告げ、レイジはカインのもとへ来た。
「待たせたな」
「気にするな。大事な民だろ」
一瞬、レイジは目を見開き――そして豪快に笑った。
「ははは! お前のこと、少し誤解してたぜ」
「奇遇だな。俺もだ」
二人は肩を並べて歩き出した。
やがて海辺に出ると、腰を下ろす。
「いい街だな」
「ああ。自慢の街だ」
港では、様々な人種が働き、笑っていた。
「……なあ、カイン」
レイジの声が低くなる。
「俺はこの街が好きだ。
この笑い声に満ちたハイレンを、守るのが夢なんだ」
一息つき、レイジは続けた。
「約束してくれ。国同士の約束じゃねぇ。
俺とお前の約束だ。この街と民を、悲しませるな」
カインは立ち上がり、手を差し出した。
「愚問だな。
俺はもうヘルトだけを背負っているわけじゃない。
お前の民は、俺の民でもある」
レイジはその手を取り、立ち上がる。
「……なるほどな。
親父がお前に託した理由が、少しわかった気がするぜ」
夕日を背に、二人は拳を合わせた。
「俺たちの偉業を、手伝ってくれるか?」
「ああ。なんせ、俺たちだからな」
「……二人とも、楽しそうですね」
背後から冷たい声。
振り返ると、メアリーとレオンが立っていた。
「やべ。見つかった。すまん」
「おい、売る気かよ!」
カインは謝ると、レイジをメアリーの方へ突き飛ばし、全力で逃走。
倒れかけたメアリーを、レイジは咄嗟に支えた。
「大丈夫か?」
――バシッ。
無言の平手打ち。
「待て、それよりあいつだ!」
レイジは気づかなかった。
メアリーの頬が、ほんのり赤くなっていたことに。
「レオン、捕まえろ」
「もう追ってるよ」
カインは、あっさりと捕獲された。
その後、三人からきっちり説教を受けたのは、言うまでもない。




