第20話
翌日、ヘルト軍は行軍を再開し、陣地へと入った。
ヘルト軍の姿を確認すると、シメオン軍は一斉にカインの前で膝をついた。
「レイジ・シメオンが宣言いたします。我がシメオンは、ナイーブ・レビおよびムルド・レビの首を献上し、ヘルトに降伏いたします」
「わかった。その申し出を受け入れよう」
カインは迷いなく、シメオンの降伏を全面的に受け入れた。そして背後に控えるヘルト兵へと向き直る。
「今回の戦い――我々の完全勝利だ!!」
勝利宣言とともに、カインは聖剣を高く掲げた。
「「「うぉおおおお!!!」」」
ヘルト軍だけでなく、つい先ほどまで敵であった旧シメオン軍までもが、歓声を上げた。その光景を見て、レイジは思わず苦笑する。
「こりゃずるいな……それ掲げるだけで、無条件に士気が上がる」
国が違っていたことなど関係ないと言わんばかりに、兵たちは雄叫びを上げ続けていた。
その後、カインは戦後処理のため、陣地で最も大きなテントへと入った。
「ふぅ……戦いは終わったけど、この後は執務の山か」
「まぁまぁ。僕とレイジも手伝うからさ」
「おい、勝手に俺を含めるな」
カインは、戦後処理の相談をするために、レオンとレイジを呼んでいた。
「それは助かる。レイジくん、期待してるぞ」
「はぁ……俺は手伝わねぇぞ」
レオンの軽い提案に、カインは嬉しそうに食いつき、レイジは全力で首を振って拒否の意思を示す。
「まぁ、それよりも重要な話がある」
カインが声色を変えると、場の空気が一変した。
「どうしたんだい? グランツの処遇かい?」
「それとも、レビとルベンの領地配分か?」
カインが答える前に、二人は次々と重要事項を挙げていく。カインは目を閉じたまま、静かに否定した。
「違う。それよりも重要だ」
レオンとレイジは顔を見合わせ、再びカインへ視線を向ける。
「……ルーナは、どんな子だ?」
一瞬、沈黙が落ちた。
だが次の瞬間、二人は何事もなかったかのように別の話題を始めた。
「グランツの件だけど、僕は味方に引き入れるべきだと思うよ」
「賛成だな。あいつがいれば、俺の仕事が減る」
「ちょっと待て」
「領地に関しては、今回は直轄領が妥当だろう」
「旧シメオンに与えすぎると、国内がうるさくなる」
カインの制止は完全に無視され、議論は進んでいく。
「……で、カイン。君はどう思う?」
「そうだな。責任者の意見を聞こう」
突然振られたカインだったが、即座に思考をまとめて答えた。
「グランツは有能だ。だが義理堅いと聞く。ナイーブとの関係を調べる必要がある。
クレイン・ヘタロは不要だ。無能を抱える余裕はない。
ルベンとレビの土地については後回しだ。今決めると国内が荒れる」
「クレイン・ヘタロね。まぁ妥当だ」
「確かに。いらねぇな」
二人はあっさりと同意した。
「よし、本題に入ろう」
「そろそろヘルトに戻って、戦後報告会議だ」
「俺はシメオンに帰る」
「それは無理だよ。君はシメオン代表として出席してもらう」
「聞いてねぇぞ」
「オッタァ殿から許可は取ってある」
レオンは書状を見せ、レイジの肩を叩いた。
「……あのクソ親父」
「兵は代官を立てて帰還させる。じゃあ準備してくるよ。
それと、カインの質問は自分で確かめるといい」
二人はそう言ってテントを出て行った。
「……嫌な予感がする」
カインの呟きを、入口にいたレオンは聞き、小さく笑った。
ヘルト軍は何事もなく、ブレイブ城へ帰還した。
◆ ◆ ◆
カインたちがブレイブ城の城下町に入ると、町中のあちこちから歓声が上がった。
「カイン様だー!」
「ヘルトばんざーい!」
「さすが勇者の一族だ!」
さまざまな感情の声が飛び交う中、カインは軽く手を振って応えた。
「あれがブレイブ城か。すげえ立派だな。元魔王城を改修したんだっけ?」
「そうだね。魔王城じゃ名前が悪いからって、初代勇者様が改名してブレイブ城にしたらしいよ」
レイジは城を見上げながら感想を漏らし、そのまま歴史についてレオンに尋ねた。
「へぇー。勇敢な城、か。勇者らしいな」
「そうだね」
カインたちは城に入ると、すぐに会議室へと向かい、国の重鎮たちとクラウスを呼び集めた。
会議室に集められた重鎮たちは、すでに地図と睨めっこをしている。
「それでは戦勝会議を行う。今回はカインが取りまとめ役だ。私は一切、口出ししない」
クラウスの宣言に、会議室にいた全員の視線が一斉にカインへと向けられた。
「わかりました、父上。では、ひとまず宣言します」
その一言で、場の空気がさらに張り詰める。
カインは真剣な表情でこちらを見つめる貴族たちを眺め、込み上げる笑いを必死に堪えながら、はっきりと言い放った。
「今回の戦いで、功を挙げた者以外の領地は変更しない」
その瞬間、地図を手にしていた貴族たちの多くが、それを取り落とし、唖然とした表情でカインを見つめた。
戦勝会議であるにもかかわらず、会議室の雰囲気は最悪の出だしとなった。




