第18話
ルーナは顔を上げ、レオンの顔をじっと見つめた。
「カイン様は、どのようなお方なのでしょうか。
一度だけ拝見しましたが……その、お好きなものなどはご存じですか?」
レオンはその問いに一瞬呆気に取られ、ふっと息を吐いた。
そしてすぐに気持ちを切り替え、にこやかに笑って答える。
「カインのことですか。彼は私の友人です。
良い男ですが……少しうっかり者で、我儘なところもありますね」
「他には?」
ルーナは目を輝かせ、さらに身を乗り出した。
レオンはそれから、問われるままにカインのことを語り続けた。
気づけば、外はすっかり暗くなっていた。
「それで彼は、このルーデンス地方を統一しようとしています」
「へえ……そうなんですね」
二人が和やかに会話を続けていると、
突然、部屋の扉が音を立てて開いた。
「食事の時間……っと」
顔を覗かせたのはレイジだった。
「これは失礼しました。
私は何も見ておりませんので、どうぞ楽しい夜を」
そう言い残し、扉をそっと閉める。
「……っ!」
次の瞬間、ルーナは顔を真っ赤にして部屋を飛び出した。
そして――
「ちょっと来なさい!」
レイジの耳を掴んだまま、引きずるように部屋へ戻ってきた。
「いたたたた!」
ルーナはレオンの存在も忘れ、レイジを正座させる。
「全く……お兄様は何を勘違いしているのですか。
いいですか、まず――」
「はい、すみません」
「それからですね、仕事をたまにはサボらず、
シメオンの当主としての自覚を――」
「はい、すみません」
「さらに!
勝手に城を抜け出して野原で寝転ぶなど、あるまじき行為で――」
「はい、すみません。反省は……しておりません」
「……というわけです」
「はい。以後、気をつけます」
ルーナはふと我に返り、レオンを見る。
そして一気に顔を赤くし、顔を覆った。
「……あの。
このことは、カイン様には内緒でお願いします」
「ええ、分かりました。
カインには伝えませんよ」
「俺が伝えて……いや、何でもない」
レイジはルーナの視線を感じ、即座に黙った。
「それでは、レオンさん。ありがとうございました」
「いえいえ、お気になさらず」
ルーナは二人を置き去りにして、足早に部屋を出ていった。
静まり返った室内で、レオンとレイジは顔を見合わせ、同時に息を吐く。
「準備は終わった。
明日の朝には出発する」
「ずいぶん早いね」
「元々整えていた。
確認だけで済んだ」
「了解。こちらも準備しておくよ」
レイジは立ち上がり、何も言わずに部屋を後にした。
「……腹が減ったな」
レオンは小さく呟いたが、返事はなかった。
◆ ◆ ◆
翌朝。
雲ひとつない青空の下、
城から見える海は朝日を反射してきらきらと輝いていた。
レオンとレイジは、シメオン軍と共に出発する。
「目標はレビだ。
気を引き締めていこう」
「「「おお~~」」」
だらけた返事に、レオンは一瞬不安を覚えたが――
「……驚いた。
この雰囲気で、隊列がここまで整っているとは」
「当たり前だ。
俺が鍛えた精鋭だぞ」
「なるほど。
これから仕事が増えそうだ」
「はぁ……嫌だなぁ」
内心でレイジの有能さを再評価しながら進軍していると、
オッタァが声をかけてきた。
「レオン殿。
ご健闘を祈る」
「オッタァ殿も、どうかご自愛を」
「俺には言わねぇのか?」
「気の利いた挨拶ができるようになってからだ」
「親父が言わねぇからだろ」
「少しは父を敬え」
「今さら無理だろ」
「こやつめ……」
レオンは苦笑するしかなかった。
「失礼したな、レオン殿」
「いえ、お気になさらず」
「帰ってきたら、しごいてやるからな」
「捕まえられるもんならな」
こうして親子喧嘩は幕を閉じ、
シメオン軍は防御陣地へと進軍を開始した。
◆ ◆ ◆
「この書状を、ムルド・ルベン殿に届けてくれ」
「かしこまりました」
内容はただ一つ――
『レビを孤立させるな』
「これでムルドもナイーブについていく」
「助かる。
成功率が上がった」
数日後、シメオン軍はレビの陣地へ到着した。
日は沈みかけ、辺りは薄暗い。
「ようこそお越しくださいました、レイジ様。
私はルベン軍将、クレイン・ヘタロでございます。
ムルド様が、すぐ戦場へ来るようにと」
「日はもう沈む。
今日はここで休む」
「そ、そうですね。
ではご案内を――」
「兵を集めろ。確認する」
「か、かしこまりました」
クレインが前を向いた瞬間、
レイジはレオンの肩を叩き、小声で告げる。
「兵を集めさせる。
静かに包囲しろ」
「任せて」
レオンは音もなく隊列を離れ、包囲を進めた。
「これで全員です」
「――武器を捨てろ。手を上げろ」
「なっ……なにを……?」
レイジが手を上げると、
シメオン兵が四方から姿を現す。
「い、命だけは……!」
抵抗はなかった。
ルベン・レビ連合軍は無血のまま陣地を明け渡し、
全員が拘束された。
「後は逃げてくる敵を、ヘルト軍と挟むだけだな」
「あっけなかったね」
「楽でいい」
太陽は完全に沈み、
シメオン軍は一切の損害なく陣地を制圧した。




