第14話 追撃③
ナイーブは、ようやく陣形を組み始めた敵軍の中へと突っ込み、大剣を大きく薙ぎ払った。
「小僧、どこだ! 俺と正々堂々と勝負をしろ!」
叫びながら、次々と兵士を斬り伏せていく。
ナイーブの頭にあるのは、カインのことだけだった。
目の前で戦っている相手が誰なのかなど、もはや意識の外にあった。
◆ ◆ ◆
一方その頃――
ムルドは、交戦している相手が味方であるはずのレビ軍だと気づき、血の気を失った。
「まずい……あれはナイーブではないか。
攻撃を止めさせねば、同士討ちになるぞ!」
このままでは両軍に甚大な被害が出る。
そう判断したムルドは、全軍に向けて叫んだ。
「止まれ! 我々はルベン軍だ!
戦っている相手は味方だぞ!」
その声により、周囲の兵たちは徐々に剣を下ろしていった。
だが――ナイーブだけは止まらなかった。
「なぜ止まらん……? 友軍だぞ、友軍だ!」
ムルドが正面に立ち、止めに入ろうとしたその時、別の混乱が起きた。
「ヘルト軍が、近辺の森から出現!
三方向から奇襲を受けています!」
報告を受け、ムルドは顔を歪めた。
「……最悪だな」
一方向なら対処できた。
だが三方向同時となれば話は別だ。
その上、目の前では“大馬鹿”が暴れている。
「クラック!
貴様は奇襲を受けている部隊の指揮を取れ!
残りは私と……この愚か者で対応する!」
「承知しました!」
クラックは即座に馬を走らせ、後方へと向かった。
ムルドはナイーブの前に立ちはだかり、怒鳴った。
「落ち着け! 我々は味方だ!
さすがに私の顔くらいは覚えているだろう!」
「てめぇ……ムルドじゃねぇか。
裏切ったのか!?」
大剣を構え、睨みつけるナイーブ。
ムルドは大きくため息を吐いた。
「こっちが裏切られた気分だ。
いいから止まれ。このままでは被害が馬鹿にならん!」
ようやくナイーブの攻撃が止まり、
ルベン軍の被害拡大は抑えられた。
しかし、その間にも後方の被害は増え続けていた。
「それと、ヘルト軍が後方から奇襲を仕掛けてきている。
貴様は左へ行け」
「何ぃ……ヘルトだと?
探す手間が省けたな!」
ナイーブは獰猛な笑みを浮かべ、馬を走らせた。
ムルドも反対側へと向かう。
この時、二人は暴れていた地点の整理を行わなかった。
レビ軍とルベン軍は混在したまま、指揮系統は完全に崩壊していた。
◆ ◆ ◆
奇襲を仕掛けるヘルト軍の中央――
そこを率いていたのは、カールだった。
敵軍は完全に混乱しており、統率だった反撃はできていない。
「奇襲は……成功したか」
その油断を切り裂くように、兵を押し退け一直線に突進してくる大男がいた。
「貴様……カインじゃねぇな!」
ナイーブだった。
敵味方を区別することなく、全てを薙ぎ払いながら迫ってくる。
「まずい……!
槍隊、前へ! 弓隊、あいつに集中射撃だ!」
命令を出すカールだったが、ナイーブは嘲笑うようにさらに加速した。
「しゃらくせぇ!」
一振りで槍兵が吹き飛び、矢は大剣で弾き落とされる。
恐怖に駆られた兵が、次々と逃げ出した。
「撤退だ! 下がれ!」
だが撤退は、崩壊を意味した。
混乱する味方に押され、カールは転倒する。
振り返った瞬間――
ナイーブはすでに目の前にいた。
「終わりだ」
振り上げられる大剣。
カールは武器を構えることすらできず、目を閉じた。
◆ ◆ ◆
一方、ガイルのいる戦場では、激戦が続いていた。
「おらぁ!」
ガイルの袈裟斬りを、グランツは槍で受け流す。
反撃の一撃を、ガイルは紙一重で躱した。
「器用じゃねぇか」
「そろそろ終わらせる」
距離を詰めるガイル。
グランツは逃げず、連続して突きを放つ。
急所を避けながら受け流すも、ガイルの体には傷が増えていく。
「この距離なら……受け流せねぇだろ!」
力で押し切られ、グランツは馬上から吹き飛ばされた。
だが、その瞬間――剣を投げる。
ガイルの馬が倒れ、双方とも地面に叩きつけられた。
立ち上がった二人は、互いを睨み、笑った。
「簡単には終わらねぇな」
「同感だ」
最後の力を振り絞り、二人は踏み込む。
突き。
避け、斬り下ろす。
完全には避け切れず、
一方は喉を裂かれ、
一方は片目を失った。
「……いい一撃だ」
「そっちこそな」
そして――
限界を迎え、二人は同時に崩れ落ちた。
満足げな笑みを浮かべたまま。




