第12話 追撃①
グランツは馬を走らせ、ナイーブの元へと辿り着いた。
「父上! 背後よりカインが兵を率いて奇襲してきました!」
「なに……? では、あそこにいるやつは何者だ!」
ナイーブが指差した先には、輝く聖剣を掲げ、兵を鼓舞する男の姿があった。
「あれは……おそらく影武者です」
グランツは即座に答える。
「父上はカインを討ち取るために来られたのでしょう?
ならば、あの偽物ではなく、背後に回った本物のカインを追うべきです。
ここは私が押さえます」
本当は、あれこそが間違いなくカイン本人だった。
だが撤退させるため、グランツは敢えて嘘を吐いた。
「そうか……よし、任せる!
全軍、反転! 敵は背後にいる! 我に続け!」
ナイーブは号令と共に反転し、ガイルの率いる奇襲部隊へ向けて突撃を開始した。
その背を見送りながら、グランツは小さく呟いた。
「……本当に馬鹿だな。
影武者なら、なぜ勇者の一族でもない者が聖剣を輝かせられるのか、少しは疑え」
呆れと同時に、感謝もしていた。
これで撤退に誘導できる――はずだった。
だが現実は甘くない。
目の前では、聖剣の輝きに熱狂したヘルト軍が、猛然と攻め込んできていた。
グランツは自ら最後尾に立ち、率先して殿を務めた。
ナイーブが下がったことで士気を失ったレビ軍は、勢いを増した追撃を受け、命からがら逃走を始める。
◆ ◆ ◆
「カイン様。レビ軍が撤退を始めました」
ウォードは一定距離まで追撃した後、隊をまとめて戻ってきた。
「追撃を続ける。俺が指揮を取る」
カインは即断した。
「騎兵を集めろ。
ウォードは歩兵を引き連れ、後に続け」
「はっ。かしこまりました」
カインは騎兵を集結させると、全体の指揮をウォードに任せ、自らは騎兵を率いて追撃に出た。
「出陣だ。レビ軍を掃討する!」
◆ ◆ ◆
「どこだ、腰抜け!
正々堂々、俺と勝負せよ!」
ナイーブが後方へ辿り着いた時、そこにヘルト兵の姿はなかった。
怒りに任せて叫ぶが、返事はない。
奇襲部隊は、ナイーブが来ると知るや、蜘蛛の子を散らすように姿を消していた。
周囲を見回すナイーブの元へ、グランツが追いつく。
「父上! 何をしているのですか!」
「貴様……ヘルト兵すらおらんではないか!
さては我を騙したな! 我を愚弄する気か!」
グランツは内心で歯噛みした。
後退させられたと思ったが、ナイーブはその場に留まり、逃げた敵を探していたのだ。
「おそらく、父上を恐れて逃げたのでしょう。
今すぐ追撃すれば、必ずカインに追いつけます」
「ふむ……我を恐れた、か」
ナイーブは満足げに笑った。
「待っていろ、カイン。
今すぐその首を飛ばしてくれる!」
その背後で、グランツの胸は重く沈んでいった。
◆ ◆ ◆
「進め! 狙うはカインの首一つ! 我に続け!」
ナイーブは来た道を引き返すように突き進んだ。
だが、延々と走り続けた兵たちは疲労困憊となり、次々と脱落していく。
それに、ナイーブは気づかなかった。
道に倒れる兵を見て、グランツは馬を止めた。
「父上。私はここに残ります。
後方からの追撃を抑えましょう。
敵は森に潜んでいる可能性もあります」
「任せた」
グランツはそれ以上ついて行くのをやめた。
「……最初は二千五百。
今、ここにいるのは二百いるかどうか。
父上の手元に五百……捕虜が千、戦死五百、逃亡三百」
小さく息を吐く。
「勝っても負けても……レビは終わりだな」
グランツは疲弊した兵をまとめ、追撃に備えながら、戦後の身の振り方を考え始めていた。
◆ ◆ ◆
一方、カインは追撃しながら斥候の報告を聞いていた。
「砦へ向かう兵が五百。
脱落者が二百ほど集結し、足止めの構えを取っています」
「……意外だな」
カインは頷き、隣を走るガイルへ視線を向けた。
「百騎を預ける。足止め隊を壊滅させろ。
俺は先へ進む」
「へいへい、了解」
ガイルは一瞬、言いかけてやめた。
「……いや、何でもねえ」
「気になるやつでもいるのか?」
「多分、足止めの方にいる」
ガイルはグランツの顔を思い出し、軽く笑った。
「お前の予想は当たらねえぞ。
そいつの首は俺が取るかもしれん」
「そん時はそん時だ」
前方に集団が見え始める。
「ガイル、命令だ。負けるんじゃねえぞ」
「ああ、任せろ」
二人は拳を突き合わせた。
「第一から第四は俺に続け。
第五はガイルに従え!」
騎兵は二手に分かれ、
カインは大きく迂回し、ガイルは正面から突き進んだ。
それを見たグランツは、横を抜ける兵を諦め、正面から来る敵に備えた。
「やっぱり、ここにいたか」
ガイルは笑いながら大剣を抜く。
「またお前の相手か」
グランツは槍を構え、苦笑した。
「仕方ない。相手をしてやる。返り討ちだ」
「簡単に負けるなよ、グランツ。
勝つのは――俺だがな!」
互いに笑い合い、
大剣と槍が再び激しく交錯した。




