表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

目には目を

作者: 紳士
掲載日:2019/07/18

 女性が椅子に拘束されていた。見た目から推定するに、女性の歳は三十代前半くらいだろう。肌の色が白く、茶色の髪を肩にかかる長さで切りそろえている。椅子に縛り付けられる前は仕事中だったのか、スーツを着ており、顔にはナチュラルメイクが施されていた。

 その女性の前には一人の女が立っていた。直立不動で女性を見据える女は、女性と比べてかなり若い。おそらく二十代か、それよりも若いかもしれない。フォーマルな服装の女性とは対称的な、Tシャツにジーパンという格好をしているからか、少女と呼んだ方がしっくり来るほどに幼く見える。

 その少女が、突拍子もなく口を開いた。

「先生。私のこと、憶えてますか?」

 少女から先生と呼ばれた女性は、なんの反応も示さなかった。いや、示せなかった。女性は全身を椅子に荒縄でくくりつけられており、頭も動かせない状態になっている。しかし、少女は勝手に会話を進めていく。

「やっぱり憶えてないんですね。私は三年前、あなたの治療を受けた患者です」

 少女の言う通り、女性は少女のことを憶えていなかった。女性は眼科の女医であり、これまで何百人もの患者を看てきたのだ。そのため、患者一人ひとりの顔など憶えていなかった。

「…まあいいです。思い出せなくても。私はあなたに奪われたものを奪い返しに来ただけですから」

 少女はため息混じりに言うと、手に持っていたものを女性の目の前に突き出した。女性は驚き、反射で目を閉じた。少女が手に持っていたもの、それは針がむき出しになったコンパスだった。その針が女性の左目の前に突き出されている。

「ほら、早く目を開けてください」

 まぶたの向こう側から聞こえてくる声に、女性は肩を震わせる。この数センチ先に自らの目を奪う凶器があると思うと、怖くて仕方がなかった。

 女性が目を閉じてから五分が立ち、三十分が立ち、一時間が立ち、数え切れないほどの時間が立った。あまりにも長い時間が立ち、女性の神経はもう限界だった。その結果女性は目を開けてしまう。

 少女のコンパスを持った腕が、女性の目に振り下ろされる――‼

 その瞬間に、女性は夢から醒めた。

「やっと起きましたか」

 どうですか、最後の目覚めは。と少女は言う。女性の左目には、コンパスが突き刺さっていた。目から神経を伝って、耐えきれないほどの痛みが女性をおそう。女性は訳もわからず暴れだした。いくら椅子に縛られていようとも、女性が全力で動くと椅子ごと動き、その反動でコンパスが女性の目から抜けた。コンパスの作った穴に風が入り込み、さらなる痛みに女性は悶た。

 人間が一番痛みを感じる器官は目だと言われている。それに穴を開けたのだから、女性の感じている痛みたるや強烈なものであろう。

 痛みに苦しんでいる女性をおいて、少女は部屋から去っていった。

 後日、なんの連絡もなく女性が仕事を休んだので、家を訪ねてきた私が見た光景は、それはとても悲惨な状態であった。

 女性は床に倒れていて、そこには涙と血で作られた水たまりが、女性の白い肌を汚していた。

 部屋には女性の目を貫いた、血の付着しているコンパスと、一部始終を録画したビデオカメラが残してあった。

 そのビデオカメラの映像から後にわかったことだが、女性の目を貫いた少女は、言っていたとおり女性の治療を受けた患者だった。少女が言っていた女性に奪われたもの、それは左目の視力だった。少女は三年前の春、視界の一部が見えなくなっていた。それで女性の病院にかかったのだが、診断結果は疲労によるものとされ、数日休むように言われた。だが、これは全くの誤診であり、少女は緑内障という病に冒されていた。女性の誤診のせいで治療が遅れ、結果少女は左目の視力を失った。

 それから三年がたったあの日、少女は自分の目を奪った相手の目に向けて、針を突きつけ、奪われたものを奪い返したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ