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2話

シルヴァンスとの婚約解消はあっさりと進んだ。

どうやら先方も一向に婚約者と会おうとしない子息の態度に悩んでいたらしい。

どれだけ諭しても『まだその資格はない』だとか。


シルヴァンス本人には手紙で伝えられるらしい。

元々当人同士が望んだ婚約だけど、こんな状態では本人の了承などいらないと決めたらしい。


婚約が解消されたと聞いたけど、私の気持ちには特に変化はない。

思った以上にシルヴァンスとの関係は私にとってどうでもいいものになっていたようだ。


さて、めでたく婚約者がいなくなり独り者となった私は早速とばかりに近日中に開かれるであろう夜会への参加を模索する。

無論、新しい伴侶を求めて。


実家であるキルシデント伯爵家には跡取りとして、長男でありそして私の兄でもあるセラス兄様がいる。

であればいずれ私は家を出ていく身であり、そのための嫁ぎ先を決めなくてはならない。

セラス兄様にはすでに婚約者がいる。それも姿を見せない名ばかりの婚約者でなく、既にこの屋敷に移り住み、もう結婚は間近である。



***



一月後、私はとある侯爵家が開催した夜会に参加していた。

エスコートしてくれたのはセラス兄様だ。

これまでは婚約者がいたこともあり、こういった場ではなるべく壁の花に徹していた。

だが、この時ばかりは豪奢に着飾り、相手となるであろう令息を見定めていく。


「ファリーナ、そんな目で睨んではせっかくのお相手も逃げてしまうでしょう?」


咎めるような声色で声を掛けてきたのは友人のベアトリーゼだった。

目の覚めるような濃いめの赤い髪に緩やかなウェーブをかけ、同い年とは思えないほどメリハリのきいた身体つきをしており、それでいて目つきの鋭さからキツ目の印象を受けるが、驚くほどに中身は普通で、今の咎めるような声も、かなり珍しいものだ。


そう彼女に言わせるほどに私は睨んでいたらしい。

ふう、と一息ついてベアトリーゼを見る。


「そうね、ごめんなさい。少し焦っていたようだったわ」

「……まぁ話は聞いてるから。でも、焦る必要はあるの?」

「ん~……」


そう言われればそうだなと納得してしまう。

まだ16だ。

結婚適齢期に入ったばかりだし、誰かに急かされたわけでもない。


「別にあなたの父上も兄上も言ってるわけじゃないんでしょう?だったらそんな気を張らずに、純粋にパーティーを楽しみましょう。ね?」

「ええ、ありがとうベア。そうするわ」

「ふふっ。…あら?あちらが騒がしいわね」


ベアの言葉に振り替えると、その方向には入り口。

どうやら何か騒ぎになるような人物のご到着のようだ。


「誰かしら……ファリーナは知ってる?」

「いいえ。もしかして王族の方がいらっしゃったとか?」


今日は侯爵家の開催したパーティーだ。

秘密裏に招待していたとしても不思議ではない。


その方向を注視していると、周囲は年頃の令嬢が黄色い声を上げ、その中心には高位貴族の当主の面々が集まっている。

となると、王子様あたりだろうか?

だとすれば後で父に呼ばれて挨拶に行くことになるかもしれない。


そんなことを考えていると、徐々にその人垣がこちらに向かってくる。

邪魔になってはいけないとベアと共に壁の方に移動すると、何故かその人垣もこちらの方に向かってくる。

一体何故?そう思っているうちにその人垣が割れ、その原因と思われる人物が姿を現した。


肩の高さで切りそろえられた金髪は緩やかに揺れ、穏やかな眼差しで青の瞳がこちらに向けられている。

黒と青を基調とした制服には魔術騎士団所属であることを示す鷹のエンブレムが付けられていた。


つまりこの人物は魔術騎士団所属ということなのだろう。

その人が、こちらをまっすぐに見ている。


(はて、私に魔術騎士団の知り合いがいたかしら?)


魔術騎士団は、騎士と魔術師両方の技量を持つものだけが所属できるエリート中のエリートだ。

剣と魔術両方を使いこなし、その高い戦闘技術から主な任務が王族の護衛である彼らとはおいそれと会うことはできない。


「ファリーナ」


あれこれと思案していると、件の人から名を呼ばれた。

私の名を知っている?

やはり知り合いなのだろうか?

しかしどう考えても思い当たる人物が出てこない。

さて、この場合どうしたものだろう。

相手は私を知っているようだが私は知らない。


名を聞くべきだろう。

けれど、魔術騎士団所属ともなればその出自も大抵高位貴族が多い。ほとんどが侯爵、もしくは公爵家出身だ。それより下位の貴族からはほぼ無い。

何故なら剣と魔術、両方の技量を得るためには幼いころから、それこそお金と時間と、そして環境がモノを言う。

そして王族の護衛を務めるために確かな身分が必要となる。

……という話だ。兄様からの教えである。

つまり、相手は私よりも高位である可能性があり、その場合私から名を聞いてはならない。


(困ったわね…)


対応に苦慮し、口を噤んだままの私を気にしてか知らずか、そのまま彼は片膝をつき、いきなり首を垂れた。

その彼の動きに周囲のざわめきは一気に大きくなり、その状況と相まって私も一気に混乱してしまう。


(な、な、な、何なの!?)


「すまなかった、ファリーナ」


謝罪の言葉と、再び呼ばれる私の名。

初対面であろう彼に謝られる意味も、そもそも名を知っていることも、何もかもが訳が分からない。

そんな私の混乱を見て取ったのか、ベアが横から口を開いた。


「失礼いたします、『シルヴァンス』副団長。この場でそのようなことをされてファリーナは混乱しております」


(シルヴァンス!?この目の前の男があのシルヴァンス!?10年間私をほったらかしにしたあのシルヴァンス!?というか副団長って言ったよね!?)


ぐりんと顔を横に向けてベアを見れば、そんな私の反応にやや呆れたような息をつくベア。


「つきましては別の場所で話をいたしましょう。よろしいでしょうか?」

「…ああ、そうしよう」


ベアの提案にシルヴァンス(?)が頷き、立ち上がると私に手を差し出して来た。


(その手は何?)


手の意味が分からず困惑する私にまたもやベアの溜息。


「シルヴァンス副団長。お二人の関係からエスコートをすることはよくありません」

「っ……わかった」


渋々頷いたシルヴァンス(?)は手を引っ込めた。



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