とりあえず、ハッピーエンドということで
ジルを最後の王として、カデンツィアを治めてきた王族の存在は静かに歴史の舞台から姿を消した。
カデンツィアという国も、長きに渡る話合いの末パトリシアが嫁いだ隣国、ティノールに吸収されその中の領土として形を変えることになった。
呪いの姫に下された『国の滅亡と王族の消滅』は、こうして人知れず果たされたのである。
それから数年の後、ピンクの髪の麗しい姫と国でも指折りの優秀な第三王子の結婚式が盛大に行われた。
国に入った時はたった十二歳であった姫が、十五歳になるのを待っての事だった。
「パトリシア、綺麗だね」
「そうだな」
国を挙げての盛大な式では、立場上遠くから見守る事しか出来なかったけれど、後日エリオットの粋な計らいで開催された小さなパーティに招待されたことでようやく娘の晴れ姿を間近で見ることができた。
花嫁は、幸せというベールを纏っていることでより一層美しさを増し、見ているだけで眩しさを覚える。
隣国へ移り住み、一般市民として生活する私とジルは、滅多な事ではパトリシアに会う事は出来ない。
はずなのだけれど、しょっちゅう城の抜け出してやってくる娘夫婦には困ったものだ。
そして、私たちからそう離れていない所には、見知った姿の数々。
「エメ、これ食べれそう?」
「あなた、もうお腹いっぱいですから」
セリムが積極的にエメの世話を焼いているのは、彼女の大きなお腹のせい。
子頭脳な父親になるのは目に見えている。まぁ、十年以上にも及ぶ長い長い片想いを実らせたのだから、それも仕方がないことかな。とはいえ、籍を入れた途端子供ができたことには驚いた。そこに、セリムの本質を見た気がする。
クラリスも、隣国との縁続きのために社交性を十二分に駆使し忙しそうに殿方達と話をしている。
クラウディはそんな彼らから離れ一人食事に勤しんでいた。
何人かの女性達が話かけているようだが、果たして彼女達の努力は結ばれるのだろうか。
「お母さん!!」
庭先に置かれた白の丸いテーブルと囲むように並べられた同色の椅子。
そこに座っていた私とその後ろに立つジルの元に、純白のドレスに身を包んだパトリシアが愛する人の隣を歩きながらやってきた。
一息入れたいとやって来たらしく、どうぞと空いている椅子を勧めた。出来る義理の息子は、ジルに習うよう新妻の肩に手を置いてその後ろに立った。
「メイ、ジル、ほら食べ物持ってきたぞ」
クラウディが笑顔食事の差し入れをもってくると、そのまま空いた椅子にどっかりと座った。にかっとした笑みが太陽と相まって非常に眩しい。
「ジル様、メイ様、飲み物を持って参りましょうか?」
「エメ!君は妊婦なんだからそんなの僕がやるよ!こっち座っててっ」
今も前職の意識が抜けきれない妻に悲鳴を上げるセリムがかなり面白くて声を上げて笑っていれば、
「なんですの!またワタクシだけ除け者ですかっ!?」
数年前の事をまだ根に持っているらしいクラリスがプリプリしながら歩いてくる。
見渡す限り、笑顔で溢れたそこは、十年前のあの城の庭先と何ら変わらない大事な光景そのまま。
違う所と言えば、あの時私の胸の中で眠っていた赤子が、立派に成長し、こうして大事な人と笑い合っているということぐらい。
だから、私もみんなに負けないよう目一杯の笑顔でジルを見た。
彼もまた私を笑顔で見下ろしてくる。
ストレスのせいで色が抜け落ちていた髪も、今はすっかり黒に戻っていたし、その表情は穏やかで、誰も彼が元王だとは気が付かない。
周囲はかねがね平和だった。
「やっぱり、みんな一緒が、『幸せ』だ(ね)」
隣には、誰よりも大事なジルが居る。
これ以上に願う幸せは、今の所見つかりそうになかった。
「そういえば………」
何とはなしに、昔の自分に思いを馳せていた所で引っかかったことがある。
「どうした?」
急に難しい顔をして黙り込んだ私に気が付いたのか、ジルが心配そうに顔を覗きこんできた。
「ううん、なんでもない」
ジルを安心させるように首を振って答える。
ふと思い出したのだ。
そういえば、私が屋上から飛ばされてこの世界にやってくる直前、遠くなる意識の中で、確か誰かに何かを囁かれたような気がした事を。そして、城の屋上でも誰かの声を聞いた覚えがあるんだけど。
「気のせい、かな」
一筋の風が、私の頬を撫でていった。
春を思わせる、暖かな風が。
本編としては、これが最終話となりますが、明日公開予定の第三者視点の一話を追加して、このお話は完結となります。




