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幸せの愛言葉を探して  作者: あかり
革命編
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そんなこんなで事件は解決したようです


 エハテー公爵の介入で物事がすべて丸く収まったような気がしたけど、私はまだ忘れていたことがあったようだ。


 民達が落ち着きを取り戻し始めた所で、遠くから聞こえた更なる人物達の介入の足音。


「王!ご無事でしたか」

「エリオット!」


 そういえば、隣国との取引きもあったんだっけ。

 すっかり忘れてた。


 というか、ジルはどれだけ手の込んだ革命を起こそうとしていたんだ。

 改めて事の重大さを思い知って、身震いしてしまった。


「………何故だ。打ち合わせでは、お前達はまだこの国には来ないはずでは」


 私を腕に閉じ込めたままジルがエリオットを見つめて問えば、質問を受けたエリオットが安堵の笑みと同時に肩を竦めて見せた。


「私達が、むざむざとあなたが死に行くのを見逃すとでも?」

「は?」

「すべてをたった一人で計画し、実行する。これによって私達は、あなたがどれだけ優秀かを嫌というほど思知らされた。隣国との取引きから始まり、それを見事有言実行して見せる実力。民や自身の部下を護りたいという人間らしさ、そして優秀さ。………まぁ、少し自己犠牲が過ぎるのと、周りがみえていない無鉄砲さというのはありますが、そこは若かったということで」


 おや、なにやら話が思わぬ方に向かっているようだ。

 黙って耳を傾けるこの場に居る全員に聞こえるように、エリオットが宣言した。


「我が王は、あなたを私達の国へ迎えたいと考えています。もちろん、王族という過去は捨て、何の権利もないただの一般市民という身分になっていただく事になりますが」

「!」


 それは、ジルにとって、寝耳に水の提案だったようである。


 布越しに感じる彼の筋肉が驚きに硬直していくのが感じられた。


 義理の兄のそんな様子を尻目に、エリオットは出来る王子らしく物事の収拾に身を乗り出した。


「この国についても、元々の取引き通り隣国に任せていただければと思います。王族なき今、この土地を庇護下に置くことで他の国からの介入を阻止出来ますし。当分はエハテー公爵や地方にてこの革命を傍観ししてきた公爵派の貴族達、革命軍の代表の方々、そして私も参加して今後のあり方を考えていきましょう。よいですか?」


 最後のエリオットの言葉はエハテー公爵と代表らしき男に向けられていた。


 隣国の参入に疑問を抱いているようだった彼も、自分が忘れらていたわけではないことを知って少し安堵した様子の顔をしていた。

 

 革命軍のリーダーであったとしても、やっぱり国という大きなモノを引っ張っていくのは色々大変だろう。エリオットの提案は概ね皆の反感を買うことなく次に進める道標になると思われた。




「ジルベルト!!」

「王!」


 ほんと、これで最後にしてくれないかなぁ。


 やってきたのは、息を切らして王の間にやって来たクラウディとセリム。

 彼らは隠し路を使ったようで、正面ではなく背後から現れた。


「お前達………」

 クラウディはここからかなり遠くに連れ出されていたはずだったし、セリムに関してももう一晩では帰ってこられないほどの場所に居たはずなのに、何故か二人仲良く並んでこの場に居る。


「騎士としての俺の勘、舐めんなよ」

「どれだけ、君と一緒に居たと思ってるの?これでも、優秀な方なんだよ」


 ジルの不自然な様子は、彼らに疑問の種を植え付けるぐらいはしていたようだ。ここに来て、その種は目を出し花を咲かせたようである。


 ま、一歩遅かったけどね。


「クラリスは?」

「パトリシアを一人には出来ないから、大人しく一緒に行ってくれたよ。あ、彼女からの伝言。『次会う時は、歯を食いしばっておく事ですわね』だってよ。ジルはもちろん、こっそり出て行ったメイ様も」

「わ、私まで!?」


 セリムが笑って教えてくれた内容に恐れおののく私に、彼は更に笑みを深めた様である。完全に他人事だからだろう。


 こちらとしては全然笑えないんだけど。


「あの子は怖いからねぇ」

 実の娘の事だというのにエハテー公爵は面白そうに笑うだけで、助けてくれる気はなさそう。


 私が顔を上げれば、目を瞬かせて辺りを見渡すジルが居て、私の視線に気づいたであろう彼がこちらを見下ろしてくることで、二つの視線が重なった。


 今までの無表情が祟ってか、彼の表情筋はある程度凝り固まってしまっているらしい。

 ぎこちない彼の笑みと、その裏に垣間見えた、肩の荷が下りたどことなく安堵の気持ちが見て取れる。


 少しでもタイミングを間違えれば、私はこの人を失っていただろう。

 どうした、なんてこちらを見て顔を傾げてくるこの愛おしい人が、この世から居なくなるところだったのだ。

 今更だけれど、背筋が凍る思いがした。


 それと同時に、ここまでに至った過程を思い出してはっと振り返れば、穏やかな表情でこちらを見つめるヨハンが居た。


 彼もまた、エメとは違う方法で私を試したのだろう。

 ジルを助けたとしても、きっと彼はこれからもやらなければいけない事がたくさんあるし、それになにより、彼を受け止めるには生半可な覚悟じゃ無理だった。


 覚悟をさせた上で、大事な弟を私に託したのだ。


「ヨハン、ありがとね」

 本当は、もっと言いたい事はあった。

 でも、どう言葉にすればよいか分からなかったので、ありきたりなこの一言に気持ちを目一杯込めてみる。

「メイコ?」

 なんの事だかわからないと私を呼んでくるジルは後回しにすることにして、頭を下げて礼を言った。


 そうすれば、ほんの少し片目を眇めてヨハンが笑った。

 無意識の内に息を奪われてしまうような、美しく可憐な儚い笑みだった。


「お礼を言わなければいけないのはこちらの方だ。………本当に、ありがとう。メイコ」

 

 春のような優しい色のついた暖かな風が、私の頬を掠めていった気がした。






 ちなみに。


 そんな私達を見つめていたエメが、

「ジルベルト様の王としての最期、しかとこの目で見届けました」

 と小さく呟いたことも。


 ようやく肩の荷が下り安堵に崩れそうになる彼女を支えたセリムが、

「いつまでも、子供じゃないからね。絶対に、逃がさないよ」

 と不敵に笑ったことも。



 私はまったく気が付きませんでしたよ。はい。





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