彼の真意(第三者視点)
最終章のスタートです!
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「本当に、これで、よろしいのでしょうか?」
夜の帳が国を囲って随分と時間が経った頃、城の一角に蝋燭が燈った部屋があった。
蝋燭の光に照らされて浮かぶ影は全部で五つ。
腕を組み窓際に背中を付けた状態で、エリオットは椅子に座るジルベルトに声をかける。その顔には、遣る瀬無さという文字が張り付けているようで、その眉はハの字を思わせるほど下がっていた。
彼は言葉に無言で同意するのは、床に片膝を付く二人の男達。
二人の男性は隠密を司る者が着るような真っ黒な装束を身に纏っている。
自分の隣で椅子の横に座る込み、泣きそうになりながら見上げてくるエメにちらりと視線をやった後、ジルベルトは無言で頷き、エリオットの瞳を真っ直ぐに見据えた。
「この国は、あの時滅ぶべきだった。それをさせなかったのは俺のせい。最初こそ復讐のためであったが、今は償いの気持ちとしてその任を全うしたい」
「王………」
エリオットが呟く。
その瞳は、まるですべての感情を殺す様に細められたままで、彼が本当に何を考えているかなど誰も知りえない。
「とはいえお前達には、随分と無理難題を押し付けてしまったがな」
小さく笑う年若いジルベルトの顔は、この場の誰よりも疲れ切っているように見えたので、男達は頭を垂れたまま無言で心を押し殺した。
王のその心中、察しても余りある。
「いいえ、滅相もありません」
「王の力になることこそ、我らの本望」
先の革命の中で、利害が一致したからこそ結ばれた関係ではあったけれど、今更になってこれが本当に良いことだったのかと、彼らの頭の中に疑問が生まれつつもあった。
それは、この王がこれから何をしようとしているか分かっているからだ。
「最後の、報告を」
ジルベルトに促され、男の一人が深く頭を下げる。
彼は、城から動くことができないジルの代わりに隣国と密に連絡を取ってきた密偵だった。この国で、彼の存在を知る者は居ない。この場に居る者達を除いては。
「隣国との交渉は滞りなく。すでに人事の配置など最終調整にも入っております故、後はこの国の民の出方と王次第、とのことです」
彼に続くように、同じく隣国からの使者としてこの件に関わっているエリオットが付け足すように口を開いた。
「パトリシアに関しても、その待遇と安全は私にお任せ下さい。また、メイ様やその他の民達の安全もしっかり保障するという約束を、我らは違えることはありません」
「そうか」
小さく頷くジルの表情は清らかだった。
「革命軍の方は」
先の男より少し年若い男が顔を上げた。
「王の進言通り、前回の王都内での暴動を筆頭に、その士気は上がっています。また、この度行われた貴族の一掃により、彼らの標的はほぼこの城、そして王自身に絞られたといってもいいでしょう」
そう言う彼は唇の端を小さく噛みしめながら王を見つめていた。
彼もまた、先の革命の折りに出会ったジルの志に賛同して、革命軍へのスパイを買って出た男だった。王都内で芽衣子が出くわした革命軍の暴動は、ジルベルトと彼の計画の一部だったのである。
報告を聞き終えたジルベルトは、瞼を伏せるだけで何も言わない。けれど少しした後、隣に立ちただただ悔しそうに座り込むエメに、彼はそっと声をかけた。
幼き頃より母のように姉のように慕ってきた彼女に、辛い思いをさせると分かっていながら、彼は自分の計画を止めるつもりはなかった。
「メイコがな、言っていたんだ。起きてしまった事を嘆き続けるより、そこから始まる未来に向かって顔を上げろと。あの時、メイコを殺されパトリシアを奪われたと思ったからこそ俺は王の座に就こうと思った。すべては復讐のために始まったことだ。けれど、そうして王になったことで出来たことが沢山ある。計画の遂行はもちろんのこと、妹や、残されるお前達の未来のためにも、な」
喋る王の瞳はどこか遠くを見ているようで、すでに彼の心がここにない事を窺わせた。
エメは唇を噛み締める。芽衣子が目の前に現れてくれても尚、王の気持ちは代えられなかったということなのだろうか。
芽衣子の存在を隠して王に会わせたあの賭けの中で、自分は少しでも希望を見出していたというのに。
「………彼女が教えてくれたんだ。あの時の決心は、きっと間違っていなかったと。あの出来事があったから、今があるのだと思えば、復讐以外の穏やかな気持ちで、これからに望むことができる」
室内に響き渡る彼の声音は、どこか静けさと虚しさを伴っていて、聞く人間の脳裏に荒野の風景を浮かび上がらせた。そこには、殺風景な画像があるだけで、何も残っていない。そんな、侘しい光景。
皆、押し黙る事しか出来なかった。
「最後の王族である俺の命を持って、この国と王族に終焉を。長きに渡って続く革命に終わりを。そうしてようやくこの地に本当の意味での平和が訪れることだろう。それが、王として俺に出来る最後の仕事だ」
黙ったまま、エリオットは義理の兄になるべきはずだった男を見つめる。
年若きこの王は、その命と共にすべてを終わらせるつもりでいるのだ。
十年間の想いを道連れにして。




