忍び寄る彼女の魔の手
年明け一発目の更新になります!!
拙い作品と作者でありますが、今年もよろしくお願い致します m(_ _)m
パトリシアの隣国への輿入れが決まり、ジルの婚約者が城にやってきた。
それは、城に住まう人々の気分を盛り上げるには充分な要素だったはずだ。
少なくとも、私にとっては。
まぁその後に、数日前までは、なんて言葉を付け加えるんだけどね。
「ひ、ひどいですわっ………」
「………うーん?」
目の前では、赤毛のお嬢様が泣き崩れている。
私はそれに比例するように首を傾げるばかり。
クリクリとした明るい茶色の瞳からは止めどなく大量の雫が零れている。
「無礼者が!!」
そんな彼女を両隣から支えている彼女のお付きの侍女達が、ものすごい形相で私を睨み付けてきているし。
だけど私には、こんな風に泣かれる謂れもこんなに怒られるようなことをした覚えもまったくもってこれっぽちもなかった。
あるとすれば、ただ純粋な疑問。
自分の足元にある木の箱に目を落とせば、ご丁寧にラッピングされたネズミの死体が見えた。
「こんなものをお嬢様の御前に持ってくるなど!!なにをお考えですか!」
「彼女がゲテモノを嫌いだと分かっていてわざとですね!」
「一度ならぬ二度までも!」
解せぬ。
「よいのです。皆の者、ワタクシが心弱いのが原因。きっとこの方に他意はないはず。元は小さな村の出身というではありませっか。きっと小さな土産のつもりだったのでしょう」
「あぁエカテリーナ様!」
「なんとお優しいっ!」
侍女達の私を罵倒する言葉が続き、エカテリーナ嬢のまったくフォローになってない失礼な言葉も聞こえたけれど、そんなのあんまり気にはならなかった。
眉を寄せ、木箱に入っていたと思われる一枚のカードのような紙を手に取る。
そこには、『エカテリーナ様へ メイより』
なんて文字がご丁寧に並べてあった。
ちなみに、私はこんなもの送ってない。
ネズミなんて城のどこでとればいいのかと頭を傾げてしまうほどだ。
廊下を歩いていた私に、侍女の服を着た女性が木箱を持ってやってきて、これを彼女に届けるようにとお願いされただけのこと。
もちろん一度は断りましたよ。
これは私の管轄外だと。
だけど十分以上も粘られたうえ、最終的に足元に置いて去ってしまったので、他に選択肢がなかった。
こんなことなら、先にエメかクラウディに確認してもらうんだった。
このお嬢様が来てからというもの、上層部の皆様は忙しそうで声をかけていいか迷ったんだよね。
皆が忙しいのか護衛の騎士もつかなくなったし。ブライアンに最後に会ったのは、実に一週間以上前のこと。それも、廊下ですれ違っただけ。
「いや、だから、頼まれただけですって」
「誰にですか!」
「侍女の服を着ていたとしか………」
「なんとまぁ浅はかな嘘をっ!」
これらの会話を、開け放たれた扉の前で行っていたものだから、騒動を聞きつけた周りの人々が集まり始めた。
一方的に言葉を投げつけられる私と、その傍に転がる木箱を目にとめた彼らは、もちろん責めるような視線を私に向けてきた。
しかも、これで二回目なんだよねぇ、この遣り取り。
一度目はムカデの大量発生した土が詰め込まれていた。
学習しようか、私。
「パトリシア王女の乳母などという位置にいらっしゃるようですけれど、素性の知れない貴女のような人が何故王族の傍にいるのかが理解しかねます」
「………メルシー」
年嵩の女性が矛先を私自身に向けてきた。
困ったように眉を下げる姫は、力なく彼女の名前を呼ぶだけだ。曲がりなりにも客人として城にいるはずなのに、自分の侍女を諌めようともしない。
ここまでくると、疑心暗鬼を抱かずにはいられない。もしかして、私、目の敵にされてるのかな、なんて。
「そもそも貴女のような人を、何故王が傍に置いておくのかと」
目を瞑り懇々と諭す様に話すメルシーと呼ばれた女性の隣で、令嬢や他の侍女達が驚きに引き攣り、次の瞬間には青く転じていた。
首を傾げ後ろを振り向こうとした瞬間、両隣に感じた人の気配。
「私の母が何か?」
「お口が過ぎるかと思いますが」
「!」
私を護るように両側から姿を現したのは、未来の娘夫婦だ。
「エリオット王子………」
「ぱ、パトリシア、様」
エカテリーナ嬢の視線が泳ぐように動いた。
そこで核心に変わる。これらの茶番は、この人達に仕込まれたことだと。
これからどうすれば良いかと思案を始めた刹那、エリオットが一歩前に進み言い切った。
「この方はこのパトリシア王女を護り育て上げた、誰にも代えがたい、唯一無二の方。それを素性の知れぬ女性と言い切ったあなた方こそ、育ちが知れるというものではないでしょうか。………同じこの城に滞在する客人として、恥を知りなさい」
「エリオット様………」
母は、娘が恋に落ちる瞬間に立ち会ってしまいました。
うん。
私達を背後に守るようにそう言い放ったエリオットは、確かに手放しで惚れてしまいそうになるくらいにはかっこよかった。




