パーティの準備
「え、ぱ、パーティ!?パーティって、あの!?」
急にクラリスに呼ばれたかと思えば、なにやら沢山の女性達に囲まれた。
中央に立たされ、腕を引っ張られ足を測られされるがままに一回転したりもした。
目を白黒させていれば、私を呼んだ張本人が少し遅れて部屋の中に入ってくる。
てか、呼んだのに部屋に居ないってどういうこと。
説明を求めれば、何故かパーティへの参加を告げられたのだ。
なんでも今は、そのパーティで着るためのドレスの寸法を測っているのだそう。
「あの、というのには些か引っ掛かりを覚えますが、まぁ、パーティですわね」
「あの、キラキラでギラギラで眩しくてみんながうふふあははってする!?」
ドラマや映画でしか見たことのないパーティのイメージを言葉にしてみれば、何故か半分以上が擬音語という意味不明な結果になった。
説明していてわけわからん。
私ですら分からないのだ、きっと聞く方は更に分からないだろう。
見れば、私を見つめるクラリスの目が半分据わっている。返答するのも億劫になったのか、額に手をやって無言で首を振っていた。
針子の皆様は職務に忠実なようで、私達の会話を無言スルーしていらっしゃる。
「クラリス様。ドレスはどのように」
採寸が終わった後、中でも上司っぽい風格の年嵩のある女性が、何故か着る私ではなくクラリスに指示を仰ぎ出した。
「あまり若者向けではなく、かといって年寄りっぽいものもいただけませんわ。流行を全面に押し出すのではなく、端々に忍ばせるのが良いですわね」
「おーい、クラリスさーんやーい」
声を掛ければ、話をしていたクラリスが私をちらりと見て、すぐに視線を手元の資料に戻してしまう。
私の意見は丸っと無視らしい。
いいもんね。
少しいじけモードに入った私は、そのままぶつくさ小言を呟きながら窓の傍に寄る。
王族に連なる者ではないはずのクラリスは、その生い立ちと王への信頼の強さのためか、自分の部屋を王宮に持っていた。
この王宮の部屋に共通するのは、その大きな窓。
何とはなしに視線を窓の外に向ければ、ジルとパトリシアが何か語り合いながら歩いているのが見えた。
つい先日から、彼らを一緒に見ることが増えた気がする。
兄妹が仲良くしているのを見るのはとても嬉しい。
半分私が引き離していたようなものだし。
ふとパトリシアが視線を上げ、窓から下を覗いている私に気が付いたようで元気よく腕を振ってくる。
つられて顔を上げたジルは、表情を変えることなくただ私を見て、すぐに視線を逸らした。
兄妹なのにあまりにも違う対応をされてしまったものだから、誰に言うわけでもなく心の中で笑っていれば、背後からクラリスに声を掛けられた。
窓から離れクラリスの元へ寄れば、沢山の布を手にとった彼女が私を見つめてきた。
「お好きな色はありまして?」
「色?うーん。緑とか、黄色とか?」
「濃い青にしましょう」
ちょっと、私にわざわざ聞いた意味!!
とまぁ、そんな会話をしたこともありましたけどね。
長い間社交界に身を置き、公爵令嬢として教育を受けてきたクラリスは、やっぱり私なんかじゃ太刀打ちできないくらいセンスが良かった。
「わぁー」
数日後に贈られてきたドレスの入った箱を手渡され、恐る恐る開いた私の目の前に広がったのは、海の底よりも深い青。
青色、というよりもその色の深みから藍色と表したほうが近いかもしれない。
「サイズを確認しますので、さぁ、ご試着くださいませ」
ドレスを持ってきてくれた女の人の言われるがままにドレスに袖を通す。
その際、何故か鏡をすべて隠されてしまった。
もちろん、それがクラリスの仕業だっていうのは分かっているので、ドレスを着て、試着室のように仕切りで区切られた場所から顔だしつつ無言の圧を飛ばせば、完全無視された。
うぅぅ。
なんか最近扱いが雑じゃない。なんて肩で溜息をついていると、クラリスの隣に立っていた人物達が一斉に口を開いた。
「おぉ、いいんじゃねぇか」
暢気に笑ってるけど王の護衛はどうしたのですか、隊長。
「やはり、女性にはドレスですね。美しさに磨きがかかります」
そんなに甘い笑顔で見つめられたら溶けちゃいそうなんですが執務の手伝いはいいんですか、宰相。
「クラリス様にお任せして正解でしたね」
うーん、侍女長の立ち位置が今一分かっていないので、彼女はスルーすることにしましょう。
いつの間にか見知った顔が勢揃いしていた。
鏡がないので、正直自分がどう見えているのかさっぱりわからず、逆に恥ずかしくなってくる。かなりまじまじと見られているから尚更。
思わず自分の胸を、まるでお風呂上りに同居人と鉢合わせしてしまった若い子のように手で隠してしまったことはスルーでお願いします。
「てか、なんでここに居るの?」
「もちろん、あなたを更に輝かせるためですわ!」
まるで指揮者のごとく腕を広げて自身を主張し始めた令嬢に、嫌な予感を覚えた。
と、同時に、彼女の返答がまったく私の質問の答えになっていない事に、果たして何人が気が付いただろうか。
「まーなんだ」
さてどうしようかと思案していた私に助け船を出してくれたのは、年長のクラウディ。
「今回のパーティは偉いさん達も招かれてるしな、この国唯一の王女の育ての親として、メイ様を完璧に仕立て上げようってこった。一人の意見より、多数の意見っていうだろ」
なんだか、腑に落ちない所もあるけれど、すでにみんなが針子の人達に自分達の意見を伝え打ち合わせを始めたものだから、口を噤むしかなかった。
クラウディは、俺はこういう事には疎いんだ、なんて言って基本私の隣に立ってぼけっとしていただけ。
………ほんと、何で来たのよ。
けれど頭に手を乗せて、『いいもんが見れたありがとよ』なんて言ってにかっと笑うから、しょうがないなと溜息をつきつつ、心の中の愚痴はすべて呑み込むことにした。
「さぁ、どうなるかな」
「ふふふ、好みの要素をふんだんに取り込んだのですから、面白いものが見られるはずですわ!」
「メイ様が着ている、というだけで十分な気もしますけれどね」
途中までドレスに関する事を話し合っていたクラリス達が、気が付けば理解の出来ない内容を話していたので、黙って首を傾げてみる。
ついでに隣に立つクラウディに説明を求めてみたけれど、彼は頭の後ろで腕を組んで、明後日の方向に視線を逸らした。
「俺は何も知らねぇ」
むしろこの最後の会話こそが、彼らがやってきた本当の理由だったのだけれど、もちろんこの時の私が知る由もなかった。
余談だが、クラリスはドレスを試着した際私が無言でガンを飛ばしていた事を分かっていたようだ。その意味合いについても、理解していたようである。
お針の人達が最終調整をしてドレスを持ち帰った後に、
「すべては、着てからのお楽しみですわ」
とウィンクを残して去って行った。
基本怒ってるか不機嫌な感じの女の子なので、こんな風に甘い顔をされるとギャップ萌えが半端ない。
―――しょうがない。可愛かったので、許すことにします。




