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幸せの愛言葉を探して  作者: あかり
小憩編
38/77

動き出した歯車は止まらない (第三者視点)

今回も少し遅れてしまいました。

ごめんなさい。最近中々決まった時間に更新できないのがもどかしい………。


「ジルベルト!!あなた何故城下町なんかに!!」


 クラリスの怒りを含んだ叫びが王の執務室に轟くと同時に、何かが机に叩きつけられる音がした。

 もちろん、クラリスが勢いよく机に手を付いた時の衝撃の音だ。


 その机の奥にある椅子に座っているジルは、不機嫌そうな表情を崩すことなく、目の前で憤る令嬢を見上げている。 


「お前達がどこでもいいというから行っただけだ」

「だからと言って、メイ様まで危険な目に合わせては………」

 思わず、といった様子のエメが口を出せば、ジルの眉間の皺は更に深まった。

「守れる自信があった」


 もちろん、その言葉を鵜呑みにするような側近達ではない。


 机の横、つまりジルの隣に立ったまま腕組みをしていたセリムが、眉を寄せつつジルを見つめている。

 もちろん、その険しさは、ジルやクラウディに比べればそこまで恐ろしいものでもないが。


「まったく。今回は何もなかったからよかったものの………」

 金髪の青年は咎める視線を緩めず一心に王だけを見ている。

「なにを企んでるの?こんなにうまい話があるわけないでしょ」

「何の話だ」

「王が直々に城の外にでて、護衛隊の数を増やしたその日、その時間帯にあの場所で、初めての暴動が起きる、なんて、奇跡としかいえないタイミングだよね?」

「なら、奇跡なんだろう。神に感謝しなければな」


 あくまでもはぐらかす様な素振りを崩さない王を前に、側近達は息をついた。


 神なんぞ、信じても居ないくせに。


 齢十五にして王の座についた彼の実力は本物であるし、無理やり大人の階段を駆け上がるしか生きる術のなかった彼の苦悩は、誰よりも分かっている。


 だからこそ、もし王自らが何かをしようとしているなら、早速側近達に止められる術などどこにもない。


 誰よりも賢く、臆病で、そして愛情深い現王、ジルベルト。

 そんな彼が一度決めたのなら、必ずやり遂げるつもりだろう。


「危険な事を、考えているわけではない、ね?」

 セリムが念のためといった体で恐る恐る伺いを立てるように尋ねれば、ジルベルトが軽く頭を振った。

「あぁ。お前達が危険に晒されるような心配はない」



 頑固者のジルベルトを見守っていた側近達は、もうこれ以上は何も聞けないだろうとそれぞれ盛大な溜息をついてみせる。


 ほぼ同時に出たその音は、かなり大きく部屋に響き渡った。

 椅子に座るジルベルトの片眉が何事かと持ち上がったが、知らぬ存ぜぬの状態を突き通す四人の側近達。


 机を離れ、執務室に置いてある長椅子に、金髪の令嬢は疲れたように座り込んだ。

 同じく金の髪を持つ宰相は、王の机の上の資料に手を伸ばす。


 赤茶の髪の護衛は、窓を開けたばこを吸い始めたし、エメに至っては窓際に立ったまま深呼吸を始める始末。

 もちろん、たばこの煙が向かってこない風上に立っている。


「それで、メイとのデートはどうでしたの?」

「っな!」

 ようやく、王の澄ました顔に動揺の色が走った。


 釣竿に喰いついた獲物を取り逃がすほど、阿呆な側近達では決してない。


「なんか、いい雰囲気だったみたいだよ」

「せ、セリム!!」

「僕が見つけた時、手なんか繋いでさ。………きっと、その前はもっと凄いことしてたんじゃないかな」

「あらあら、十年間閉じ込めてた想いの暴走ですわね。破廉恥ですわ」

 鬱憤を晴らそうとでもいうように、クラリスとセリムは言い募った。

「おい!!」

 セリムを黙らせようと伸ばしたジルの手は、軽やかな動きで避けられる。


 そのまま、宰相の位に着く年若い青年は、これまたこの国唯一の公爵令嬢である少女の傍で立ち止まると、二人は揃って王を振り返った。


 その顔には、にやりと下品な笑顔が浮かんでいる。


「っ!」

 空恐ろしさを感じさせるその笑顔に、ジルベルトの顔が引き攣った。 


 

 ある意味意趣返しも含まれているののだろう。その後少し経ってもなお、二人は王を茶化す雰囲気を少しも緩める気配を見せなかった。


「ったく、元気なこって………」

「ふふふ、お父様の教育の賜物ですね」


 たばこを吹かしたまま、窓の縁に背中を預けているクラウディが、目の前の若者達の間で繰り広げられる騒動にぼそりと感想をもらせば、その言葉を聞きとがめたエメが口元に手を当てて穏やかに笑う。


「親父って、俺か?」

「違います?」

「そんな歳でもないでしょうよ」

「そのようなものでしょう」

 げんなりとした表情を見せるクラウディにエメは笑いを絶やさない。


 しかし、言われっぱなしの彼でもなかった。いつでも笑顔を絶やさないエメを横目で見て、彼は口元だけを持ち上げる。


「さしずめ、お前はお袋ってところか」

「お姉さまを希望します」

「………」


 結局、クラウディに勝ち目はないのだ。



✿  ✿  ✿



 ある日の夕刻、パトリシアは兄ジルベルトの執務室を訪れていた。


 芽衣子には何も言わずに来るように、それが王命として付け加えられていたため、ここに居るのはパトリシアとジルベルトの兄妹のみ。


 先ほど告げられた兄からの言葉に、パトリシアは笑顔だったその表情を緊張を帯びたものに変えていた。


 真っ直ぐに兄を見つめる。

 兄だと一目見ただけですぐにわかるほど似通ったその顔立ちは、妹よりもすっきりとした精悍さが目立つ。


 確かに、一番最初に芽衣子にしたことは許されるようなものではないけれど、その後彼を観察していればわかるその不器用に、だけれど一心に芽衣子を想う姿に、いつしかパトリシアは兄への情を取り戻しつつあった。


 十年間の空白はあれど、二人が一番に想う者は同じ。


「それは、王命ですか」

「そう、とってもらっても構わない」

 兄の顔は彫刻のように無機質で、氷のように冷たさを伴っているようだ。


 それがもし、彼なりの気持ちの守り方であるのならば。


 パトリシアは頷いた。


 兄の座る背後から見える夕日が目に眩しくて、微かに瞳を眇める。

 村で最後に見た夕日は、果たしてこんな色だったか。あれからもうすでに長い年月が経ったように思えるほど、パトリシアはあの日の夕陽を思い出せなかった。


 あのまま、母と慕った人の隣で、静かに緩やかに月日を重ねていくはずだったというのに。


 己を取り巻く歯車の回りだす音に耳を澄ませながら、幼いながらも自分の立ち位置を誰よりも理解しているその少女は、その瞳をきらりと閃かせた。


「お兄様が言うのならば、わたしはその命に従いましょう。………王女として、隣国の王子の元へ嫁ぎます」





これにて小憩編が終了。

少しずつ隠されてきた謎やら伏線の回収に動きだしたいと思います。

皆様が感じていた違和感や疑問についても解消できるよう、頑張ります!!

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