城の愉快な仲間達 2 (第三者視点)
「不味いですわよ。一向に事態が進展致しませんわ」
「本当に、困りましたねぇ」
例の談話室にて、燃え上がる炎を目の前に顔を突き合わせる女性が二人。
「………あんまり困ったように見えないのはなんでだろう。ていうか、二人共怖いよ」
「ったく、ほっとけよ」
そんな彼女達を呆れた様子で遠巻きに見つめる二人の青年。
「いっその事当て馬作戦でもしてみるっていうのは?」
そして、四人の真ん中に突如現れた小柄な影が一つ。
「「「!?」」」
「あら、パトリシア様」
飛び上った三人とは対照的に、エメは瞳を瞬かせただけで、瞬時に自分の仕事をこなすべく立ち上がる。
腐ってもこの城のメイド長である。
すぐにパトリシアを座り心地の良い椅子に案内し、彼女のための紅茶を作るために部屋の隅にあったカートへ歩いていった。
「パトリシア様、何故ここを?」
「お兄様に教えてもらったの。お兄様や皆さんしか入ることのできない談話室なんでしょう?」
金髪の令嬢が、未だに落ち着かない己の心臓を宥めすかしながら幼い姫に聞けば、至極正当な答えが返ってきた。
村の人々に大輪の花とも評されたその笑顔を咲かせたまま、パトリシアは口を開く。
「最近クラリス様やエメ様達が面白いことをしているようだったから、わたしも仲間に入れてもらおうと思って!」
可愛らしい笑顔であまり褒められないことを言いきった姫を見つめていたクラウディは、責めの視線をクラリスに向ける。
向けられた令嬢は、うまい具合に顔を逸らし無視を決め込んだようだ。
一方、同じような視線をセリムに向けられていたエメは、それを真正面から受け止めニッコリと笑って見せたものだから、セリムの方が少しだけ頬を染め顔を俯かせて黙ってしまった。
最強である。
「そうですか。それは心強いですね」
「ちょ、エメ」
紅茶の入ったティーカップをそっとパトリシアに手渡し、エメが笑う。
焦った様子のクラリスが言葉を遮るように声を上げた。
ジルベルトと芽衣子の件について暴走していたはずの彼女も、年若い少女を入れることに抵抗を覚えるほどには理性は保っていたらしい。
しかし、メイド長はそれを笑顔でぶった切った。
「どちらにしろ、パトリシア様はきっとジルベルト様にとって越えなければいけない最大の難関。でしたら、最初からパトリシア様もこちら側にて様子を見せて差し上げればよいと思いますよ。わたくし達も納得し、そして妹姫様も同意する。一石二鳥ではありませんか」
その割に、笑顔が黒く輝いているのは何故か。
パトリシアを除く三人は、反論せずに視線だけを逸らすことで無言の同意を示した。
「わぁ!ありがとう!」
無邪気なパトリシアは喜びの言葉を告げた後紅茶を飲むことにしたようで、ゆっくりとカップを口元に持っていく。
姫の隣に腰を下ろし暖かく見つめるエメに、他意は見受けられない。
けれど、クラリスやセリム、クラウディは知っている。彼女が、これ以上にないほど現状を楽しでいることに。出来るだけ面白おかしくするために、パトリシアを引き入れたという認識は決して間違ってはいないだろう。
ただ、とりあえずそれが彼らやジルベルトに対して本当の意味で不利にならない事だけが救いだった。
敵に回せば最後、物語りの中で語り継がれる魔王という存在よりも厄介な者になるだろう。
気を取り直したように、椅子に座り直し軽く咳払いをすることでその場の空気をまとめたクラリスが口を開く。
「確かに、姫様の介入はとても心強いですわね」
「クラリス様、いつも通りにして。わたしはこの中では一番の若輩者なのだし」
「ですが姫様」
「この集まりの間は、姫ではないわ。わたしは、ただお母さんの娘として行末を案じているの。だからお願い」
パトリシアの持つ水晶の瞳から放たれる、暖炉の光に反射した煌めきが一心にクラリスに注がれる。
閑念したようにクラリスが溜息をついた。
芽衣子から、パトリシアについて聞いたことがあった。
それは、彼女がどれだけ頑固で一本気かということ。困ったように眉を下げながらも、その笑みは誇らしげに輝いていたのは記憶に新しい。
母親代わりの芽衣子がそう評するのだ。
クラリスにどうこうできるモノでもないのだろう。
「えぇ、じゃあパトリシア様、これからどうぞよろしく」
「はい!!」
二人を見守っていたエメの笑みが更に深くなった。
「それで、パトリシア様の先ほど言いかけていた案というのは?」
話を振られたことがよほど嬉しかったのだろう、パトリシアは顔をぱっと輝かせてクラリスとエメを見上げる。
「お兄様が少しでも危機感を覚えるように、当て馬作戦を決行したらいんじゃないかと思って。いい機会だし、ブライアンには尊い犠牲になってもらいましょう」
笑顔が浮かんだ瞬間なんて可愛らしいのだろうと周りが吐息を零しそうになった刹那、少女の顔がまるで意地悪を企む継母のように下世話な笑みを浮かべたものだから、見守っていた大人三人は寒気を覚え、一人の女性があららと口元に手をやる。
「ブライアンは少しお母さんを気になっているみたいだけれど、残念ながらわたしは彼を認めるつもりはないの。だから、丁度いいかなと思って」
離れていた十年、この少女が一体どのような教育を受けていたのか非常に気になると同時に、ブライアンという護衛に少しの不憫さを感じつつ、それこそ知らない方が良いだろうと大人達は口を噤んだ。
「それじゃあ、詳しい話を聞かせてください」
エメが続きを促し、少し引き気味だったクラリスも背に腹は代えられぬと身を乗り出し、作戦会議は開始されたのだった。
というわけで、若干十二歳の少女を仲間に加え、話しは進む。
それを遠巻きに眺め、忘れ去られたような気分になりつつも、男性二人はお互い目配せをし沈黙を貫くことにした。
彼女達の白熱する会話の数々に押され、彼らは今背後の窓の縁に追いやられていた。
「………あれ、どうするよ」
「僕を見ないで」
クラウディの弱り切った声をセリムがばっさりと叩き切った。
「あーも、知らねぇぞどうなっても」
唯一味方であると思った青年からの冷たい返答に、年長者の彼は苛立ったようにその髪を掻き毟る。そのせいで、後ろで括っていた彼の髪型が少々悲惨な事になってしまったがそれを突っ込むものは誰も居ない。
「女性ってこういうの好きじゃない?………みんなジルベルトのためにやってるんだし、別にそんなに深刻にならなくてもいいでしょ。それに僕、女性が楽しそうにしている姿を見るの、結構好きなんだよね」
のほほんと笑っている彼の瞳が、ただ一人の女性を映していることを、クラウディは知っている。
すべての気持ちを閉じ込めて笑うセリムに気が付いて、クラウディは口を噤んだ。
「(すまねぇ、ジル。俺には無理だ)」
一方、王の執務室では。
「くしゅん!」
「王、やはりお風邪を召されたのでは?最近よくくしゃみをされておりますが」
「いや、大丈夫だ。………(嫌な予感しかしない)」




