神々しいほどに美しい彼
調子が良いので二話連続投稿です!
ある程度の事情を聞いても、私はパトリシアが娘であることを誇りに思えど嫌悪感を抱いたりはしなかった。
私のまったく動揺のない様子や揺るがない瞳を見つけたのか、ヨハンは再び満足そうに笑って見せた。
神殿は、祈りを捧げる場所以外基本女人禁制の神聖な場所らしく、私達は早々にその場所を立ち去ることにした。
去り際、小心者の私は、掟に背いていると思ってドキドキしながら少し小走りに進んでいたのだけれど、それをけらけら笑いながら眺めていたヨハンはかなりのんびりとしていた。
思わず文句を言えば、「私は、こんな事で怒るような器の小さい神様なんて信仰しないから大丈夫だよ」なんて非常に罰当たりな返答が返ってきたので、逆に肩の力を抜かれたのはここだけの秘密である。
来た時の同じ一本道を通り抜け、門番の居るシンプルな門を潜り、渡り廊下に差し掛かった所でヨハンにマントを脱ぐように促された。
「メイコ!!」
「あ、ジル」
「やぁ」
マントを脱いでまさにそれをヨハンに手渡した直後、渡り廊下に突如姿を現した人物が居た。
よほど急いできたのか、私達の傍に立ち止まった直後肩で息をしていた彼は、睨み付けるように自分の兄を見ていた。
長い前髪が瞳をやんわりと隠しているにも関わらず、何故かその射殺さんばかりに殺気の籠った視線は感じられたので、向けられていないはずの私が思わず身じろぎしてしまったではないか。
「なに?」
とりあえず見た目だけで、平常心を保っていますよアピールをしている私に比べ、直接その視線を浴びせられているはずのヨハンはその笑みを絶やすことなく、むしろ暖かみの増した笑みで弟を見つめていた。
彼らの身長はほぼ同じくらい。むしろジルの方が少し大きいかも。
てか二人共ほんと綺麗だなぁ。
ジルもだいぶ綺麗だと思っていたけれど、こうしてヨハンと並ぶとよほど精悍な顔つきをしている。てか、ヨハンが中性的過ぎるのか。
いいなぁ、私がもう少し若かったらきゃあきゃあ言ってるわぁ。
だなんて、少し現実逃避をしていた時もありました。
「メイコに、何を」
あれ、話題って私?
麗しい兄弟の会話の邪魔をしないようにどうにか傍の石っころにで徹しようと思っていた矢先、名前を呼ばれてしまった。
顔を上げればジルの視線が私に突き刺さる。
その容赦ない鋭さに、思わずしゃっくりと共に肩が飛び上ってしまった。
「………っ」
私の思いもしない反応に、ジルが一瞬傷ついた顔をする。
いや、今のは完全不可抗力ですから!いきなりそんな怖い顔で見られたら、別に怖くなくても驚くぐらいしますから!
心の中では幾らでも反論できるのだけれど、実際の空気が空気なだけに、口には出さない。
小心者なんですから、わたくし。
「こらこら。そんな怖い顔してたら、誰だってビックリするだろう。落ち着きなさい。………別に、変な事は言ってはいないつもりだよ。ただ、知っておいた方がいいだろう事を教えただけ。どうせ、君達は言わないと思ったからね」
お兄様と呼ばせてください!
私の心の内を寸分たがわず代弁してくれたヨハンを、私はつい先ほどまでの反発を忘れてキラキラした瞳で見上げてしまった。
「俺達があえて黙っていたことぐらい、あなたほどの人ならわかるはずだっ」
ジルは怒鳴る気持ちを抑えようとしているようだけど、それは見事に失敗に終わっている。その口から零れ落ちるのは、堪え切れない激情。
「けれど、その選択肢も与えられないのは可哀想だ」
「知らせてどうするつもりだった」
「………さぁ、考えてなかったなぁ。ま、メイも大人だしね、きっとどうにかできるさ。それじゃあね」
「へ?」
数分前ヨハンをお兄様なんて呼ぼうとしていた私自身を蹴り飛ばしてあげたい。
ヨハンは片手を振りながら、にこやかな笑顔だけを振り巻いてそこを離れてしまった。
その見事すぎる丸投げ具合に、私も、怒り狂っていたであろうジルでさえ、反応が遅れる。
彼が逃げたのだと認識した時には、ヨハンは私達の視界から消えてしまっていたのだった。
「………」
まじか!!
気まずさしかないこの場に、私だけを置いていくか!むしろ私巻き込まれた側なのに!!
斜め後ろにいるであろうジルを、私は振り返られずにいる。それがさらに、この場の空気を重くする。
「メイコ」
「は、はい!!」
怖かったけど、強制的に振りかえざるを得ない状況になったので、良い子の返事と共に彼を向いた。
女は度胸さ。
見れば、ジルの怒りの沸騰地点はすでに過ぎてしまったようで、今は、どこか心もとない子犬のように項垂れている姿が重なるくらいに落ち込んでいる。
といっても、その表情はまったく子犬とは似ても似つかない無表情なんだけども。
「あいつに、なにか」
ジルの恐る恐るといったように紡がれた言葉に、私は小さく頭振るとくしゃりと笑って見せた。
「別に、心配されるようなことは何も。ただ、パトリシアちゃんの事とこの国の事を少しだけね」
「そう、か」
「大丈夫。聞いたけど、だからといって、何かが変わることはないから。何があっても、パトリシアは私の大事な子よ」
私の笑顔か、それとも言葉か、彼が見るからにほっとした顔をした。
先ほどまでのものとは明らかに違う類の無の表情に、私もとりあえず安心して、二人でしばし見つめ合った。
「「………」」
けれど数秒もしない内に居たたまれず目を逸らすことになる。
ジルは可愛い弟同然の存在ではあるんだけど、十年分の成長をすっ飛ばしての再会なもので、今の美青年ジルに対してあまり免疫力がないというのが本当のところ。
おばちゃん、こんな目に痛い美青年に関わったことがないからどうしたらいいのかわからないのです。というか、目のやり場に困る。
気を抜いたら最後、彼に穴が開くまで見つめちゃいそうだ。
先ほどとはまた違った気まずさが二人の間に横たわったように思う。
なんというか、気恥ずかしさというか。
いつまでもそうしてるわけにもいかないからそろそろと視線を上げれば、こちらも少し気まずげに私から顔を逸らしていたジルの横目とばっちり目が合ってしまい、再び視線を逸らす事になる。
え、なに、この甘酸っぱい感じのシチュエーション。
確かに片方はまさに小説の中の王子様って感じで絵になるんだけど、相手が見た目は大人中身はもっと大人、な私では少し無理があるでしょうよ。というか、ジルが可哀想よ。
そう思えば、少しだけ悲しい気もしたけど、変わりにこの場をやり過ごすだけの根性は戻ってきた気がする。
逸らしていた顔を真正面に向ける。
日の光に照らされてジルの白髪が弾ける様に輝いた。その瞳が複数の色を持ってキラキラ光る。一瞬のその神々しさに、目を奪われ呼吸を失った。
「………メイコ?」
「あ、」
「どうした」
「あ、ううん、なんでもない!!それより、ジル、王様なのにこんなとこに居ていいの?てか、よくわかったね、私達の場所」
私の質問を聞いて、ジルの表情が苦虫を口の中に放り込まれて思わず噛んでしまった人のように歪んだ。
「とある人物、達からの情報だ」
「え、複数形?」
弱気な笑顔だけが返ってきた。
そのままの表情で、ジルはヨハンの歩いて行った方向を見やった。
「………あいつの方が、よほどお前を護れるんだろうな」
「ん?」
話の流れが分からず小首を傾げてみるが、そんなことなど気にしない様子で彼は言葉を続けた。
「王という肩書など、この国ではあってないようなものだ。この国に、王は要らない」
「………王様をやってるのことは、あなたにとって重荷?」
ようやく私を見たジルが、虚を突かれたような顔をした。まるで、ようやく私が話を聞いていた事に気づいたかのように。
「重荷、ではないさ。俺にはやるべきことがある。ただそれだけだ」
「でも」
「王という肩書がなくなれば、俺はきっと用済みだ」
不穏な空気が流れた。
「それって、どういう………」
「俺はもう行く。一人で、戻れるか」
半分身を翻した状態で、ジルが尋ねてくる。この話は、ここで終わりということだろう。
こうなった彼は頑なだ。もう何を言っても思う返事は返ってこないことは分かっているので、心配を掛けないよう私は適当に返事をすることにした。
「あー、うん、大丈夫だと思う。どこかでブライアンが見つけてくれるはずだし」
「………部屋まで送っていく」
結局王様直々にお部屋まで連れて行ってくれました。
なんか恥ずかしいし気まずいわ!!
少しずつ、伏線回収に向かって歩き出しております。。。




