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幸せの愛言葉を探して  作者: あかり
小憩編
30/77

答えを探して歩む道筋


 朝食を食べ終わり、パトリシアを送りだした所で、私に会いたいという客人が居るという連絡を受けた。

 彼はパトリシアと私の部屋を繋ぐ応接間にいるらしく、急いで支度を済ませ部屋に入る。


 そこには、なんとも懐かしい顔があった。



「やぁ」

「ヨハン!」


 出会った時にはすでにある程度の歳であった彼は、十年経っても変わらない姿だった。 

 少し皺が出てきたようだけど、その胡散臭そうな笑顔も綺麗な顔も出会った時のまま。


「わぁ!久しぶりね!元気にしてた!?全然変わらないね、あ、でも少し皺ができたみたいっ!」

 思わぬ再会にテンションが上がり、少しスキップを交えながらヨハンの元へ走り寄り、その手を握って上下に揺らした。


「言葉が、本当に上手になったんだね」

 対するヨハンといえば、すっかり板についた大人の男な雰囲気を壊すことなくけれど器用に私に再会できたことを素直に喜んでいるようだった。


 彼の私を見る目が、まるで迷子になった子犬と再会した時のよう。


 あ、そのまんまだ。私が子犬じゃないだけで。


「今日はどうしたの?」


 よくよく見れば、ヨハンは出会った時のように白いローブを身に纏っている。顔から上は外気に晒されているが、その下は布に隠れて何も見えない。


 考えてみれば、私、ヨハンについて何も知らない。

 この世界に来て、初めて出会った人なのに。そして怪しさ満点なのに。


 あ、だからか。


 頭の中で一人漫才をするかのような会話が飛び交う。だから、一瞬だけ目の前の人物から注意が逸れた。


「メイに、聞かせておきたい話があってね。一緒に来てくれる?」

 語尾に疑問符を付けつつも、反論は許さないとその青い瞳が語っていた。

「う、うん」



 先導されるように歩き出す。


 今の私に、前の時のような制限はない。

 だから、城に部屋を与えられて早数日、パトリシアやブライアンと共に色々な場所を訪れた。この城のある程度の位置を把握するぐらいには見て回ったはずだった。


 この城には計四つの渡り廊下があって、その内三つは城の別館に続いているものなので、誰でも通ることができた。


 しかし一つだけ、厳し警護により入ることが出来ない場所があったのだ。

 その渡り廊下は真っ直ぐ木々の中を通っていて、その奥に何があるか窺い知ることはできない。渡り廊下の入り口には常に人が目を光らせている。


 特に用事もなかったし、興味もなかったので気にしていなかったけれど、今歩いているのはその四つ目の渡り廊下の方ではないでしょうか。


「あ、これ着といて」

 途中でヨハンがローブの中から何かを私に投げ渡してきた。


 それは、ヨハンと色違いの紺色のマント。


「顔までちゃんと隠しといてね。見つかると厄介だし」

「なに、しようとしているの?」


 怪しすぎるんですけど。


 本当にこの人を信用していいのかと脳が危険信号を送り始めてきた。受け取ったマントを広げたまま、それとヨハンを交互に見る。

 警戒という文字を隠すことなくその顔に浮かべ見上げる私の顔を見つめて、麗しい彼が苦笑いをする。


「別に、強制じゃないよ。でも、この国についてとか、パトリシアの事とか、色々気になってることを教えてあげようと思っただけ。まぁ、聞かなくていいなら、いいけど」

「パトリシア?」


 私の興味を引き付ける数少ない言葉を小さく呟いた後、ヨハンはにこりと笑った。

 それはまさに、誘拐犯が子供にお菓子を上げる時みたい。


「気になってるはずだよ。なんで、出会った頃の彼女があんな所に居たのか。あんな扱いを受けていたのか、とかね」

「………」


ずるい言い方だなとは思ったけど、決意を固めることにした。

 一度深呼吸をした後、マントを身体に纏った。フードを頭に被せて顔全体を影で隠せば、身を翻し颯爽を歩き出すヨハンを見つけた。


 慌ててその背を追いかけた。




 長い廊下を進み、渡り廊下を越え、いよいよ護衛の立つ木々の門の前を通り過ぎる。


 やはりヨハンはこの場所と深い関係があるのだろう。顔パスで通ることができた。


 もはや森の中と言ってもいいその場所を、渡り廊下のような道は導くように一本に真っ直ぐ伸びている。

 迷いのない足取りで十分ほど歩けば、門に守られ木々に姿を隠していたその場所が姿を現した。

 長く続いた道の先にそびえ立つのは、真っ白な細長い建物。


 正面から見れば三角形の形をしたその建物の一番上には、女神のような像が飾られている。その奥は細長い建物が続いていた。


 並び立つ木々の緑と、建物の白、そしてぽっかりと空いた建物の周りを照らす太陽の光。無条件で服従したくなるような光景で、それはまさに、唯人では到底お目に掛かれないような神々しさがあった。


「………ここは?」

 私の質問に答えることなく、ヨハンは無言でその建物の中に入っていく。


 自分が零した質問は、自分自身で答えを見つけることが出来た。


 三角形の建物の中に足を踏み入れた瞬間、ひんやりとしながらも穏やかな空気が全身を包み込む。

 正面にはステージのような場所と、その真ん中に立つ女神像。


 それに向き合うように並ぶのは沢山の長椅子。

 真ん中を歩けるように二つに分かれたそれは、昔どこかで見たことのある並びをしていた。


「教会?」

「神殿だよ」

 けれど、最初に足を踏み入れた教会のような場所には用がないのか、ヨハンの足は止まらない。


 彼を追って次に入った部屋は、四角形の決して小さくはない部屋。


 扉を開けてすぐに飛び込んできた対面の壁には細長い窓が一定の間隔で四つほど並んでいて、その前にはやけに立派な机が一つ。

 その上には書類が山積みになっていることから、ここはヨハンの仕事部屋かなにかだと予測した。


 扉と窓のない壁には、数枚に姿見が飾られている。

 向かって右側に三枚と左側にも三枚。その一枚にジルの姿があることから、歴代のこの国の王達であることがわかった。


 部屋の中央に立ち止まって、ヨハンは私を見た。


「今まで教える機会がなかっただけの話なんだけど、私は一応この国の神殿を管理する神殿官長という役職に着いている」

「………へぇ」


 私の生温い返事にヨハンの眉毛が片方上がった。まるでその答えが気に喰わないかのように。けれど、こちとらもう他のみんなのせいで耐性はついてきたもんでね。


 ごめんなさいね、ご期待に添えなくて。


 心の中であかんべと舌を出していれば、またにこりと笑った神殿官長の姿があった。


「それから、ジルベルトとパトリシアの兄でもある私は、この国の第二王子だよ」

「えぇぇぇぇぇ!!」

 驚きの絶叫が私の喉から迸る。


 やっぱり彼の方が一枚上手でしたね。いやはや、まだまだ甘かったか。






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