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幸せの愛言葉を探して  作者: あかり
再会編
23/77

ようやく再会できましたね



「「「!!」」」

 ごく少数の息を呑む音が、重なることによって大きな音となる。


 それが、最期に私が聞く声になると思った。


 思ったのだけれど。




「………あ、れ?」

 いつまで経っても変わることのない状況に、思わず声を出していた。


 声が出る。

 ということは、私は生きている。



 なんで?



 疑問が多すぎて動けずにいた私の視界に入ったのは、床に転がった剣。そうして聞こえた、カランという虚しい響き。


 周りから悲鳴が上がる。


「王!?」

「ジルベルト様!」


「?」

 ここでようやく、状況を確認しようと脳と身体が再起動を始めたようで、凍っていたはずの外気の音や空気が、一気に私の中に流込んできた。


 急なそれらを受け止められず、ふらふらとした心地のまま、上目遣いにそろそろと視線をあげてみれば。


「………?」

「め、い、こ?」


 震える声で、ふらふらと歩み寄ってきたジルが居た。

 極限にまで瞳を見開いた彼は、そのまま歩を進め、呆然自失状態で私のすぐ前に膝をついた状態で崩れ落ちた。


 声だけではない。今、彼は身体全体を震わせていた。


 その顔は、まるでこの世のすべての恐怖に出くわしてしまったかのような表情のまま、凍っていた。それこそ、見てはいけないものを見てしまったような。


 私はメドゥーサかなにかか。

 というか、こんな顔をされるとは思ってなかった。もっと感動的なものじゃないの、こういう時って。




 代わりにといってはなんだけれど、見開かれた彼の銀河に映る私自身は、とても間抜けな顔をしていた。



 王であるジルが床に膝をついて声を失っている。

 それは大変なことなはずなのに、ジルの驚きように呑み込まれ、誰も動けない。


 ジルの背後では、彼と同様に驚きに塗り固められた表情でこちらを見つめるセリムにクラウディ、そしてクラリスの姿があった。


 その様子が少し間抜けに見えて、思わずくすりと声を漏らしてしまったのだけど。

 

 私の声が引き金となり、周りの時が動き出す。 

 最初に声を上げたのは、すべての状況を把握していたであろうエメだ。


「ジルベルト様!」


 彼女が何を思って私の事を隠していたのかは、今は重要なことではない。けれど何か意図があって、私を処刑場ではなくこの場に呼んだのだろう。


 そして私は、生き残った。


「メイコ、なのか。本物、なのか」

 威厳もなにもない王の体勢を整えようと駆け寄ってきた人々を意に介した様子もなく、ジルはただその瞳に私だけを映し込む。

 辛うじて威厳を保とうとしている彼の顔は、歪なほど歪んでいた。


 馬車の中でみたパトリシアを思い出して、思わずやっぱり兄妹だなと納得してしまう。



 片手で頬を覆われて、更に上を向けさせられる。


 十年前は私よりも小さかったはずの手は、私の顔半分を覆ってしまうほど大きく成長していた。

 お互い膝をついて向き合っているのに、私が多少苦しい思いをして彼の顔を仰ぎ見なければいけないところからも、その著しい成長は窺い知ることが出来た。


「うん、芽衣子だよ。ごめんね、会いに来るのが、遅くなっちゃって」

「………っ!!」

 ジルの中の、感情を抑えていたダムが崩壊した音が聞こえた気がした。



 凝り固まっていたはずの表情が雪崩が起きたかのように歪み、氷に包まれた瞳が雪解けのように暖かな雫を流し出す。


 私の膝に上半身を預け、彼は十年の沈黙を破り、母親に縋る幼子のようにむせび泣いた。







 声を殺して泣き続けたジルは、いつの間にか私の膝の上に頭を預けたまま意識を失っていた。


 周りの人々は過労だと言っていたが、多分一連の衝撃が強すぎたのだろう。


 担架に乗せられて運ばれていくジルを見送る。 

 他の人達も空気を呼んでくれたのか、頭を下げて去っていく。




 大広間に残されたのは、私とエメ、クラウディにセリム、そしてクラリス。

 懐かしい面々だ。


 久々の再会だというのに、空気は重い。それぞれ顔を俯かせたまま、視線は合わさりもしない。

 多分、私の今までの境遇について思うところがあったのだと思う。


 私は全然大丈夫なのにな。というか、三度も救われてしまった己の命にある意味強運さえ感じ始めていたところだし。


 というわけで、私の方から動き出すことにしよう。


「みんな、久しぶりだね。すっかり大きくなっちゃって」

 片手を上げて、まるで朝出くわした隣人が今日の天気を語るかのようなに軽い口ぶりで、彼らに声をかけてみたのだ。


「「「「申し訳ありませんでしたっ!」」」」

「ぎゃ!?」


 あえて軽い感じで切り込んだというのに、今の若者は察するということができないらしい。


 エメを筆頭に、四人が同時に土下座をしたのだ。


 天下の警察の皆様もびっくりのキレキレのスライディング土下座だった。

 生でみたの初めてだよ。


 突然過ぎるそれに、思わず飛び上ってしまった私の気持ちもわかってほしい。物理的に、一センチ以上は確実に飛んだぞ。


「ろくに確認をすることもなく、決めつけとただの怒りだけであらゆる可能性を無視し、強引に事を進めた結果、メイ様には大変な思いをさせてしまいました」

 セリムが土下座のまま顔すら上げず言い募る。

 

 というか、絨毯に顔を押し付けているせいか、声がくぐもって聞こえた。


「ちょ、みんな、止めてよっ!」

 慌てて諌めようとするが、彼らは顔を上げてくれない。


 つられるように私も絨毯の上に膝をついた。

「名乗らなかった私も悪いの。だから、お互い様、ね?」


 恐る恐るというように上げられた四つの顔。


 彼らの顔を見て、再び胸が一杯になった。何度も一杯になってしまう胸に、今度こそ呼吸が止まってしまいそう。


「本当に、大きくなったんだね、みんな」

「っ、メイ!!」

 顔をくしゃくしゃにしたクラリスが、唐突に私の方に腕を伸ばしてきた。

 

 そしてその勢いを余すことなく受け止めた私は、膝立ちだった体勢から、後ろに盛大に尻餅をつくことになった。


「ばかばかばか!!!なんで連絡の一つも寄越さないのっ!ワタクシ達はてっきりあなたが殺されてしまったとばかりっ!」

 私の首筋に噛り付くようにして腕を回すクラリスの声は、涙声で震えていた。


「だって、私知らなかったんだよ。パトリシアが………ジルが、王族だったなんて」

「クラリス、起きてください。………メイ様、色々と説明しなければいけないようですね。どうぞこちらへ、ご案内します」


 気持ちの切り替えを誰よりも先に終えたであろうセリムが、私に手を伸ばしてくる。彼は背中に、色とりどりの花弁を背負っていた。


 出会った頃の、恥ずかしがり屋な男の子はもうどこにも居ない。


 十年って、すごい。




 セリム達と共にやってきた部屋には、パトリシアが目を腫らして待ち構えていた。私を見るや否や、勢いよく胸の中に飛び込んでくる。


 身長の低い彼女を受け止めることは、簡単だった。

 なんでも、私の処刑を止めようと奮闘して、自室に監禁されてしまっていたらしい。


 どうしよう。母ちゃんは、お目付け役の皆様に申し訳なくなってしまったよ。



「メイ様は、正式にパトリシア様の育ての母としてこの城へ滞在して頂きます。お部屋もパトリシア様の隣に用意させておりますので、しばしお待ちください」

「あ、ありがとう」

「お母さん!!これでまた一緒ね!!」


 セリムの言葉に満足に返答をする前に、パトリシアが腫れた瞳のまま大きな笑顔を浮かべて私の周りを駆けまわる。

 いつもはこんな風に幼い行動はとらない彼女だけれど、一度は居なくなると思っていた私が無事に帰ってきたことがよほど嬉しかったようだ。


 そんな彼女を見て私も嬉しくなったので、何も言わずに見守る。


 パトリシアの事を部屋の中の全員が優しい瞳で見つめていれば、途中でその事に気が付いたパトリシアが少し恥ずかしげに頬を染め動きを止め、私の腰に張り付くとそのまま顔を押し付け自分の顔を隠してしまった。


 子供らしいその行動に笑いが零れる。

 そして、彼女の笑顔を再び見ることが出来た自分の状況の進展に、ほっと胸を撫で下ろした。


「こうしていると、本当に親子のようね」

 クラリスが柔らかく笑っていた。

 セリムやエメ、そしてクラウディは、なにか眩しいモノを見るかのように目を細めている。


 昔もよくそんな顔をしていたけれど、彼らが大きくなった分、そこにはあの時以上に様々な感情が含まれているようにも思う。


「もちろん。なんたって私が十年間育てあげたんだから」

「「「「………」」」」

「あー!違うよ!責めてないからね、誰も!!」


 再び鬱々とした空気を醸し始めた四人に対してすぐさまフォローのための声をあげた。



 ちょっとみんなめんどくさいよ!!







いきなりお話の雰囲気が変わります。

緊迫した状況に慣れてきた方々には少し物足りないかもしれませんが、これからしばらくはのんびりとしたお城での生活をお送りします。


作者がこれ以上のシリアスに耐え切れないので。。。(汗)


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