表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せの愛言葉を探して  作者: あかり
出会い編
2/77

初めまして

「えーと」

 目の前の男性が懸命に喋りかけてくるのを見つめながら、私は目を瞬かせていた。


 むしろ、それ以外何もできなかったというか。


「☆○×●×」


 悪い人ではないのだろう。まったく怖そうな感じのしない、長いローブを着た男が目の前に立っている。彼が身振り手振りを交えながら言葉を発しているのだけれど、あいにく私には一ミリ足りとも理解できないでいた。


 というか、今の状況すら、把握し切れていないのに、更に訳の分からない言葉を分かれという方が無理があるだろう。


 目だけを動かし、自分の現在所在地を把握する。

 どうやらどこかの医務室に居るみたいだ。幾つか仕切り越しに並べられた簡易なベッドが見えたし、棚には医療用と思われる薬の瓶が並んでいる。

 別に、いますぐ取って食われる、というものでもないようだ。


 とりあえず安心する。


 そうして、目の前の男性を見つめた。

 見た目は優男風。今は困りきって眉毛をハの字に下げているためか、綺麗な顔が台無しだ。見た目は洋風の人で、中々にイケメンである。

 

 てか私、さっきまで住宅街の上空に居たはずなんだけどな。


✿  ✿  ✿  ✿


 一方、芽衣子の目の前に立つ男性も、弱り切っていた。目を白黒させる少女を見つめて、彼は深い溜息をつく。


 神殿から、意識を失ったこの娘が運ばれてきたのはつい先刻。


 ようやく目を覚ましたかと思えば、まったく状況が把握できていないようだ。無理もない。そもそもは、神殿官長が趣味でやっている魔方陣が発動したために起きてしまった悲劇のようなものなのだから。


 彼女になんら落ち度はない。悪いのはすべてこちら。


「あなたのお名前は?どうしてここに来たか、わかりますか?」


 先ほどから同じ質問をしているものの、少女は首を傾げるだけで、まったくわかっていないようだった。

 言葉が理解できていないらしい。


「●☆☆♪◎」

 ようやく何か言ってくれたようだが、まったくわからない音が出てくるばかりで、意志の相通に役立ちそうもない。



 芽衣子と男は、顔を見合わせて同時に溜息をついた。



✿  ✿  ✿  ✿


 弱り切った表情をした私達がなんとも情けない顔でお互いを見つめていると、医務室の扉が開き、もう一人、背の高い誰かが入ってきた。


 反射的に、顔がそちらを向く。


 入ってきたのは、目の前に居るイケメンよりも更に美しい顔をした人物だった。頭からつま先までを白い布ですっぽりと隠し、見えるのはその綺麗な顔と、黒い前髪だけ。


 イケメンという言葉が安っぽく聞こえてしまうほど、その人の顔は洗礼された美しさがあった。


『どう?なにかわかった?』

『神殿官長!!』 


 画面越しでもお目にかかったことがないような美しい顔を持つその人を前に、私の思考は一時停止する。思考を奪われるとは、こういう事か。

 脳裏が人間に必要なすべての動作を忘れてしまったため、あわや窒息死するところだった。


 息苦しくなってきたところで思考回路が機能し始める。


「ごほっごほごほ!!」

 止まっていた酸素の急激な循環に、耐え切れずに咳き込んでしまう。


『大丈夫ですか!?』


 傍に居た灰色っぽいローブを着た男性が慌てた様子で背中を摩ってくれた。未だ何を言ってるかは皆目見当もつかないけど、大方私の心配をしてくれているんだろう。


 悪い人ではなさそうだし。


 彫刻の顔の人が、目を細めて私を見つめてくる。何か品定めをしているかのようなその視線が心地よく思えず、俯く。


『さて、どうして君だったんだろうね?』

 頭上から聞こえた声が、 青の絵の具を水だけで溶かしたような不思議な色をした瞳と目があった。


「っ!」

 美しいその顔を直視してしまったために、再び息が止まりかけた。


 でも私は立派な成人女性。二度も同じ過ちは犯さないぞ。


 握りこぶしに力を込めて、美しいその人の顔を見つめ続ける。

 ここが天国だろうが地獄だろうがなんでもいい。彼が閻魔大王なのか神様なのかすらも、今の私には関係なかった。


 死んだはずの自分が生きている。

 元々死ぬつもりなんてなかったし、あの人の気配を感じない新しいこの世界は、私にとってとても都合が良い新しい場所だ。


 思っていた以上に、元気みたい。私。


『うん。良い瞳だね』

 彼は何事か呟きながら、なんだか満足そうな笑顔を見せてくれた。


 どうやら試されていたみたいで、嬉しそうな顔で何度も頷いている。私の隣に立っている男性はその反対に深いため息を零していた。


 この人、付き人か何かかな。なんか苦労してるようだ。


 二人の男性を見比べる。




 ここで分かった事が幾つかあった。

 

 それは、風に吹かれて屋上から落ちたはずの私が、言葉の通じない日本とは全然違う国に辿り着いたということ。そしてこの目の前に立つとてつもなく容貌の整った人が、私のこれからの運命を握っているということ。



 異世界トリップ、なんていう文字が私の脳裏で踊りを舞い始めた。


 日本に居た時はあまり聞き慣れない言葉だったけれど、よく本屋さんに行った時にそんな感じの文字をポップで見た気がする。


 こんな事なら、ちょっと読んどくんだったな。

 どうやってこんな摩訶不思議な世界を生きていくかについて何らかの説明があったに違いないのに。



 ………さて、ここからどうしよう。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ