モタードはパワーだぜ
前回のあらすじ
紅魔館前の湖畔沿いでは美鈴のZZR1100と霊夢の999Rが死闘を繰り広げていた。長い直線が続くコースとZZRの圧倒的パワー、美鈴のテクニックの前に苦戦する霊夢だが…
そしてその頃紅魔館ではパチュリー、小悪魔のSM450Rに対する魔理沙の400SMでのモタード対決が始まろうとしていた
紅魔館の玄関前で魔理沙の400SMと小悪魔のSM450Rが横に並び4stシングルの単調かつ鈍い音を響かせてる。グローブのテープを締め直し、準備バッチリと言った顔で魔理沙は首にかけていたゴーグルをヘルメットの上から付けた。
一方モタードに慣れていない小悪魔は少し顔が引きつっていた。小悪魔にヘルメットを抱え歩み寄るパチュリーはそれを察したのかそっと小悪魔の肩を叩いた。そしてヘルメットを差し出す
「いつものモトクロッサーの感覚で大丈夫よ。リラックスして…」
小悪魔が少し気恥しそうに微笑む
「ありがとうございますパチy」
「あんたに負けられたらレミィに怒られるのは私だし、何より魔理沙にあの河童より私の方が優れたチューナーだと思い知らせるのよ…」
パチュリーが400SMのマフラーに輝くカワシロの文字に視線を向けながら低く、威圧するような声でささやいた
一瞬緩んだ小悪魔の緊張が再び戻る
…いや一層緊張した
パチュリーが2人の間で向かい合うように立つ。
「もう一度説明するけど、コースは館の周りを6周。館の壁に沿って石畳を進んで行ったら途中から森に入る獣道があるからそこを道なりに進んで、また石畳に戻ってここにくるコースよ。6割ターマック、4割ダートって所かしら。二人とも準備は?」
2人に視線を向けるパチュリー
「いいぜ。いつでも来い!」
魔理沙がクラッチを切り、素早く一速に入れるとアクセルを微かに開く。
同じく小悪魔も身構え、いつでもいけるといった雰囲気だ。
「よ〜い… どん」
弱々しく空にかざした手を振り下ろすパチュリー。無気力なカウントに少し気が抜けるがそんな事に構う時間はない。魔理沙が鋭くアクセルを開きつつクラッチを繋ぐ。ストロークのあるリアが大きく沈み込み前輪を跳ねあげた。パワーでこそ劣る400SMだか魔理沙が圧倒的な反射神経でスタートに勝った。小悪魔も半歩遅れてアクセルを開くがその時には既に魔理沙が頭一つ前に出ていた。
紅魔館をぐるりと囲う舗装路は元々パチュリーがチューニングしたマシンのテスト運転の為に作らせたため、ただ周りを走るのではなく複雑に曲がっている。直線が少なくグラベルの割合も多いまさにモタードに特化したコースだ。
先行を行く魔理沙はヒラヒラと、軽快にコーナーを攻めていく。止まっては吹き上がり、止まって吹き上がりと重い低音を響かせる400SMのエグゾーストサウンドはさながら魔理沙に合わせてリズムを取るようだ。クラッチ、スロットル、ブレーキの複雑な四肢の処理も魔理沙は軽快にこなした。
ふと視線をミラーに送ると、後方に小悪魔のSM450Rが写った。スタートした時より更に2人の車間は空いていた。自然に笑みがこぼれる
「パワー差は心配してたけど大丈夫そうだな…重たいのか知らないがバンクの反応が鈍いぜ!」
紅魔館の壁の終わりが迫る。鋭い90°のコーナーだ。魔理沙は素早くクラッチを切ると同時にシフトダウンし、そのままステップに力を入れシートから身体を浮かせた。下半身をコーナー反対側に押し込みながらブレーキを強く踏み込むと後輪がロックし、微かに白煙を路面に残しながらコーナーに滑り込んだ。コーナーを抜けるか抜けないかのタイミングで弾くようにクラッチを繋ぐ魔理沙。滑っていた後輪が瞬時に路面を掴み、エンジンのトルクを車体全体に伝えようと力強く加速した。前輪を宙に上げひっくり返らんとする400SMを押さえつける為に魔理沙が前に倒れ込むと、トルクのピークを超えた400SMは降参したようにフロントを地面に叩きつけた。
「なんて危なっかしい真似を…!?」
後方から魔理沙のスライド進入を見て怖気付く小悪魔だがここで引く訳にはいかない。コーナー外から魔理沙同様後輪をロックし浅いバンクで進入する。
が、ロックした瞬間小悪魔は大きな違いに気が付いた。横方向のグリップが明らかに弱い。魔理沙のタイヤ痕をなぞる様に進入した小悪魔だがそのラインは魔理沙が、そして小悪魔自身が脳内に描いていたラインより大きくコーナー外側に伸びたのだ。
「タイヤの違いにしてもこのグリップ力の差は極端過ぎる…なんでk」
不審に思った小悪魔だが、コースアウトしそうになるとそんな疑問は忘れて素早くアクセルを戻した。すると今度は確実にグリップする、そのグリップ力とパワーも相まって微かに魔理沙への距離が近付いたように感じた。
「…なるほど」
小悪魔はこの特性を理解した。そして同様にパチュリーの意図も理解した。
今まで強ばっていた小悪魔だがSM450Rのチューニングに込められたパチュリーのメッセージを受け取った途端、不意に笑みをこぼした。
「…魔理沙さん。確実に勝たせてもらいますよ…悪いですが真のチューナーはパチュリー様です」