知識と日陰のメカニック
前回のあらすじ:紅魔館を訪れた霊夢と魔理沙だが、美鈴に門前払いされてしまう。理由も教えず頑なに立ち入りを拒む美鈴に、霊夢はレミリアが何か異変を計画してるのではないかと推測した。霊夢は湖畔を1周するレースを美鈴に仕掛けるが果たしてその勝敗は…
美鈴と霊夢が薄く白煙をたて紅魔館を立ち去る。その後ろ姿をしばらく眺めていた魔理沙はふと気が付いた
「…ってこれ、美鈴が居ないから普通に入れるよな…」
周囲を見渡したが誰も見当たらない。門を開け、錆びた金具が不快な悲鳴を挙げたがそれでも誰も現れなかった。
「あれぇ?咲夜あたりなら来るかなと思ったけどホントに入れるのか?」
半ば罠なのではないかと疑いつつも館に乗り入れる。バイクが普及してから、レミリアはガレージを作るのに飽き足らず館の庭を走れるように舗装していたのだ。
館の玄関まで進み、バイクを降りようとした魔理沙だが、突如叫び声が。
「あっ魔理沙!パチュリー様やっぱり来ましたよ!」
魔理沙が驚きに立ちゴケしそうになる。声の方を向くと奥の木陰から小悪魔が覗いていた。その背後で木に寄り掛かっているパチュリーも見える
「美鈴の事だし、2人も来たら片方は逃すだろうとは思ってたけど案の定、霊夢にはめられたわね…」
パチュリーがゆっくりと、威圧するように見つめてくる。
「魔理沙、入っちゃダメって聞いたわよね?申し訳ないけど私達もレミィの為にあなたを止めざるを得ないわ」
しかし魔理沙は臆することなく自信ありげに言い返した
「いいぜパチュリー!にとりにパワーアップしてもらった私の400SMは無敵だぜ、かかってこい!」
少し怯んだ小悪魔が振り返りパチュリーを見つめる
「安心しなさい。新しく組んだデモマシンがあるからテストがてら使って貰うわよ。性能は保証するわ」
パチュリーが立ち上がり、弱々しい歩みで小悪魔に歩み寄る。倒れはしないかと不安そうに手を差し出す小悪魔だが、寄りかかる代わりにパチュリーはその手にキーを渡した。
「ガレージの一番右よ。赤いのね。取りに行きなさい」
小悪魔がキーを一瞬見つめて、ガレージに小走りで向かった。
パチュリーが再び木に寄り掛かるように座り込む。
「おいパチュリー大丈夫か?珍しく外に出てるけど無理は禁物だぜ?」
微かに頬を赤らめ微笑むパチュリー
「ありがと。でもバイク弄ってただけだから、決して無理はしてないわよ」
パチュリーは身体が弱くバイクに乗れない身であるが故、異変の後の紅魔館ではバイクのチューニングに勤しんでいた。今では幻想郷屈指のチューナーとして知られている
「…モタード同士なんだし、館の外回り6周とかでどうかしら?7割ターマックで途中から森の中のグラベルを走るルートよ。あなたはルート知らなくても小悪魔がモタード慣れしてないし、公平じゃないかしら?」
魔理沙が大きくうなずく
「おぅ!なんでもかかってこい!」
2人の奥にあるガレージから始動音が響いた。4stシングルのしっかりした鼓動感のある高回転サウンドだ。ガレージから小悪魔が乗って出てきたそれは、魔理沙の400SMより更に1回り大きく、鋭く光る赤いタンクが目を惹いた。一瞬ホンダかと思ったが、異様なライト造形ですぐに違うと気が付いた
ハスクバーナSM450R。幻想郷では極めて少ない日本国外のオートバイだ
「ハスクバーナか…聞いたことはあったけど初めて見たぜ」
魔理沙が目を輝かせて向かってくる450Rを凝視する
「モタードのカスタムは何もカワシロやKNeだけじゃないって証明したかったからね。わざわざスキマ妖怪に頼んで輸入してもらったのよ」
私だって魔理沙の役に立てるって知って欲しいから。そこまでは言い出せなかった