モテル女の子
次は私がバイト先で出会った女の子である。
私は高校3年生の時、学校近くのガソリンスタンドでバイトを始めた。
そこへ中学の時の1つ上の先輩が入ってきた。
中学の時とは全く違う雰囲気になっていた彼女。
私は直ぐに気がついたが向こうは全く気がつかなかったようで。
その彼女が話す”彼”の話がとても面白くて私は先輩に自分が同じ地元だと言う事は言わないで置く事にした。
そう、彼女もやっぱりとんでもない妄想壁の持ち主だったからだ。
私の通う学校は地元の駅から3つほど離れた場所にあった。
私は学校帰りによっていたのだが、その先輩、ゆき先輩はなんのゆかりもないこのスタンドに取ったばかりだという車の免許をひらひらさせながら軽自動車に乗って通っていた。
真っ黒で太いアイラインに紫色のアイシャドー、着てくる洋服もいかにも……
これ以上はゆき先輩の為にも私の口からは言わないでおきます。
「昨日彼がさぁ〜」
そんな風にいつも彼の話をするゆき先輩。
夜中ドライブしていたら、どうしても私の作ったオムライスが食べたいって言ってさぁ〜。
私がもういいっていってるのにしつこくて、今日は寝不足だよ。
たまに、Hな話も交えながらいかに自分が彼に愛されているかを語っていた。
バイト仲間は
「へー」だの「ふーん」だのそれで、それでと言って彼女を煽る。
みんな面白がっているようだったけど本人だけは大真面目に彼の事を語っている。
そのうちに
「彼がどうしても私と離れたくないって言って」
といいあげくの果てには
「うちの庭にプレハブがあって、とうとうそこに引越してきたよ。まいっちゃうね〜でも今までだって殆ど私の部屋に居たんだから同じなんだけど。」
と言い切った。
でも私知ってるんだ。
ゆき先輩の妹は私の中学の部活の後輩で、同じ高校だったの。
朝の電車で一緒になった時、
「お姉ちゃんと彼、仲良さそうだね」
って聞いてみたら
「えっー先輩(私の事ね)何言ってるですか!うちの姉貴に彼なんているはずないじゃないですかぁー」
って大笑い。
そこで更に
「だって庭のプレハブに引越してきたんじゃないの?」
って聞いてみた。返ってきた返事は
「うちの庭にプレハブなんてないですから。それにバイト以外毎日家でゴロゴロしてるんですから彼なんているはずないって!どこからそんな話がでたんです?」
って笑いが止まらない妹さん。
ここまできたら可哀相になってしまって、
「ちょっと噂をね」
と。
”お姉ちゃんがでどころだよ”とはとても言えなかった。
そしてまた、彼女のお惚気話を聞く毎日。
多分、大げさに言ってるだろうなぁ。
なんて思っていたけど、彼そのものが居なかったとは思わなかった。
暫く経ったある日、他のバイトから、ゆき先輩は私と同じ中学だということを聞いたらしい。
そのせいなのかどうだか解らなかったけど、それから何日もしないでひっそりバイトを辞めてしまった。
私もみんなもちょっとの間寂しくなったことは彼女は知らない。
今どうしているのかな?とふと思ったりして。




