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健全な短編集

花粉症

作者: 海原 川崎

花粉症。ある季節になると一斉に空気中に漂い始める花粉が、目や鼻にくっつくことにより起こり、鼻水、鼻詰まり、目の痒み等、色々な症状に悩まされる。

去年まではそんな事は無かった人間もいきなり花粉症になる場合もある。


毎年の様にテレビのニュースでは花粉症についての話が出ている。

今日の花粉の量、対策方法、毎年毎年同じような事を繰り返しており根本的解決にはなっていないのではないかと思う。

ただ、私は花粉症ではないので関係の無い話だ。

目の前にある食パンを口に含むとボソボソとしたパン耳に嫌な気持ちにさせられる。

朝、寝起きの状態で口を無心に動かしているが舌に当たるパンの味はパンと舌の間に薄い膜が存在しているようでなんだか遠い存在に思える。

唾液と混ざっていく食パンを飲み込むと、再びパンを口に近づけ無表情で頬張る。

よくテレビで見る『瞼を擦りながらリビングに向かう子供が椅子に座ると正面には新聞を読んでいるスーツ姿の父、手慣れた様に朝食を作っている母。』なんて光景あるのか?と思う。

現に眠たげな表情でパンを食べている私の前には新聞を読んでいる父親なんておらず、すでに仕事に出掛けているし母親は現在睡眠中。

「行ってきます。」「行ってらっしゃい。」そんな言葉は存在せずに、食べかけの食パンとテレビがそこにある。

テレビの映像がCMになる。

休日格好良い男性が小さな男の子を抱きかかえながら笑顔で隣の女性に顔を向ける。

女性も同じ様に笑顔を向け、保険会社の名前が出てきた。

どうやら出てきた三人は家族で明るい人生を歩んでいそうだ。

そんな映像を目で見て耳で聞いて脳に保存されずに消す。


学校に行く準備を終えた私は家を出て先程の寝ぼけている状態を消し去る。

不思議な事に睡眠時間が足りていれば睡魔は消えていくのである。

ポクリポクリと靴が地面から離れるたびに鳴る音や、鳥の綺麗な鳴き声、同じような制服を着ている人が視界に入りながら私は学校に向かっていく。

空中にほんのりと温かい日光を感じながら歩いていると鼻がムズムズと痒みを感じる。

そして目がゴロゴロと痒みが発生し始めた。

『まずいのではないか。これはもしかして花粉症なのではないか?』そう考える前に私は大きく息を吸うと大きなくしゃみをしてしまった。

「くっしょん!!」くしゃみをすることによって発生してしまった風によって周囲にいた女子のスカートは捲れ上がり、地面に存在していた砂は勢い良く飛んでいって前方の人達は目を擦った。

「…あ。」風が止んだ後周囲の人間が一斉にこちらを見る。

汗が顔を伝っているのを感じながら私は弱々しく言った。

「誰か、花粉症になったかもしれないので救急車を呼んでください。」その言葉と共に周囲に居た人間は顔を引き攣らせながら私から離れていった。


『速報です。花粉症感染者が発見されました。〇〇県〇〇で発見された模様です。詳しい内容はわかり次第お知らせします。』

ニュースに流れた言葉は数々の人間の耳に入る。

気にする者。自分は関係無いと頭の隅に記憶しておく者。記憶すらしない者。迷惑だと思う者。噂をする者。花粉症感染者の正体を調べようとする者。

日常に変化は見られないがそれを餌に情報を金に変えようとしている者も出てくる。

花粉症。症状が酷くなると感染者が発したくしゃみで台風が発生する。一緒に飛び出る唾液が高速で飛び散る為、弾丸の様な威力を放ち周囲の生物や物体に穴を空ける事もある。

これによって行われた対策は全員が各花粉のワクチンを打つ。各場所に空気清浄装置を設置。森林がある地域の進入禁止。様々な対策が行われたがごく稀に花粉症に感染する人間が現れる。そうして今回の様に花粉症感染者は緊急で隔離されるのだ。

『どうして私が…』今日の朝まで関係のない事だと思っていた花粉症になんで私がかかってしまったのだろう。

そんな事を思いながら白い天井をぼんやりと見つめながら呼吸を繰り返す。

口と鼻は透明なケースで覆われておりケースと繋がっているホースから空気が送られてくる。

別に悪い事なんてしていないのに…。

きっと学校で噂になっているのであろう。

きっと治っても私に近づこうとする人は居ないだろう。

花粉症だから。私だって元感染者の人間に触りたいとは思わないもの。

そもそも花粉症は治るのか?

治らなかったら私は永遠に隔離された状態で死ぬのであろうか?

この真っ白い天井を見つめながら一生を過ごさないといけないのか?

そんな事を考えると目元からうっすらと涙が零れてきた。


主人公の性別とかは特に考えていません。

明るい話が書きたいなぁ…。

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