表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいてけぼりの俺の意地。  作者: 藤山 智司
終わりと始まり、その前章
2/3

学期の終わり、夏の始まり

 ―2029年 7月20日 金曜日 AM.11:21―


 その知らせは本当に唐突だった。その時、季節は15回目の夏になろうとしていた。その頃の俺は、受験戦争から解放され、高校の、中学の時とは比べものにならないほど忙しく、充実した生活を堪能した。そうしてバタバタやっているうちに、いつの間にやら一学期は、終わりを迎える所まで来ていた。


 元々、体の調子が元々良くない方だった俺は、体調不良で休んだり、授業中に登校したりすることが多かった。だから、イベントや楽しみを消化仕切れていない気がして、一学期は物足りない感じがした。だがこれからは違う。ついに高校生になって、初めての夏休みがやってくるのだ。これでワクワクしないわけがない!その時の俺は来たる一大イベントに胸を高鳴らせていたのだった。


 その脳天気な俺にその知らせが舞い込んで来たのは、終業式が終わったあと、職員室に呼び出されたときだった。



~~~~~~~~~~



「はぁ~疲れた~。校長とかの話、長すぎだろ…」


 いつも長い話をしてくるお偉いさんたちだったが、今回はなまじ夏休みを控えていた分、話を長く感じてしまった。どうせみんな覚えたりしないんだから、教訓とか言わないでいいのにといつも思う。


「しかも、やっと帰れると思ったら先生に呼ばれて職員室に行くとか面倒くさ~…」


「…ん?あれ~どしたの駆、まだ帰らないのかよ」


「ん?ああ、ちょっとな…二ノ宮こそ、早く帰らないのか?」


 …こいつの名前は二ノ宮恭太。背は俺と同じくらいで、体格は、全体的に見るとしっかりとした体付きをしている。少しウザいがまあ悪い奴じゃない。野球部に入っていて、その才能を見せつけ始めている。俺とは中学校からの付き合いで、よくつるんで遊んだりしていた。

 高校の進路は、中学校に近かったのと、倍率が低かった事から、二人ともこの高校に進学した。クラスも一緒だったので、此処でも俺たちはよくつるむようになった。今ではお互い他にも友達ができ、話す機会は少し減ってしまったが、こいつとはまだ深い仲である。中学校で陸上部だった俺は、高校ではとくに入りたい部活も無かったのでまた陸上部に入ったのだが、野球部とは時々一緒に練習するので、よく競争している。そのため、話す機会は沢山あったのだ。…因みに、前回の勝負では200メートル走では、俺が負けた…次は勝つ。


「なにかあったのか?お前、『明日から夏休みだし体調も良いから、今日中に宿題終わらせて遊びまくる~』とかなんとか言ってた気がすんだけど?あ、まさか、俺に秘密で特訓か?へへへーそんなに悔しかったのかー負けず嫌いめー」


 …やっぱうぜえ。


「ちがう。アホ」


「誰がアホだ誰が!じゃあなんだ?なにか用事でもあるのか?…それとも、また調子が…」


「あ、いや、ちょっと先生に呼ばれてな。職員室に寄らないといけないんだ。すまん…」


「えー。せっかく一緒にゲーセン寄ろうかと思ってたのにー。面白くねーなーぶ~ぶ~」


「…いや、まあ、また今度な」


「…ま、しょーがねーか。それはともかく、次の勝負、体の調子整えてこいよ~。お互い、ベストな体で戦おうぜ!」


「ふん、あたりまえだ。…次は勝つ」


「んっひっひー勝てるかな~?ん?ん?んじゃ、またなー」


「ウゼェ。おう、またな~」


 こいつと、いつものようにふざけ合う。これでますます負けられなくなったな…夏休み、さらに気合いを入れよう。


「…さてと」


 行きますか。




~~~~~~~~~~




「失礼しま~す…」


 扉を開くと、涼しいを通り越して少し寒い空気が流れてきた。暑い廊下を歩いて来た俺には気持ちいいが、長く居ると風邪を引きそうなくらい寒い。汗をかいているので、冷えるとまずいことになる。早めに用事を済ませようと思いながらも、部屋へと足を踏み込んだ。


「先生、HRホームルーム終わったんで来ましたよ~」


 声を掛けると、目の前で机に向かっていた女の先生が顔を上げた。


「ん?ああ、来たねー」


 この人は西山凜子。今年からこの高校の来た新任の教師だ。背が高く、紙も肩に掛かるくらいに長いので、落ち着いた雰囲気がする女性である。中身はお茶目だが。この高校では若い教師は少なく、年配の教師が教壇に立つことが多いのだが、西山先生はまだ若いのに、1年生の副担任として頑張っている。(歳は秘密らしい)何分若いので経験が足りず、まだまだ副担任の仕事もぎこちない。でも、学校に来るカウンセリングの先生の手伝いなどを頑張ってしている、努力家な先生である。そんな人だから、生徒からの人望ファンも厚い。(特に野郎に。…野郎、ということは先生たちも入っている)そしてこの先生は、生徒との距離を詰めるのがものすごく上手い。生徒に指導するときも、ただ五月蠅く怒鳴ってくる騒音公害教師よりも、友達感覚でいるこの先生に、ゆっくり丁寧に、でもしっかりと叱ってもらった方が、言うことを聞く気にもなるのである。実際、この先生が此処に勤めてからは、不良の数が圧倒的に減ったそうである。…それとは別に、【西山涼子を護り、敬い、助ける会】なるものが出来たそうな…


「何ですか先生。せっかく式も終わって、家でゆっくりしようと思ってた時に…何か用事ですか?」


「いや、まあ、用事じゃあないんだけど、森本君宛のお知らせがあってね」


「お知らせ?」


 思わず訊き返してしまった。


「うん。で、内容なんだけど、この前森本君、身体精密検査の申し込みを学校でして、そのあと総合病院で検査受けたでしょ?」


「ええ、はい、そうですけど」


 小さな頃から体が弱かった俺だったが、この所特に体調が優れず、処方された薬を飲んでもあまり効果が無かったため、専門の医師と相談をしてみることになった。その結果、一度詳しく調べようということになり、ちょうど学校で検査の申し込みがあったのをいい機会に、受けることにしたのだ。


「その検査結果が来たんだけど、森本君には、検査の結果について詳しく説明するために、もう一度病院に来てくれっていうお知らせが来ててね。それを家の人に渡してほしいんだけど…」


 検査結果でなにか異常があったのだろうか?なんだか心配になってきたな…


「……検査でなにか、異常があったんでしょうか…」


「あ、いや、そんなに気にすることは無いんじゃない?もしかしたら、薬なんかの説明をしたり、これから少しずつ治していくから、その為の予定を決めたりだとかのために呼ばれたのかもしれないし!」


 …この人、絶対いいカウンセラーになれるわぁ…俺が保証する。


「…ありがとうございます。分かりました、親にしっかり渡しておきます」


「渡すだけじゃなくて、病院にもちゃんと行って、説明聞くのよ。分かってる?」


 そりゃそうだ。当たり前。


「じゃ、これがその書類だから、なくさないように気をつけてね」


 そう言って先生は、封筒に入ったその知らせを引き出しから取り出してきた。


「…はい、分かりました。じゃあ、これで失礼します」


「ええ、夏休み、羽目を外し過ぎないようにね~」


「はい。分かってますって~」


 そう言いながら部屋を出る。冷たい、から案の定寒い、にチェンジした職員室から出ると、真夏の暑い空気と、建物の中に居ても聞こえてくるセミの声が、全身に襲いかかってきた。


「うっ……失礼しました…」


 そう言って扉を閉めると、中でぴしっとさせていたからだを夏の暑さが襲う。近頃の地球温暖化は凄まじく、洒落にならんレベルになってるからな…。体をだらけさせながら、このクソ暑い中帰るのか…と考えると、…泣きたくなってくる。


「…あ、そうだ」


 帰る前に、貰った書類に目を通しておこう。そう思って、今し方先生に渡された封筒の中身を見るために封筒の中に手を突っ込んだ。封はしていなかった。


 中の紙を引っ張り出す。そこにはこう書かれてあった。


――――――――――


 平成41年度

 ✕✕市総合病院 


 森本 翔 様


 6月3日に行われた身体精密検査について


 この度、身体精密検査をお受けになった森本 翔 様、検査結果についての説明等がありますので、予約をお入れになった後、総合病院までお越しください。


――――――――――


 ……せっかくの夏休みなのに、忙しい…ううっ……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ