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第四話の補足 初心者とは 推敲・字数・冒頭 など


アレッサ「よし! 三千字に……できてしまったな。七割も不要だったのか……」

清之助「ではそれを三万字にしろ」

アレッサ「無茶を言うな!? せっかく『おもしろさ』の密度を上げたのに!」


清之助「俺は五千字にしろと言った。その字数ではどうせ、必要な間やリズムまで削っている」

アレッサ「む……たしかに台本やあらすじのように味気ない。しかも説明的なセリフばかりで不自然だ。しかしこれなら五千、いや四千字でも……」


清之助「せっかく一万字を三千字にしたんだ。一万字にもどせ」

アレッサ「三万字というのはもしや……」

清之助「書いたら一万字に削れ」

アレッサ「なぜそんな拷問のような……」

清之助「推敲の初歩だ。中でも解答に近いものがわかりやすい手法で、最も優しい拷問だ」


アレッサ「うう……一行ごとに無駄を削る修正をしたくなって、筆が進まない……」

清之助「時間あたりに書ける文字量は減ったが、創り出すおもしろさの量は増えている。無駄を出さない技術に慣れて意識に余裕が出れば、リズムや構成にも脳の容量を大きくあてられる」



アレッサ「三万字を書いてから……削り続けたのだが……どうしても二万三千あたりから、削るとわかりにくさやリズムの悪さが出てしまう」

清之助「それならもう字数は考えずに書きなおせ。それで完成だ」


アレッサ「一万字というのは……」

清之助「ふやけた初心者を矯正するための目標数値だ。だが貴様は読者を基準としたおもしろさを意識するようになり、そのための努力をこなしはじめた。もう『ふやけた初心者』ではない。『いくらかマシな初心者』だ」







ユキタ「初心者の定義ってあるかな?」

清之助「新人賞の一次選考に複数回通過できるなら、最低限の実力はある」

ユキタ「複数回?」

清之助「二次選考も通ったことがあるなら一次落ちは考えにくいが、ある程度の当たりはずれはある」


ユキタ「でも作品のおもしろさとは別だよね?」

清之助「別だ。二次選考通過でも、技術だけでつまらん作品は多い。勢いや相性のいいどシロウト作品に負ける」


清之助「勢いさえあれば、相性のいい読者には深く刺さる。だが技術がなければ、つかめる客層は安定しない。商業で採算がとれる『最低限の技術』を身につけられる『見こみ』が選考通過には必要だ」


清之助「まして『プロ志望』など、最終選考にも残ったことのないやつが名乗ったところでギャグとの区別がつかん。なにせ入賞してデビューして単行本を何冊か出すくらいでは副業してないと食えない作家がほとんどだ。アニメ化される作品が出ても、一般の年収分の貯蓄になるかも怪しい。プロの定義を厳密に生業とするなら、プロ志望とは商業デビューしてようやく開始地点と……」

ユキタ「それくらいでやめてあげてよ」







アレッサ「しかしこうも堂々とタイトル詐欺を推奨するとは……」

清之助「電子媒体は本編をクリックされなければ試合の前に敗北だ。タイトル、作者名、あらすじ、キーワードを練る作家力の差が致命的に響く」


ユキタ「意外と難しいよね。あまり狙いすぎてエゲつないと冷める。意味不明すぎると疑問を持つより先に興味を失う」

清之助「意味は直球で伝えるが興味もつなげる。ナンパの最初の一言と同じだ。なにが好きかをさらし、それをどう愛せるかをにおわせ期待させる」


アレッサ「そういうややこしいかけひきはちょっと……直球だけではだめなのか?」

ユキタ「埋もれない工夫ができれば、それはそれで強いと思う」


清之助「『犬を溺愛する。毎日十五時間。』か……不本意だが、貴様のタイトルセンスだけは認めよう。内容そのままでありながら、強烈な衝撃と問題意識を刻みこむ」

アレッサ「そ、それは違う! 仮のタイトルに小説冒頭を入れただけだ!」







アレッサ「二万字で九割の実力がわかるとは本当なのか? 単行本一冊が十万、少し長いサイト小説ではその何倍とあるぞ?」

清之助「映画でも冒頭数分、マンガなら数ページと言われている。今は序章部分だけの新人賞もあるくらいだ」


アレッサ「そんな新人をデビューさせてだいじょうぶなのか!?」

清之助「それだけ序盤が肝心で、そこで概要を示せないようでは、はずれの確率が高すぎるということだ」

アレッサ「だが先まで読めば……」

清之助「おもしろくなる作品もある。形式や構成として序盤がもたつくしかない作品もある。だがおもしろい長編を書ける実力があるなら、冒頭にもそれなりの質が出る」


清之助「そしてなにより、冒頭すら読むにたえない、冒頭で見捨ててまったく問題ない新人が多すぎる」

アレッサ「う」

清之助「同じ人件費と審査時間なら『論外』の相手は短く済ませたほうがいいに決まっている」


ユキタ「タイトルから冒頭二百字は一般的なテレビCM一本、十五秒くらいの感覚だね。そこまでにつかみがあるとテレビCM的、つまりテンポ良く感じる」



清之助「字数を使えば誰だって壮大な世界を説明できる。だがそんなぶあつい説明書は誰も読まない。読みたくない。それは小説ではなく記録だ。地震計の記録を延々と見せて地震の実態を感じとらせるたぐいの拷問だ。それを読みたくなるほど『おもしろく』つまり短くわかりやすく、感性に直結する凝縮と配置を行ったものが小説だ。芸術だ。娯楽だ。商品だ。価値あるものだ」


清之助「芸術は『感性を育てる栄養』だ。感性に直結する凝縮と配置をしてない、食えるように調理してない説明は食い物ではない。小説ではない。八つ裂きのブタを盛っただけで『芸術性の高い創作料理』と言われた客の反応を考えろ」


清之助「俗に芸術家と呼ばれる中でも三流未満がやっているのはそれだ。ゲスなインパクトだけ盛った生ゴミに営業宣伝のスパイスを塗りたくってマヌケの口へ詰めこみ、目をまわしているすきにサイフを抜き取って食いぶちにしている。食ったやつらは食中毒、精神障害となり、マヌケはそれを栄養、感動と勘違いする。心の内臓部分である感性が崩壊していく」


清之助「娯楽のエロや暴力やホラーは安全性と栄養にごまかしがきかない。不快と感動にごまかしがきかない。きわめて健全な作品群と言える」

アレッサ「え……え?」


清之助「逆に、難解さは不健全の大きな原因になる。利権のためだけの『伝統芸能』と化して『観賞のしかた』を客へ負担させるようになった文化は腐敗と崩壊を避けられない。実際の芸術価値とはかけはなれた料金をぼったくり、学術的な存在意義しかなくなる」


ユキタ「食べかたにうるさい店に限って、高いだけでまずいのと一緒か」

清之助「はしを用意してない西洋料理の店をハズレとは言わんが、はしを出せる店は当たりの可能性が高い」







清之助「冒頭のつかみが五十字に早まるだけでも、アクセスの可能性は高まる」

アレッサ「いくらなんでも、ぱっと見で二百字は目に入るし、百字くらいは無意識に読むだろう?」

清之助「そこまで表示されたらな」


アレッサ「う。そういえば携帯モバイル媒体では表示される字数が減る?」

清之助「行内文字数が少なく縦長なら、『読まない』と判断されるまでの文字数も減少する。視野角度の変化と視点移動の回数は無意識の負担となる」


アレッサ「ケータイ小説がラノベ以上に軽さを求められる傾向も理由があったのか」

ユキタ「古い世代向けでも、配慮したほうが有利になる要素だね」



清之助「もうひとつ。本編冒頭が表示される場所は本編ページとは限らない」

アレッサ「え」

清之助「検索サイトで自分の作品タイトルを入れてみろ」

アレッサ「どれ……なにい!? 作品の冒頭が!?」


清之助「作品要素『犬』『溺愛』『小説』がからめば、ほかの検索からかかる可能性もある」

アレッサ「そしておよそ百文字を表示か……いや、ページによっては作者名や日付などが入って、さらに削れる……確実なのは五十字か」

清之助「こっちのサイトでは一律で二百文字だ」

アレッサ「そのサイトでのクリックは、その字数が勝負というわけか」



アレッサ「む? 冒頭以上に、あらすじの転載がものすごく多いな?」

清之助「この紹介サイトでは百字ほどだ」

アレッサ「え。検索サイトの結果でもないのに、全部は表示されないのか!?」

清之助「アホ。『小説家になろう』の目次ページでも三百文字以上はクリックが必要になる。つまり、それ以降はほとんど読まれない」

アレッサ「え」


ユキタ「たしかに『続きを読む』とかあると、むしろ半分くらいしか読まないことが多いかな。二百文字くらいで『クリックなしで最後まで読めるなら』で読む気になっていることは多いかも」

アレッサ「練り上げた八百字が……」


ユキタ「あとサイト内の検索結果表示とかでは改行がなくなるから、三百字を超えた文字の海はもう、一行も読まないでタイトルのみで判断している」

アレッサ「たしかにこれは……目が浮く」


ユキタ「二百文字でも読みやすそうで気力もある時じゃないときつい。一行か二行だけになるかも」

アレッサ「あらすじも二百字が勝負、百字以内が大幅に有利、ということか」


清之助「三行、百字、数秒という情報量は反射的にストレスがないと感じる。『内容がどうでも読みきれる』と無意識に認識する」

ユキタ「もちろん難読漢字や前衛きどり、哲学きどり、スタイリッシュきどりの読みにくさはない前提ね」


清之助「二百字は十五秒テレビCM一本にあたる『耐えやすい』短さであるのに対し、百文字は宣伝文句キャッチコピーとして無意識に『読めている』短さだ。効果の差は言うまでもない」



清之助「作品冒頭の話に少しもどると、二百字以内のつかみは『テンポがいい』に対し、百字以内は『不意打ちで驚かせる』字数だ」


清之助「これは冒頭以降のリズムの計算にも使える」

ユキタ「説明とかの平坦な文章が二百字以上は『耐えにくい』から注意」

ユキタ「コメディーとかでは二百字以内、十五秒以内でネタ要素がつながっているとテンポの良さが続く」

ユキタ「百字以内、五秒ごとの展開が多いとジェットコースター感覚の演出」


清之助「冒頭に比べれば、それ以降は流れがあり、作品によっては緊張や興味が複雑にからんで支える。あくまでめやすだが、テンションやリズムが落ちる警戒には使える」



ユキタ「あとキーワードがあるね」

アレッサ「おお、それはあらすじとは別に見る貴重な追加字数だ。できる限り詰めこんで……」

ユキタ「多すぎるとやっぱり見る気がしない。ほらこれ……」

アレッサ「む。たしかにこれは……ヒロイン属性をならべ過ぎで、あざとさが恥ずかしいという以前に、情報量として目が浮く」


清之助「単語がぶつぎりだから、通常の文章より読みにくい。およそ半分になる数十字までがスマートだ」

ユキタ「百字を超えてびっしりとかは……ネタだとしても損かな」



アレッサ「しかしこれらの細かい改善をいろいろ重ねて……具体的なアクセス数はどれだけのびるのだろう……」

清之助「あくまで『店先いじり』だ。実感できる数字にはなりにくい。客の来ない店だから、あるいは常連がいるからとぞんざいにするのは自由だ」







アレッサ「むう、この作者は『感想はなにを書いてもかまいませんが、意見を作品にとりいれることはありません』と書いている」

清之助「ほう。それは萌えるな」


アレッサ「え。こういう傲慢な者は育たないのでは……」

清之助「このサイトでは感想欄にまとはずれな意見がつきやすいのもたしかだ。余計な愛想をふりまかず、自力の研究で作品を磨いて勝負するというなら殊勝な心がけだ」


清之助「もちろん『技術より大事なものがある』などと熱弁して、いつまでたっても成長しないやつは別だ」

アレッサ「う……それはきついな……」


清之助「派生形としては『エンターテイナーとして勢いあるライブ感を重視』で単に推敲も校正もしないで埋めただけの下書きを掲載するクズもいる。やはりほとんど育たない」

アレッサ「うあ……」


清之助「あとは『自分の理想を追求しているので、多くの人には理解されないだろう』と作者以外の全人類にとって理解どころか興味すら持てない作品を……」

アレッサ「も、もういい!」


清之助「ちなみに共通する返信方針は『自分をほめないやつは無能か悪人』だ」


清之助「すべては未熟と不努力のいいわけだから『下手』と『努力不足』を認めることができない。自分のしてきたことが都合よく成果へつながっていると自分に暗示をかけている」

アレッサ「それは関わらないのが一番だな……」


清之助「いや、ほめたたえる相手であれば、ほめ言葉がどれだけスカスカでも上機嫌で仲良しになってくれる。行動法則が昆虫なみだから、友人のふりをした利用はしやすい」

アレッサ「そんな助言はいらない!!」


清之助「そういうやつらに比べれば、すべてをつっぱねるやつのほうがまだ色気と将来性を感じる」




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