第四話 てっとりばやくうまくなるには?
エリート清之助「『おもしろさ』に直結して効果的な改良は『短さ』と『わかりやすさ』だ」
一般人ユキタ「先まで読まないとおもしろさがわからない作品は価値が低いの?」
清之助「そうとは限らないが、確実に大きな不利になる。文章の無駄な長さはそれだけで全体の読みにくさを増し、技術、センス、知性の低さも示す」
清之助「本音がなかなか見えない人間に魅力を感じにくいのと同じだ。社会人の出世力は第一印象で決まる」
ユキタ「君は率直すぎて一般社会からはみでているよ」
清之助「店内がどれだけ充実していようと、店先が汚れていたり、入り口がややこしければ、新規の客は入店しない」
清之助「そして多少なり読みなれた者は冒頭でおおよその実力を当てる。特別な能力ではない。どんな大長編でも二千字で八割、二万字で九割の実力がわかる」
美少女勇者アレッサ「しかしタイトル詐欺や冒頭ハッタリで釣る作品もあるだろう?」
清之助「できるものならやってみろ。広く深く釣れるタイトルと冒頭を作るには結局、ハッタリではない実力も必要になる」
清之助「実力上げとしても効率がいい。初心者の多くはタイトル、あらすじ、冒頭に無頓着すぎる。プロの十分の一も練らないで工夫した気になっている。逆に言えば、それら釣り部分だけを徹底して練り上げるだけでも、本編や長編の良い鍛錬になる」
清之助「なぜならタイトルや冒頭といった『短さ』へ言葉を効率的に凝縮し、効果的に配置する作業こそ、文章創作の本質だからだ」
清之助「新人賞でも、本編がおもしろい作品は必ずあらすじもおもしろい。新人賞向けのあらすじ作成は推敲にも効果的だ」
ユキタ「『新人賞向けのあらすじ』とは結末ネタバレまで含む全体概要のことです。本編十万字ほどならあらすじ八百字以内とか、賞ごとに規定があります。選考に便利というか必須」
ユキタ「『小説家になろう』の『あらすじ』欄はネタバレ防止や本編への誘導効率を意図して、宣伝文の短さと内容で収めている作品が多いです」
清之助「てっとりばやくうまくなりたいなら、タイトルで、あらすじで、冒頭で、徹底して『釣れ』!」
アレッサ「しかし冒頭だけでは表現できないテーマもあるだろう?」
清之助「ない」
アレッサ「高度な専門知識などを語るのであれば……」
清之助「学者などの専門家が複雑で難解な表現を使うのは、知性が低いからだ」
アレッサ「え」
清之助「表現能力はどうあれ、研究能力のみで評価を大きく左右されるため、そのような傾向になりやすい」
清之助「だが大学の研究論文の多くは、中学生でも理解できる内容だ。そんなものへ呆れるほど複雑で長ったらしい表現を費やしている」
清之助「ましてそのように非効率な表現を尊ぶなどという理不尽は、昭和末期の少年犯罪者集団が『よろしく』を『夜露死苦』などと表現した学歴コンプレックスと一致する病症だ」
清之助「あるいは『理解させない』ことでだます悪意だ。わかりにくい説明をする三流企業はいくらでも客を裏切る。人間が理解できない言葉で話す三流政治家は人を家畜のように虐げる」
清之助「広告のキャッチコピーが産み出す金額を考えろ。短いからこそ優れている。より広く、わかりやすく、印象深く伝わるからだ」
清之助「頭の悪い作家ほど『頭のいいキャラ』の表現に専門用語をならべたてる」
ユキタ「頭の悪いボクにはわかりやすい表現なんだけど」
清之助「すまん」
清之助「ともあれ……『難しいことをわかりやすく』表現できることが本当の知性で、優れた作家性だ」
アレッサ「しかし前衛芸術などでは、一部の者にだけ深く伝わる言葉も必要ではないか?」
清之助「表現の狭さは作家力の狭さだ。表現したい深さと、読ませたい広さのバランス調整になる。まともな作家は当然、ねらった深さの範囲で可能な限りわかりやすい表現を選ぶ」
アレッサ「まともじゃない作家とは……」
清之助「初心者や半端なマニアは、長さ難しさという害悪を尊ぶ狂信者が多い」
アレッサ「だが難解な言葉そのものが良い雰囲気になっていた作品もあるぞ? 某SF有名作品とか」
清之助「どアホ。難解な部分があっても読めるならば、ほかの部分のわかりやすさが高度ということだ」
アレッサ「たしかに……最初は解説部分を飛ばしたが、ドラマは問題なく楽しめた。会話も細かい理屈は理解できなかったが、緊張や感情移入はとぎれてない」
清之助「そして貴様のように読みかたの浅いアホが勘違いして『解説書を熟読しないと楽しめない作品』を書く」
アレッサ「ぐ」
清之助「作品がおもしろいから設定が膨大でも読みたくなるのであって、膨大な設定があるからおもしろくなるわけではない」
ユキタ「設定フェチは設定だけで興奮できるけど……文字数フェチや難解表現フェチなみに少数派で、報われにくいカルト宗教だね」
清之助「『より短く、よりわかりやすく』を意識しろ。それは創作の価値である『おもしろさ』に直結する。一文字でも削り、幼児でもわかる表現に近づけろ」
アレッサ「よし、では私も、自分の書きためていた作品から何文字くらい削れるか……」
清之助「一万字の作品か? では五千字にしろ。その作品の冒頭からすると、それ以上は必要ない。あと小学生が習う千字以外の漢字は使うな。それで足りる内容だ」
アレッサ「ば、ばかな!? それはもはや同じ物語とは言えなく……」
清之助「この歌詞を見ろ。五百字くらいか?」
アレッサ「ひらがなだけで……ほぼ同じ内容が収まっている?」
清之助「ふざけるな。貴様の作品よりはるかに深くて情緒も豊かだ」
アレッサ「くっ……」
清之助「初心者がいきなり書いた作品は、三割削ると段違いに良くなることが多い。五割以下でさらに良くなることも多い」
アレッサ「うう、きつい作業だ……しかし、このような推敲をひたすら重ねれば……」
清之助「『自分にとっての傑作』は完成する」
アレッサ「ひっかかる言い回しだな。今も少しずつ短く、わかりやすく、おもしろくなっているはずだろう?」
清之助「作品は書き上げるだけでなく『読ませて反応を検証する』までがひとつの作業だ」
アレッサ「しかしこの作品は、全話きっちり完結させてから掲載したくて……」
清之助「かまわんが、初心者が発表前の文章で得られる経験値は十分の一だ」
アレッサ「え」
清之助「そして完結まで掲載してない作品で得られる経験値は半分になる。だから初心者にはこまめな短編の掲載を勧める」
清之助「書いただけ、あるいは反応をろくに検証しない場合、書ける作品の限界は伸び悩み、読者の広さも深さも伸び悩む」
清之助「小説に限らず、客の反応を軽視する作家は成長しないか、効率の悪いゆがんだ成長をする。壁を相手に漫才の練習をするだけで、芸がまともに育つと思うか?」
アレッサ「しかし私の作品はごく一般的な、犬を溺愛するだけの作品で、犬さえ好きなら問題なく楽しめるはず……ユキタ! 貴様も犬は過剰に好きだろう!?」
ユキタ「読んだけど…………ボクは犬の種類とか詳しくないから、外見の説明は最初に少しはさんでほしいかな。いきなり珍しいのを八種ならべられても……」
アレッサ「そ、そうか……加筆したほうがいいかな?」
ユキタ「というか犬の種類や珍種には興味ないから、この説明の文字量はちょっとつらい。あと、なでたりモフモフはわかるけど、この延々と人間語で話しかける場面は……」
アレッサ「それは少し恥ずかしいが、誰でもやるスキンシップだろう?」
ユキタ「ボクはやらないし、てっきり虐待かと思った。何時間も主人公のひとりごとに耐える犬がかわいそうで、読むのがつらくて……」
アレッサ「すまない……犬も読者も喜んでくれると思って……いろいろ推敲しなおしてみよう……」
清之助「ククク。初作品で読者を泣かせるとは、たいしたもんだなあ?」