第二話 芸術と娯楽の違いや価値はどこで決まる?
鬼畜メガネ清之助「結論から言うと、作品の価値は『おもしろさ』だ」
硬派ボケ美少女アレッサ「おもしろさ……笑えることか?」
清之助「悲しみでも怒りでも恐怖でも欲情でも、感情の動きすべてが対象だ」
清之助「それと『役に立つ』という基準も知っていると、より広いジャンルで考えやすい。雑学ものなどは役に立つからおもしろいとも言える。おもしろさは『感性を育てる』という役に立つとも言える」
清之助「さてアレッサ、芸術とはなんだ?」
アレッサ「そ、それは……人間の根源的な心理から……世界の真実を象徴させ……」
清之助「マヌケ。言ったばかりだ」
アレッサ「え?」
清之助「体を育てる栄養が食事であり、心、つまりは『感性を育てる栄養』が芸術だ。それ以上でも以下でもない。説明は八文字で足りる」
アレッサ「し、しかしもっと深遠なものでは……」
清之助「複雑なものと思いこませたいペテン師がややこしい説明をでっちあげる。複雑なものと思いこみたいバカがややこしい説明を好む。そういった芸術性とは真逆に近い方向をめざしたいなら止めん」
清之助「ではアレッサ、芸術と娯楽の境界とはなんだ?」
アレッサ「芸術は感性を育てるような、美しさや感動がある作品で、娯楽は低俗で一時的なここちよさというか……」
清之助「マヌケ。言ったばかりだ」
アレッサ「え?」
清之助「俺は『感性を育てる栄養』が芸術だと言った。ならば考えるまでもなく、すべての娯楽は芸術だ。境界などあるわけがない」
アレッサ「し、しかしそれでは美術館の収蔵絵画と、読み捨ての漫画が同列に……」
清之助「同列に扱わない感性こそ破綻しているだろうが。読み捨ての漫画は多くの感性を大きく育て、高度な美しさも深い感動もある」
清之助「チラシ広告だろうが便所の落書きだろうが、おもしろければ、泣いたり笑ったりできるなら、それは立派な芸術だ。まともな芸術家ほど幼児やシロウトや商業娯楽の創作物も尊重し、決してバカにすることはない」
清之助「だからおぼえるのは『創作物の価値はおもしろさ』だけでいい。ひまなら『おもしろさとは感情の動き』も思い出せ」
凡庸ダメ通行人ユキタ「でもこのAさんの作品は読みにくいし平坦な内容なのに、なぜか読みたくなるし、飽きないよ?」
清之助「うむ。さすがだユキタ。ざっくり言えば『好き』という感情が動いている」
アレッサ「なるほど。それはほのかでも根強い魅力になりそうだ。どれ…………いやこの作品、内容以前に、主語も視点もなにがなんだか……」
ユキタ「でも雰囲気はいい。メインキャラ三人の区別はつきにくいけど、はかない美しさは感じられる。派手な出来事は起きないのに、なぜか続きが気になる」
ユキタ「感想欄も『下手すぎて読めない』と『好きだから待ってます』の両極端で荒れているんだよね」
アレッサ「うう~む。技術がなくても人をひきつける素質というものもあるのだな。ならば私も、今のままの自分を素直に心のままに……」
清之助「アホ。迷惑だからやめろ。技術はあったほうがいいに決まっている」
アレッサ「だが実際、このAという作者は筆力が皆無でも『好き』という感動をもたらし……」
清之助「アホ。Aの筆力が皆無だと? なんとなくでも『好き』と感じさせるなら、必ずその根拠となる技術はある。貴様に作品を見る目が皆無というだけだ」
アレッサ「技術って……この稚拙な文が?」
清之助「稚拙なのは貴様の分析力だ。マニュアルをいくつか流し読みしただけの人間にありがちな失敗だ。語彙や文法などに不備があるだけで、作品や作家の価値まで低いと勘違いする」
清之助「Aの作品は流れと要点が明確で、リズムに優れている。キャラも含め、全体に素直なつくりで共感しやすい。それらの要素は、初歩技術の表面だけにとらわれたアホが見落としやすい」
アレッサ「うぐ」
清之助「中途半端な受け売りノーガキで目がくもり、シロウトでも感じとる『好感』すら、ゆがんだ意識で排除してしまう。つまり感性がシロウト未満になっている。批評者として、貴様よりはシロウトのほうが優れているということだ」
アレッサ「くっ……!」
清之助「Aは文章を書いた経験も、マニュアル知識もない。しかしおそらく宣伝や接客……それもただの販売や案内ではなく、相手の信頼を得る必要がある職種だな。それも務めて二年以内。十代後半女性。時間がなくて疲れているが、仕事もプライベートの人間関係も努力を続けている。その誠実さが『読みにくいのに好感を持てる』センスに響いている。背は低め、脂肪は少なめ、顔は普通で恋愛経験は……」
ユキタ「そのへんでやめろ変質者」
アレッサ「いや、いくらなんでも作品分析だけでそこまで作者のことは……え? 当たる……のか? どれくらい?」
清之助「別に特別な技能ではない。どれ、貴様の作品を見せてみろ」
アレッサ「く……来るなあ!」