第十三話の補足 プロ作家志望に必要な意欲の計量
アレッサ「たしかに創作活動は娯楽だが、極めた末には専業作家も実在しているではないか。私は趣味ではじめたとはいえ、これほど夢中で続けるほど好きなのだから、プロ作家に向いているのではないか?」
清之助「アホ。迷惑だからやめろ」
アレッサ「なんと言われようと、この気持ちだけは誰にも負けない」
清之助「どアホ。その『負けない』は、なにを基準に勝負している?」
アレッサ「そ、それは量ではかるものではないような……」
清之助「量ではかるのが商売だろうが。言いかえればプロ意識の初歩だ」
清之助「例えば『私はケーキを食べる作業がなによりも好きだ。この気持ちだけは誰にも負けない』などと誇っているバカがいたとして『ケーキを食べるプロ』になれると思うか?」
アレッサ「う……」
清之助「一日三食一個ずつ食べるくらいは誰にでもできる。一日に何十個と食べれば、あるいは一年毎日数個ずつ食べれば、身内はおもしろがってくれるかもしれない。他人もおもしろがって、中には小銭を投げてくれる物好きもいるかもしれない……それだけだ」
アレッサ「うぐ……それがアマチュアの段階というわけか」
清之助「人並みに、つまりサラリーマンの生涯年収なみに稼ごうとすれば、どれほどの食い方をすればいいと思う?」
アレッサ「聞いているだけで胸焼けしそうな例えだな」
清之助「貴様の『好き』など、その程度の遊びが基準ということだ。ケーキを食べたり、スポーツをしたり、ゲームをしたり、ギャンブルをしたり……誰だって『いくらでも続けていたい』と思いこめる娯楽の範囲で錯覚している」
アレッサ「ぐ……」
清之助「学校の教室ごとに『創作のプロになりたい』と思う人間がひとりでもいれば、全国の全世代でどれだけの志望者になると思っている? このサイトだけでも数十万、新人賞参加だけでも数千の倍率で、どうやって差を示せる『好き』だ?」
アレッサ「う……」
清之助「毎日何時間か執筆している者はざらだ。その倍も三倍も珍しくない。で、貴様はその中で優位と言えるほど突出できるのか?」
アレッサ「ぐ……」
清之助「仮に、執筆速度や文章技術や知識や経験が現役プロより優れていようが、それすら『やや有利』程度の差にしかならん。貴様はプロになるために何をできる? 鍛錬や取材のために、どれだけ時間と金銭と健康を投げこめる? 仮に障害となるなら、自分の社会的な地位や家族や友人をどこまで犠牲にできる? 即答で『どこまでも』と言える人間すら、当たり前に失敗しまくる競争倍率だ」
清之助「作家の第一適性は『創作を好きなこと』だ。それはまちがっていない。だが『プロ作家の適性』なら、競争倍率をどれだけ埋められる『好き』かくらい想定して『向いている』とほざけ」
清之助「新人賞受賞者も九割は『プロの適性』などない。残り一割も可能性でましなだけだ。それくらいは業界の出入り人数を見て気がつけ」
清之助「毎年、新人賞でどれだけのデビュー作家が量産されていると思う? それに業界規模の拡大が追いついていると思うか? つまり、まともな新人賞でデビューした作家さえ、脱落者が常に量産され続けている」
アレッサ「う~む。そこまではとても……と思ってしまう私にプロ作家の資質はなさそうだな」
清之助「プロ作家にこだわらない資質があるともいう。以上の前提を知っても自己分析や計画性の甘いアホよりはマシだ」




