第十話 読者の反応がつらいだと?
清之助「読者は批評の専門家ではない。だが例外なく感想の専門家だ。酷評はもちろん、単なる罵詈雑言も含め、栄養にならない感想はない」
アレッサ「しかし心が折れそうになる感想も多いのだが……悪意がないものも含めて……」
清之助「書けなくなるくらいなら、感想の無視も拒絶も遠慮するな」
アレッサ「そんなことをしたら余計に居づらくならないか?」
清之助「時期や状況、作家適性による。対応になれてないなら遠慮するな。精神のもろさに自信があるなら遠慮するな。遮断のほうが差し引きの被害が小さく済むなら遠慮するな」
清之助「そして人気が上がるほど、モンスターユーザは質も量も増す。自分の適性を考え、効率が悪い読者コメントは切り捨てろ」
アレッサ「もう少し別の言いかたはないのか」
清之助「作者としての誠実は執筆掲載が本筋だ。それに比べればコメント対応はついでだ。作品で応えない不誠実よりはコメント対応を切り捨てて当然だ」
清之助「ちなみにプロは別次元になる。よほどの変態でない限り遮断、最低でも編集者やマネージャーといったフィルターが必須だ」
アレッサ「やはり悪口の質や量がすごいのか? 匿名掲示板では悪意に際限がないわけだが」
清之助「それはアマチュアの人気作家でも同じだ。匿名や捨てアカウントは無責任に際限がない。作品をろくに読んでいない発言、流れに乗っただけで考えなしの発言も多い。それら『読者でも感想でもない』発言を間引きして読めないなら見ないほうがいい」
清之助「商業がからんだ時の違いは、発言者が匿名でない場合も含め、作為の入った言葉の多さだ。役立たせるには効率が悪すぎる」
清之助「逆に言えば、アカウントの信用を大事にしているユーザの発言は軽く見るな。今の貴様のような、作為を加える価値が低い立場ならなおさら、言葉の裏まで調理して栄養を吸収しつくせ」
アレッサ「しかし、とても食欲のわかない言葉が盛られているのだが……」
清之助「それこそ貴様に読解力がないだけだ。どれ……アホか!?」
アレッサ「あまりに心ないコメントだろう?」
清之助「あまりに心ないのは貴様の対応だ! これらの感想が悪意だけの嫌味か!? 脅迫口調か!? 作者自身の人格を攻撃しているか!? 作品を全否定しているか!?」
アレッサ「そ、そこまではいかないが、悪い点や私の意図とはまるで違う見解をならべられると……」
清之助「読みかたが作者の意図とずれているなら、誘導しそこなった作品のつくりが悪いだけだ。理解されないことを相手の読解力のせいにする文章を小説とは言わん」
アレッサ「ぐ」
清之助「ずれている部分は修正の手がかりになる。まして大量の『悪い点』は大量の『改善可能性』だ。本当に価値のない作品は改善のしようもない」
清之助「読んでもらえた上、宝の山をくれた相手へ『貴様はわかっとらん』『ほめるやつ以外は読むな』と同義の返信をするなど、なんのために創作表現している!?」
ユキタ「プロ志望じゃないなら、それもありだと思うけどね。作者としての成長はにぶったりゆがんだりしても、交流中心のユーザとして利用して悪いわけがない」
清之助「すまん」
清之助「文章作法の回で言ったように、助言は疑って選べ。だが助言そのものの拒絶は大損だ」
アレッサ「清之助の考えはわかるのだが、心血注いで刻みこんだ作品をぞんざいに扱われるとどうにも……」
清之助「アホ。多くの読者にとって『小説家になろう』の作品は無料配布のチラシと同じだ。ぱっと見で興味を持てなければ捨てる。読んでも飽きた時点で捨てる」
アレッサ「そんな」
清之助「作者になったことで、読者の時の視点を失っている。読者に対する最低限の礼儀もわからなくなっている」
清之助「『自分が苦労して育てた子供だから、できが悪くても、どんなに迷惑をかけても、ほめないやつは相手にしない。それ以外はなにを言っても敵だ悪だ撲殺対象だ』という意識でこりかたまっている」
アレッサ「う……ぐ……ひどい例えだが、そのモンスター親の気持ちがわからないでもない私がいる」
清之助「作品は作者自身だ。そして自身の子供くらいに大事なものだ。だがまずは『作者の料理』くらいに距離をとって考えろ。それが感想調理の基本だ」
ユキタ「自分の料理をぞんざいに扱われたらやっぱり殺意がわくんだけど?」
清之助「うむ。だが自分で料理をしたことがない人間にその感情はわからん。下手な料理は簡単に作ったと思われる。速くうまく作れる人間の料理なら、放り捨てても傷つかないと勘違いする」
ユキタ「実際にはより濃密な殺意を抱きます。プロはそれを抑える精神力があるだけです。主には責任感」
アレッサ「さ、殺意という表現はやめないか? 比喩ではないにしても、もう少しオブラードに包んだ表現で……」
清之助「だがいっぽう、無料の試供品であっても、食って吐き気がするほどまずいものを口に入れてしまった人間はどう思う?」
ユキタ「それはそれで食わせた相手を殴りたくなるよね」
清之助「口に入れたが味がなく、かみちぎることもできない謎の物体だったら?」
ユキタ「感想をくれとか言われても困るよね。怒りを抑えることができても、問い詰めたくなるよね」
清之助「どんなに下手でまずい料理でも、無神経に扱われたら殺意を持たれる。それは読者が知ったほうがいいマナーだ。作品は作者自身や作者の子として扱え」
清之助「だがどれだけ苦労した料理だろうと、迷惑な料理は迷惑だ。無料でも食べて後悔する料理が多すぎる。それは作者が知るべき常識だ」
清之助「傲慢なコメントを返すくらいなら、はじめから無視か遮断しろ。あるいは『文句を言うなら食うな』という注意書きくらい出せ」
ユキタ「『もうしわけありませんが厳しい感想はご容赦ください』と自己紹介に表示すると、それでもなお厳しい感想を書いた人がみっともないだけだから『優しい批評』と『頭が悪くて怖くない罵倒』だけになり『頭脳の無駄づかいが怖い酷評』は消えます」
清之助「だが感想も相手の料理だということを忘れるな。自身が傷つく危険を感じながら送信ボタンを押している者も多い」
ユキタ「まともな神経を持つ人なら『悪い点』を書くほうが怖いよね」
アレッサ「この『つまんねw』も栄養になるのか?」
清之助「アホ。本編までクリックした上に『つまらん』という内容を把握できるまで読んでくれた上客だ」
ユキタ「返信は『ご感想ありがとうございます。よろしければ、より具体的な指摘をいただけましたらさいわいです』かな」
アレッサ「どこまで大人だ!?」
清之助「相手が幼稚なほどだ」
アレッサ「『あらすじでブラバ確定でした』という内容をわざわざ書くのはもう嫌がらせにしか思えんが」
清之助「アホ。タイトルには興味が持てたこと、あらすじに難点があることを教えてくれた親切にしか思えん」
アレッサ「そういった解釈は特殊な性癖がないと身につけにくい技能に思えるのだが」
清之助「どアホ。親切ぶって説得力もあるつぶし屋に比べればかわいいだろうが。あるいは悪意はなくても薄っぺらい甘やかしに囲まれると、警戒もしにくいまま感覚が狂っていく」
アレッサ「うあ……」
清之助「互いを尊重した上で考えの違う部分も話せる相手はモニターごしだろうが最優先で確保だ。家族、恋人、友人と変わらん。ねっぷり愛情を注げ」
アレッサ「ほかの言いまわしはないのか!?」
清之助「それとプロ志望なら、プロ編集者の本音を探せ。ネットにいくらでも転がっている。初心者は特に、一次落ちまで全作品の講評をサイトに載せる新人賞くらい、一度は目を通せ。ジャンルはなんでもいい」
アレッサ「どれ…………なるほど。無駄な口汚さはなく、しかし容赦ない」
清之助「どアホ。最も優しく丁寧な部類だ」
清之助「批評眼のある正確な指摘は貴重だが、どシロウトの素直なひとこと感想も同じくらい貴重だ。それほど効率のよい栄養のかたまりもない」
清之助「そして『感想受付停止中』は読者を拒絶する表示だ。読者からの拒絶も招く」
アレッサ「むう。むやみに使えば成長がにぶり、ゆがみやすくなるか……」
清之助「だが最初に言ったとおり、書けなくなったら元も子もない。自分の対応力や作家方向を考えて決めろ」
アレッサ「私だと『優しい批評希望』の自己紹介表示かな? 栄養はせばめることになるが、心理的な負担はもう少しだけ軽くしたい」
ユキタ「でも現状、特にそういう表示がなくてもほめ言葉だけで感想を書くのが無難だよね」
清之助「誤字脱字の指摘で逆上したり、強制するような表現はまったくない意見や希望を書いただけでも『わかってない』と愚痴りだす作者がいるからな」
アレッサ「責めないでやってくれ」
ユキタ「そんな君に万能テンプレ返信『ありがとうございます。勉強になりました。今後の参考にいたします』を授けよう」
アレッサ「おお! ……って、ここでそんな風に紹介されては、これから使いにくくなるではないか!?」
ユキタ「『誤字脱字などの指摘も歓迎』なら自己紹介に表示したほうがいいかもね。あと『厳しい意見もお待ちしています』くらい書かないと善意の『悪い点』指摘もしにくいかも」
清之助「たかられたいなら『酷評や罵倒もニヤニヤ待ちかまえています』が最良か」
ユキタ「人として最悪で虫除けに最良だよ」




