第九話の補足 作家適性をでっちあげろ
清之助「さて第九話の補足を急遽でっちあげることにしたが……」
ユキタ「シーッ! 内容さえよければいいんだから! 活動報告を読んでいない人にまでばらさなくていいの!」
清之助「ジャンル適性にからむかは怪しいが、役に立ちそうなネタをでっちあげる」
清之助「まず、人気が出ない上にその解決方法すらわからないなら、自己分析能力がないことくらい認めろ。的外れな誇大妄想で得意ジャンルをせばめているよりは、あらゆるジャンルへ手を出して、なるべく多様な読者の反応を集めるほうがはるかに莫大な収穫を見込める」
アレッサ「うむ。本編九話のまとめと延長だな。私はそこまで無節操に踏み切るのは気がひけるが、自分が書いてみたい範囲、書けそうな範囲でなるべく探りを広げるくらいなら楽しめそうだ」
清之助「なにもひとつのジャンルにつき十万字一冊分を仕上げろとは言ってない。三万字くらいまでの『短編』でも十分に各ジャンルの良さは出せる。というか八千字までの『ショートーショート』で書けないものはそうそうないし、なんなら八百字以下の『掌編』でもいい」
アレッサ「ま、待て。すまないが『短編』『ショートーショート』『掌編』の違いとはいったい……」
清之助「どれも厳密には定義されていないが、おおよその字数で言えば上記の通りだ」
アレッサ「わかりにくいな。『短編』より短い順なら『短々編』『微少編』のような表記にしてほしいが……そういえば『中編』『長編』『大長編』なども境界はどうなっているのだ?」
清之助「いずれも厳密な定義はない。諸説あるが、電子化でどれもどうでもよくなってきた」
ユキタ「言いすぎだってば。自称文化人が定義を解説しながらネット小説の区分を小馬鹿にしているのは痛々しい時代錯誤だけど、紙出版との関係は続いているし、電子化による新しい区分を考える時でも土台に知っておいて損はない」
ユキタ「旧紙出版時代だと、なにかと四百字詰め原稿用紙が単位になります。おおよその分類は以下のとおり……
『大長編』1000枚以上(30万字~)
『長編』300枚以上(10万字~)
『中編』100~300枚(4万~10万字)
『短編』30~80枚(1万~3万字)
『ショートーショート』20枚以下(~8000字)
『掌編』2枚以下(~800字)
……と、この作品の作者がメモしていました」
アレッサ「不安な情報源だな。枚数と字数の計算が大雑把すぎないか? そして法則性がまるでわからん。おぼえにくそうだ」
ユキタ「勉強は丸暗記より理由と流れを優先で。基準として『長編』が『本一冊分』と知っておけば、残りもわかりやすいよ」
アレッサ「む。紙媒体に特有の『印刷の都合』か」
ユキタ「本一冊の主要タイトルにできて出版できる長さが『長編』だから、十万字に届いていなくても『長編』と呼ばれて扱われる作品は多い。その感覚は業界人でも同じ」
ユキタ「そして『大長編』は出版用語や製作分類というより、作品スケールへの尊称みたいなものだから『たかが十冊未満で大長編とは認めん』とか言い張るマニアの無駄な陶酔も自由だ」
アレッサ「ならばこの1000枚・30万字の意味は……三冊分?」
ユキタ「二冊までの文字数だと綴じかた、製本技術によっては一冊にまとめられちゃう。でも三冊分を超えると、技術的には可能でも、流通事情などからもまとめにくい」
ユキタ「余談だけど、ラノベ系はページあたりの字数が少ない。新人賞の応募規定を比較すればわかるけど、原稿の行数と行内文字数もばらつきが大きい。改行の多い文体もあって、字数よりもページがわりと増える」
アレッサ「すると『本一冊分』の『長編』も、より少ない字数で該当するのか」
ユキタ「多めの挿絵やマンガなども入ります」
ユキタ「長編と呼ぶには足りない『気がする』あたりを漠然と『中編』と呼びます。まるきり中編の字数でも作品の内容や知名度、本の厚さで主要タイトルぽいなら長編とも呼ばれます」
アレッサ「本の厚さ?」
ユキタ「七万字中編Aに二万字短編Bを足して一冊を成立させた本なら、Aは長編として扱われることも多そう。でも厚い本で七万字中編A、六万字中編B、五万字中編Cが合わさっていると、長編という印象は薄いかも」
ユキタ「次に短編。やたら幅があるけど、こちらは単行本が基準ではなく、新聞や雑誌で掲載できる限界と読みごたえの都合だと思う」
アレッサ「むう。たしかに中編以上の長さを一気に掲載しては、ひとりの作家に誌面を占領されてしまう」
ユキタ「長編や中編も、多くは短編文字量の連載をまとめたものになります」
ユキタ「残る『ショートーショート』『掌編』だけど、これも新聞雑誌に掲載できる文字量と考えれば短編の一種だと思う。つまり六つの名称で六段階になっているわけではなく……
(大長編)スケールの大きい長編へ対する尊称。最低でも三冊以上?
『長編』単行本として製本しやすい文字量。十万字以上。
(中編)単体製本も雑誌一気掲載も苦しい文量への暫定区分名。
『短編』新聞雑誌に掲載しやすい文字量。三万字以下。
(ショートーショート)新聞の一面におさまる短編
(掌編)ページ内の一段やコラム一本におさまる短編
ユキタ「製本できる『長編』と雑誌掲載できる『短編』が基本の二大分類で、短編の細分に『ショートーショート』『掌編』があり、長編の一部が『大長編』の尊称で呼ばれている」
アレッサ「なるほど。なにも頭が悪いだけでややこしい区分にしたわけではないのだな」
ユキタ「『中編』はもちろんその中間の「読みごたえ」も指すだろうけど、感覚の個人差が大きすぎると思うし、その機能を持つ言葉は『短めの長編』『長めの短編』でも足りそう」
ユキタ「製本するなら文字数を足す必要があり、雑誌掲載するなら分割(もしくは誌面占領に見合う集客力)が必要……という編集視点の分類から必要になって生まれた言葉が『中編』じゃないかな?」
アレッサ「そのあたりはネット小説だとどうでもよさ……いや関係は薄そうだな」
ユキタ「その点だと『ショートーショート』は新聞一面におさまる「読みきれる長さ」で、『掌編』は新聞のコラム一本におさまる「息抜きに読みやすい」長さで、作者や読者にとっての機能も兼ねた区分だから、ネットでも参考になる数値かも」
アレッサ「名称は最も使いづらいが。上限が八千と八百なら……だいたい数千や数百と考えると、このサイトの連載一話や、ケータイ小説の一話のような感覚か」
ユキタ「まあ、ネットではすでに独自の区分が育ちつつあるというか、読者のほうから総字数、話数、平均字数とかで作品を選ぶ文化が広まりつつある。上記六種類の名称と特徴を知らなくても、数字だけでもっと細かい分類を把握できる読者が増え続けている」
アレッサ「そういえば紙の本を選ぶときにも『総字数』や『平均字数』の表示がなくて不便に感じた」
ユキタ「いずれ紙媒体のほうがそれらを表示しないと相手にされにくくなるのかもね」
アレッサ「たしかに『総字数4万、話数8、平均字数5千』と表示してくれたほうが『中編』や『短編』なんてあいまいな区分よりずっと実用的だ」
ユキタ「それはネット小説を読みなれている君だから理解できる表示だよ。まだその数字から内容を実感できない人も多い」
アレッサ「そのような過渡期にあるわけか……うむ。今回はいい勉強になった。ではまた次回……」
清之助「ジャンル適性はどうなった」
アレッサ「はうっ!?」
清之助「文字量とからめて言うなら、多くの長編も短編の文字量で連載していたことに注目しろ」
アレッサ「むう。どのジャンルもその量でまとめられるということか。しかし私は短い作品はどうも苦手で、今のまま長編を続けて、あとは完結の仕方もいずれ少しずつ探るほうが適性に合ってそうだが?」
清之助「アホ。道化の適性だけは常に立派だな。短編の名手は長編も書けるが、その逆は必ずしも成り立たない」
アレッサ「う」
清之助「貴様は典型的な初心者の『行き当たりばったり』で何も考えていないだけだ。お世辞にも作家としての適性やスタイルと呼べたシロモノではない」
アレッサ「ぐ」
清之助「料理で言えば『ひたすら包丁をふりまわしていれば、いつか完成するはず』という態度だ。ひとり遊びならそれも勝手だが、成長したいならどんな小品でもいいから完成させろ。継続して生産し続けろ。できれば広いレパートリーに挑戦しろ」
アレッサ「う……ぐ……いい勉強に……なった……」
清之助「文字数も内容密度もまあまあか? 急造でっちあげにしては」
ユキタ「むしかえすな!」




