第九話 向いてないとかなにが根拠?
アレッサ「浅ましいとは思うが、読者が多いジャンルも競争率が低いジャンルも正直うらやましい。しかし不向きなジャンルを書いても意味はあるまい」
ユキタ「そんなことないよ。好きなものを書くのが一番だけど、食わず嫌いならもったいない」
アレッサ「え」
ユキタ「ジャンルの向き不向きを勘違いして思いこんでいる人は多い」
アレッサ「む。そういえば第一話でも、真逆に思える素養が適性になっていた」
ユキタ「そう。苦手や無知だって適性になることがある」
ユキタ「たとえばSFマニアのSFは読者に厳しい作品が多い」
アレッサ「たしかに。当たり前のように専門用語が多用され、描写や考察でも置き去りにされがちだ」
ユキタ「無知から学習しながら書く人のほうが、わかりやすくなりやすい」
アレッサ「なるほど」
ユキタ「ホラー好きのホラーは無神経になりがち」
ユキタ「恋愛経験のある作者の恋愛作品は未経験者向けの夢が不足しがち」
ユキタ「特に、若年層向けのご都合主義エロは『こんなのありえない』と思いながら書いたら負けだ…………負けなんだ!!」
アレッサ「わ、わかった。落ち着け」
勇者ユキタン「一度でも書いてみると得意ジャンルの深みが増したり、意外な適性を発見できるかも。興味や好き嫌いじゃなくて『書いた結果が想像もつかない』ジャンルほど、思わぬ宝が埋もれている可能性もある」
清之助「この作品の作者も萌えやパンチラはこのサイトがはじめてだしな」
ユキタ・アレッサ「だまされた!?」
清之助「そして得意ジャンルのつもりだったファンタジーとコメディーに巨大な穴が見つかった。無責任さと無神経さだ」
ユキタ・アレッサ「それくらいでやめてやれ!!」
清之助「ここでの連載長編で克服するつもりらしく、いろいろ毛色違いの短編に手を出しながらあがいている。不様でもそうやって方向性を深めるしかない。ククク」
アレッサ「いろいろ書ける器用さは長所だろう?」
清之助「プロ志望としては致命的な欠陥だ」
アレッサ「え」
清之助「新人の『なんでも書ける』は『なにも書けない』に等しい。持ち込みなどでも『言ったら負け』の恥ずべき禁句だ」
ユキタ「それをここに書くなよ」
清之助「これも『作品は作者そのもの』で説明がつく。貴様は『どう生きてもいい』などと言える人間を支えたいと思うか? いっしょに仕事をしたいと思うか?」
アレッサ「なるほど。たしかに童話とスプラッタを同時に掲載しているような人間は信用しがたい」
ユキタ「それくらいでやめてあげて。だけどエロとかスプラッタとかBLとかのジャンルは関係なしに、方向性のはっきりした作品ほど魅力的なのはたしかだね。技術とは別に読者として支えたくなる」
清之助「『なんでも書ける』などという言葉は、基盤となる作家性を客観的に認められてから有効になるアピールだ」
清之助「それ以外で『なんでも書ける』などと自慢する者はたいてい、作品がパワー不足で成長も遅い」
アレッサ「うむう。別ジャンルに挑戦しづらくなったな」
ユキタ「それはだいじょうぶ。特にアレッサはなにを書いてもだいじょうぶだから、なるべく遠いジャンルを試すといいよ。エロとかスプラッタとか」
アレッサ「もし書けてしまったらどうしてくれる!?」
ユキタ「それならそれで、本当の適性の発見になるかも」
アレッサ「というか、なにを根拠にだいじょうぶなどと……?」
清之助「貴様の『犬溺愛小説』が技術やジャンルとは別に方向性がはっきりしているからだ。なにを書こうが脳内お花畑の惨状を突き進む展開は目に見えている」
清之助「それに、その天性の気色悪さは異色のエロやスプラッタに活きるかもしれない」
アレッサ抜刀「そうか」




