表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/29

第六話 表現の自由と盗作の境界は?

* 本編の内容は掲載当時のものです。

 2018年6月に著作権侵害が非親告罪となる法律が成立し、施行後は前提が大きく転換しますのでご注意ください。


清之助「『盗作は良くない』『模倣を根絶したら創作できない』どっちを優先するのが正しい?」

アレッサ「それは……無断転用されては作家が生活できなくなる。しかし作品を発表しにくくなってはそもそもの……」


清之助「ばーか。どっちを優先してもまちがいだ。両方が正しいに決まっている」

アレッサ「くっ……!」


清之助「そんなもん、具体例もなしに判断できると思える感性が狂っている」

アレッサ「だが個々のケースでは、誰もが納得できる判断基準もあるだろう?」


清之助「ばーか。あってたまるか。そんな基準を作れると思える時点で、知っている作品が狭すぎ、創作に対する思慮が浅すぎ、法律知識が基礎から絶無である証拠だ」

アレッサ「くっ……! しかし現に裁判では……」


清之助「貴様は『法律知識が基礎から絶無』である理由から教えてほしいらしいな」



清之助「そもそも欠陥のない法律や判決など存在しない」

アレッサ「しかし完全ではないまでも、それに近い最善なのでは……」

清之助「法律は『裁判での決着なんて最低の一歩手前にすぎないから、なるべく頼るな』という前提で作られている」


清之助「裁判は『解決できない問題に落としどころをでっちあげる手段』だ。断じて『問題を解決する手段』そのものではない。それが法学の初歩の初歩だ」

アレッサ「しかし現に、訴訟によって……」

清之助「本来の意図をねじ曲げて『金儲けや抗争の手段』として濫用されている。だがそれを食いぶちとする司法ダニでもないのに、安直に法律を論点にする時点で幼稚だ。あるいは問題を解決から遠ざけている邪悪だ」



清之助「では著作権の基本だ。小説の全文コピペ掲載だろうが、権利者が訴えなければ法律違反にならないことは知っているか?」

アレッサ「そんなことをされたらプロ作家は食べていけないではないか!?」

清之助「では紹介のための部分的な引用や要約は?」

アレッサ「ん? 紹介なら作者も望むことだろうし、部分的なら……」


清之助「紹介のために引用を許される部分とは九割か? 三文字か? 要約する文量は八割か? 七文字か? 七文字でも推理小説の犯人ネタバレありか?」

アレッサ「う……!?」

清之助「仮に数字で線引きしても、引用箇所、要約方法などでいくらでも著作者に損害は与えられる。善意に見せかけながらも可能だ」

アレッサ「むう、線引きは困難か……するとグレーゾーンの利用や黙認はどうしようもないのか?」

清之助「そういう発想をする貴様の頭がどうしようもない」


清之助「現制度の『著作権が親告罪』は著作権の侵害にあたるかどうかを作者の判断にゆだねている。つまり法律からして『線引きは不可能』という創作の実態を認めている。『作者が許せる範囲なら目くじらたてない』という、常識的な感覚の尊重が『もっともマシな落としどころ』と結論している」


清之助「だから恥知らずが悪用できる抜け道などいくらでもある。法律を増やして防ごうとすれば、さらに大きな問題が増える。法律による解決が不可能とされた部分へ法律を足せばそうなる」


清之助「そしていちいち訴訟を起こさなくても、盗作を恥と感じられる人間が多いほど、盗品の売買は押さえられ、社会的な制裁も大きくなる」


清之助「論点を線引きにする時点で間違っている。解決から遠ざけている。あらゆる社会問題の根本は、そして唯一の解決方法は、心意気だ。まともな法学者はそれくらい心得ている」


清之助「法律を知らん愚者ほど法律をふりかざす。法律を逆手にとりたい悪人ほど法律をいじりたがる」


清之助「著作権は読者、作者、企業の心意気に支えられて蘇生してきた。誰もが幼児と盗人になった世界ではなすすべもない」



清之助「そして技術の急発展で誰もが簡単に複製も配布もできるようになった現状に、制度はまったく追いついてない」


清之助「そんな法制度を『完全に近い最善』のごとく崇めるな。法律は神ではない。常に腹を空かせた猛獣だ。大多数で必死に抑え続けてようやく番犬がわりになるかもしれない、欠陥だらけの必要悪だ」


清之助「そんなものを頼って論点にするから問題の解決が遅れる。遠のく。それで『最悪の一歩手前の決着』になればまだいいが、実際はでっちあげた論点を悪用されて『最悪中の最悪』を招いている」

アレッサ「な、なんの話だ?」

ユキタ「聞かないほうがいい話」

清之助「個々の良心や常識に照らした意志表示、表現や報道や政治参加の軽視が進んだことで、それらに支えられていた法律は腐ったし歪曲された。ダニの棲み家になった」



アレッサ「で、では私も自分の良心と常識に照らして慎重に……私の作中で引用するつもりだった歌詞も、一フレーズだけにしておこう」

清之助「その作品は削除される。下手すれば強制退会だ。ほぼどのサイトでも」


アレッサ「な、なぜ!? 現に小説や漫画の紹介だと一ページくらいの引用は……」

清之助「歌詞はまったくの例外だ」

アレッサ「音楽家は神経質な人が多いのか? いや、文字数の少ない表現形式だからか?」

清之助「ぜんぜん違う。めんどうな連中がわくから詳しくは説明しないが


(*諸事情により一部削除)


察しろガキ」

ユキタ「君こそ自重してよ」



アレッサ「ま、まあ、いずれにせよ、自分の中からわきあがるものだけで創作すれば問題ないわけだな? 製作中はほかの作家の作品にはなるべく近づかないようにして、影響を受けないように……」

清之助「ほう。次は『知っている作品が狭すぎる』『創作に対する思慮が浅すぎる』理由を知りたいわけだな?」

アレッサ「なぜそうなる!?」


清之助「では貴様の知る『一切の模倣がない独創的な作品』をあげてみろ。ジャンルはなんでもいい」

アレッサ「小説ならAと……漫画だとBと……映画はCと……Dの歌詞とか……きりがないだろう?」

清之助「きりがないのは貴様のマヌケさだ」


清之助「AはEという作品を丸ごと女性向けにしただけ」

清之助「Bは四十年前のFという作品を現代風にしただけ」

清之助「Cは日本のマイナーな名作漫画Gを洋風に変えて流行芸人を入れただけ」

清之助「Dの特徴の多くはシャンソンの訳詩と西洋文学が元だ。細かいネタでは海外の古典映画も多い」


アレッサ「わ、私は好みがミーハー傾向だからたまたま……」

清之助「ネット上でまとはずれな盗作指摘をする連中に同じ質問をしても、ほぼ同じ結果になる」

アレッサ「なぜ?」

清之助「それがわからないようだから『マヌケさにきりがない』と言っている」



清之助「『誰の影響も受けない独創性』をめざしたやつらの作品は……ユキタも知っているな?」

ユキタ「ほぼ例外なく、単につまらない。しかもまるで成長しない。そしてなにより……『下手すぎるパクり』にしか見えない」

アレッサ「え?」


ユキタ「一見、個性的に見えた人もいたけど、単に奇抜なだけでおもしろくない。しかも少し古いマイナー作品の設定をつまらない方向へわずかにいじっているだけだった」

アレッサ「そ、それは……」


清之助「指摘したところ、本人に自覚はなかった。そしてさらにどうでもいい部分を独創性だと言い張りはじめた。それについても類似性を指摘してみたら……」

アレッサ「も、もういい……」



清之助「学習の本質は模倣だ。赤ん坊は親の真似をして人間らしく育つ。スポーツの練習はトップアスリートの動きを模倣する。美術の基礎鍛錬はデッサンや習作という模倣だ。漫画や小説やデザインも……模倣の積み重ねがなければ、創作力は育たない」


アレッサ「つまり『一切の模倣がない独創的な作品』は存在しないという、陰湿なひっかけ質問か」

清之助「アホ。多少なりまじめに創作を学んだ者なら誰でも知っている」


アレッサ「するともしや丸パク……いや精密な模倣は『てっとりばやくうまくなる』方法なのか?」

清之助「言い直さなければ完全正解だ。多くのプロが薦めているのに、ほとんど誰も実践できない鍛錬方法に『一作全文字の正確な筆写』がある」

ユキタ「もちろん自作として発表しちゃだめだよ」


アレッサ「美術の習作と同じ鍛錬が、活字にあてはまるのか?」

清之助「もちろん、コピペ感覚の無意識で写しても役に立たん。美術の習作と同じく、作者の一筆ずつ、一字一句の意味を考え、構成と読者反応と製作期間を想像し、呼吸や体温まで感じながら一画ずつを塗りこめる作業だ」



アレッサ「さすがにそれをやっては作風が似すぎてしまうのではないか?」

清之助「どアホ。『模倣を遮断した作家の末路』でまだわからんのか?」


清之助「人は他者を通じて自分を作る。独創性、つまりは『自分の作家性』を広げ深めたいなら『他者の作家性』を広く深く知ることが不可欠だ」


清之助「知るには他者の感覚への同調、つまり模倣の追求が最も効果的だ。そして徹底的に『自分に合わせて』吸収する部分を細かく取捨しろ」


清之助「模倣を遮断して『純粋な個性』を磨こうとした者は、実際には『自分に対する無知』で思考がにごり続け、客観的には『ありきたりな無個性』へ墜落する」


清之助「狭く浅い学習だけで自分の作家性を甘やかせば『下手なパクり同然』から抜け出せないのは当然だ」


清之助「盗作を発表しろとは言わんが、模倣しまくれ。言いかえれば広く深く習作しろ。特にプロ志望なら、習作くらいやりまくらんと話にならん。個性、独創性を含めた作家力を伸ばしたいならそれが最速だ」



清之助「一流の作家たちは誰が誰の影響を受けているかを当然に見抜き合う。匿名掲示板で騒がれる盗作指摘は、どちらの当事者も『それがどうした』という内容が多い」


ユキタ「それでか……プロ作家さんたちの集まりに、ファンの人が『Bという作品はFのパクりですよね?』ってドヤ顔で言っちゃってさ。最初はポカーンて反応されて、次に『あーあ』みたいな感じで、優しくいなされていた」


清之助「もちろん、敬意も創作性もない浅薄な盗用は非難されるべきだ。しかし一流作家に対するその手の発言は、ほとんどが『絶望的な無知』の披露になる」



清之助「また、俗に『独創的』と評される作家は、本人にその自覚がないことも多い。本人にとっては、自分の求める作品要素の模倣を積み重ねた結果にすぎず、ただその積み重ねが常人ばなれしているため、常人には『独創性』に見えるパターンだ」


アレッサ「そういえば、プロの作家や編集者は類似作品をたくさん話題にあげて話していると聞く」

清之助「それ以外にどうやって業界で生き残る作戦を立てる気だ」


ユキタ「パクリ認定厨を気にしない作家さんだとSNSとかでも話していて、知っている作品の広さ深さがわかるよね。作中の異様に細かい部分を即答したり、関連作品をものすごい数ならべたり」



アレッサ「うむ……それでは筆写してみるか。最近サイトで見かけた気に入りの短編から……」

清之助「貴様のアホは底なしか!? 模倣すべき対象は『最高』だけだ! 『ちょっとうまい走りかた』を陸上選手が参照するか!? 『わりときれいな描きかた』が画家に必要か!?」


アレッサ「私よりはずっとうまい作品だから、学べることも多いだろう? 初心者の作品だから参考になることもあるし……」

清之助「必要ない。ただの遠回りだ。広い作品を把握したい場合にも、最高の作品から順に学ぶほうが早い。そしてそんな時間はない。自分にとって必要な『最高』をかき集めるだけでも、人生はまるで足りん」


清之助「最高以外を百冊読むより、最高の一冊を百回読め! そのほうが百倍ためになる!」


清之助「あらゆる小説の中でも『最高』と思える作品だけを選べ! それ以外の作品など、見るだけで作家力を腐らせる毒だ!」


ユキタ「この作品がどういうところで発表されるか考えて話してよ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ