第五話の補足 削除や退会が投稿サイトの日常茶飯事で安心か?
ボケナス美少女アレッサ「私なりにサイトの傾向へ合わせた長編連載を書いてみたつもりだったが、思ったより不評だったな。続きを書く気力も薄れてきたし、もう削除したほうが気持ちも楽になりそうだ……活動報告で事情を書き、反応をうかがってみるか?」
人格破綻エリート清之助「ほう。良い点を含めた感想がついているのにか?」
アレッサ「な、なにが言いたい?」
清之助「貴様の好きな作品を思い浮かべろ。その作者が『たいして人気がない』とか『続きを書く価値がない』とか言いはじめたらどうする?」
アレッサ「そ、それは丁寧に事情を聞いて、なるべく親身に……」
清之助「飛び蹴りして往復ビンタが正解だな」
アレッサ「なぜそうなる」
清之助「卑下は信用を預けてくれた相手への侮辱だ」
アレッサ「う」
清之助「作者の卑下は読者が作品へ寄せた好意と、感想のために割いた時間や気づかいを踏みにじる。袋だたきで返される前に、すばやく懐へ入って殴る蹴るのショック療法を加えてやるのが思いやりだろう?」
アレッサ「も、もう少し優しい治療法にしてやってくれ。それで断筆でもしたら、どうしてくれる!?」
清之助「軽はずみに卑下を公表できるやつは、同じ調子で断筆もやらかす。すでに同義だ。そいつにとって読者の存在はそれほど軽くなっている。自意識過剰の深刻化で、対等な関係であることすら見失っている」
アレッサ「うぐ」
清之助「で、貴様がその作品すべてのファンレターを踏みにじる理由はなんだ? 相手の人数が少なければ反応も怖くないか?」
アレッサ「誰がそんなことを言った!?」
清之助「だが人数の大小が判断基準なんだろう?」
アレッサ「う」
清之助「あるいは広く指示されていようと『全員を踏みにじる』のか? しかも『これからお前ら全員を踏みにじる』と予告して同情を脅し集めるのか?」
アレッサ「ぐう。たしかに、作品を支持していた読者を二重に傷つけてしまうふるまいならば避けたい……しかしそうなると、削除も気が重いというか、そもそもの掲載すら気がひけて……」
清之助「あとで削除するような作品を人様へ読ませる無神経のくせに、なにか気づかえているつもりか?」
アレッサ「うぐう」
ユキタ「そのへんで勘弁してあげて。もうすでにこの作品の作者も虫の息だし……まあ、このサイトを出版社の合同持ち込み会場として利用している自称プロ志望マゾブタサンドバッグならその扱いでよさそうだけど、同人会場や部活動や近所の井戸端みたいな感覚で利用するユーザもいるし、それもこのサイトのいいところだろ?」
清之助「う」
ユキタ「例えば、いいプロ野球選手を増やしたいなら、根本的には草野球をできる場所と、仲間や対戦相手と会える機会を増やすべきで、いちいち出入りのマナーをうるさく言う高い敷居なんて逆効果だ」
清之助「ぐう」
ユキタ「このサイトは、小学生が授業のノートに書いちゃうステキ妄想をこっそり見せ合う友だちを探せる。中学生がせかせかためこんじゃう黒歴史の放出暴走から抹消隠蔽までつきあえる。そういう懐の深さで、新人賞よりもずっと根本的で巨大な土壌を育てている。削除や退会といった避難路までマナーでガチガチにふさぐなよ。意識高い系のプロもどきや自称プロ志望しか入ってこれなくなる」
清之助「うぐう……す、すまん……」
読み専ユキタ「削除や退会をずっと見送る側だったボクとしては、マナーは作家さんが自分の身を守るために使ってほしいと思う」
アレッサ「む……削除や退会をするにしても、あてつけのように思われては非難も集まるか」
ユキタ「人気が出ないだけ、反応がないだけで退会までする作家さんは少なそうだよ? たいていは落ちこむついでの余計な言葉や行動で、自分の傷口を広げて追いつめられている」
アレッサ「う……どうにも結果が出ないと自分の反省点ばかり探し、そのつらさでつい、自分以外へも原因を求めたくなってしまうのだ……うああ」
ユキタ「でも作家さんが気にする悪評とか失態は、ボクから見るとぜんぜん気にしなくていい内容や程度に思えることが多くて、ポイント評価とかを見ても支持者のほうがはるかに多そうな場合もあったり……」
アレッサ「むう。冷静に考えると数ではそうなりそうだが……しかしむしろ、それなりに数がいるのに発言がないと、酷評を黙認して賛同する多さと感じたり、失態へ無言の非難を寄せる大勢がいる気がして……」
ユキタ「気のせいだよ。……気のせいだよ。いわゆるノイジー・マイノリティ(声だけ大きいひとにぎり)のせいでサイレント・マジョリティ(静かな大多数)の実態を錯覚している典型だ。たいてい、ほとんど、気のせいが大きいよ」
ユキタ「登録者が百万人を超えているんだから『千人に一人の異常者』も千人登録している。そのうちの何人かがたまたま重なれば、理不尽な袋だたきも発生する」
ユキタ「でも残りの九割九分九厘はそこまで奇怪な挙動をしていない。実態とずれた想定にとらわれて、本来は味方である人たちまで敵へ分類しちゃったら大損だ」
清之助「さすがだユキタ。周囲の悪意にばかり注目して恐れるのではなく、善意を逃さないように感謝する……つまり『愛』だな!?」
ユキタ「君からその言葉を聞くと、ひどく汚された気分になるのはなぜだろう」




