第一話『創作のこころがまえ』とか冒頭にあるマニュアルは役に立たなそう
美少女アレッサ「私も作品を書いてみようと思うのだが」
イケメン清之助「結論から言おう」
凡人ユキタ「君の悪いクセだ」
清之助「作品とは作者そのものだ」
ユキタ「抽象的すぎて役に立たなそうだね」
清之助「最も実用的なマニュアルだ。それだけおぼえておけば、あとのすべては解決できる」
アレッサ「便利そうだな」
ユキタ「真に受けちゃだめだよ」
清之助「まず、貴様の作品がつまらない理由だが」
アレッサ「まだなにも書いてないぞ!?」
清之助「貴様の作品はつまらない。なぜなら貴様がつまらんからだ」
清之助「作品を読めば作者がわかり、作者を読めば作品がわかる。したがって貴様の作品はつまらん」
アレッサ「これまでのたった三行のセリフで、私のなにがわかるというのだ!?」
清之助「『書いてみようと思うのだが』などと半端な意気ごみで『まだなにも書いてない』くせに人の教えを頼り『便利さ』を期待する作家をどう思う?」
アレッサ「……創作を甘く見て、無神経な上に、努力をする気もない人間……」
清之助「したがって貴様は『内容が破綻し、ひとりよがりで、読む気もしない』作品を書く。ありきたりな反応からすると、個性的なセンスも期待できない。それがおもしろい可能性はどれくらいある?」
アレッサ「……私には向いてないのかな……」
清之助「貴様の才能と胸の貧しさなどどうでもいい。問題はそれをどう育てるかだ。それには『作者を読めば作品がわかる』実例を知るのがてっとり早い」
清之助「ギャグがうまい作家は繊細、エロがうまい作家は上品だ」
アレッサ「え?『ギャグ作家は破天荒な性格』ではないのか? エロ作家はその……逮捕される寸前の人物というか……」
清之助「うまいギャグ、うまいエロを書く作家の素の人物像を調べろ。心理分析が正確になるほど傾向が鮮明になる」
清之助「てっとり早く確認するならベテラン編集者に聞け。無能でも作家分析に興味があるやつなら誰でもいい」
アレッサ「調べてみたが……あてはまらない例も多いような……」
清之助「問題ない。貴様が無能なだけだ。どれ……作家Aはコメディーとして売れているが、主要な人気要素はエロだ。ギャグだけでは読めたものではない」
清之助「作家Bは破天荒を装って気を張り、そのためのアルコール依存が進行している」
清之助「作家Cはウケる読者層が偏ったギャグを書く。この場合、作者自身の繊細な部分も偏っている」
ユキタ「ざっくり『無神経なやつの冗談は笑えない』という傾向は会話でもあるよね」
清之助「さすがだユキタ。だがなぜ俺を見ながら言う?」
アレッサ「たしかに、上品な人が言うシモネタは不快さを感じにくい」
清之助「そして品性の高い人間はブサイクだろうが、つきあってここちよい。そういう人間の作品もつきあってここちよい。どれだけ下品なエログロを書こうと、ただの不快ではなく性的興奮を感じやすい。人の心を動かす価値が宿りやすい」
清之助「欲情が強いだけで品性に欠ける作家の作品は、不快感が目立ちやすい。つまり『人が見たエロさ』は欲情の強さより、品性のほうが大きく影響する」
ユキタ「するとアレッサは持ち前の上品さを磨くといいんだね」
アレッサ「なるほど……いや、エロ作家になる気はないぞ!?」
清之助「あくまで『エロを書く作家』ではなく『うまいエロを書く作家』の傾向だ。例えばプロのエロ作家集団が飲み屋で騒いだ場合、一般誌の作家集団より上品なことが多い。やたら下品なやつが混じっていれば編集者か、そのノリに逆らえない零細作家か、ウケを狙わないと不安になる体質の作家か、作品のエロさが欠けてきた落ち目のベテランだ」
(*この作品はフィクションです。作中人物のセリフ内容などは作者自身の意見や実体験ではありません)
アレッサ「……そろそろエロ以外の話題にしてくれないか?」
清之助「残酷な作品がうまい作家は優しい。ファンタジーがうまい作家は現実主義者。中高生向けの作品がうまい作家は大人。子供向けの作品がうまい作家は老成している」
アレッサ「逆になるのか?」
清之助「作品の読みかたが浅い貴様にはそう思えるらしいな。残酷さを扱っているのにおもしろいと思える根底にはなにがある? 幻想的でありながら感情移入できる説得力はなにが支えている? ご都合主義をならべても嘘くさく見えないのは、その裏に責任感があるからだ。甘ったるいきれいごとを信じてもらえるのは、その裏に包容力があるからだ」
清之助「これらの素養を鍛えないで表面だけ真似するから、嘘くさく鼻につく子供だましになる。残酷描写が嫌がらせにしかならない。はた目に理不尽な設定に気がつかない。未熟を自覚できずに自分以外への的外れな罵倒をする」
清之助「作家と作品が表面でも一致しやすい特徴は話の『おもしろさ』『好感度』『長さ』だ」
ユキタ「創作技術って、社交の苦手な人が逃避で極めるものじゃないの?」
清之助「『話せる相手や場所がない人』ならまだ近い。社交に向かない原因が容姿や声などにある人間もいるが、それらを抜いた会話能力だ。例えば……」
清之助「作家Dの作品は展開が遅いが、読めばおもしろい。作家自身は話し下手だろうが、時間をかけてゆっくり聞き出せば、おもしろいことをならべられる人間だ」
清之助「作家Eの作品は読みやすいが、感じるものが薄く、長々と読む気はしない。作家自身も日常会話などはうまいだろうが、つっこんだ内容ではすぐに人間の底が見える」
清之助「以上のことを考え合わせると、貴様が作家として成長しない理由も明白だ」
アレッサ「まだなにも書いてな……」
清之助「人づきあいが少なく、人の言うことも聞かない貴様の人格と胸の発育不全は避けられない」
アレッサ「いや、胸は関係な……」
清之助「なぜなら人間は人間とのぶつかり合いで最も成長するからだ」
ユキタ「ラノベはひきこもりのニートが孤独の反動で産み出すものじゃないの?」
清之助「感性は使わないと摩滅していく。もし家族との関係も希薄で、ネット上の交流などもないなら、ひきこもる前に育てた『人間性の貯金』をくいつぶした時点で作家としては終わる」
アレッサ「このFという人気作家はもう何年もネットゲーム内の数人としか会話してないらしいが……」
清之助「Fの物語に世界観の広がりは皆無だが、レギュラー陣の会話だけでも飽きにくい温かさがある。それほど恵まれたプレイヤー交流で、機能している人間関係ということだ」
清之助「ネットゲームであろうと、その向こうの人間と互いを尊重し合える関係ならば誇っていい。それはそのまま、読者が愛しやすい作中のキャラ関係になる」
清之助「友人や恋人や家庭や職場や愛人を持っていようが、表面的なつきあいしかない人間は、人物の存在感がとぼしい作品を書きがちになる」
清之助「あるいは、どれだけ恵まれた人間関係に囲まれていようと、それをわかろうとしない人間は、誰にも理解されない作品を書きがちになる」
清之助「わかったか? 貴様の才能と胸の貧しさを解決したいなら、まず『作品とは作者そのもの』と心に刻め」
アレッサ「わ、わかった……ところで胸については……」
清之助「したがって具体的な解決策は『人にもまれろ』だ」