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第25幕 笹本太郎

 高校生になった笹本太郎は相変わらず自分は特別であるという慢心を抱いており、むしろ高校入学に関しての幸運によって以前よりもその傾向は増していた。

 彼は高校入った時点で身長はかなり伸び、それが理由で多くの部活から誘いを受けた。バスケットボール、陸上、サッカー、テニス……これらの部活動の勧誘に彼は断ることなどせずに参加した。しかし参加はしたものの長く続く部活動は一つも存在しなかった。それは、ここにも彼の厄介な勘違いが邪魔をしていたからだ。

 彼は部活動に参加し、練習する。対して怠けることもせず、数週間、程々に練習をした。しかし、なかなか己が上達して先輩たちの様に競技できない。それに対して彼は不満を持った。

 だが、その様な事は当たり前である。たった数週間で自分より一年も二年も練習し続けている人間に追いつけるはずがない。実際のところ彼はそれなりに上達していたのだが、彼は自分が特別な人間と思いこんでいる為、それなりの上達など上達していないに等しいと考えた。

 そして、この競技は自分には向いてはいないと見なし辞める。この様にして彼は誘いを受けた部活動の全てを同様の理由で退部していった。

 こうまでしても自分は平凡であると悟る事が出来ない程、特別である事は彼にとって重要で、一種のアイデンティティーとなって脳の一部にへばり付いていた。

 しかし、彼が部活動に所属しなかったと言うと、そう言う訳ではなかった。彼はその大きな体に似合わず陶芸部に入部したのだ。

 彼は元々陶芸に興味があり、陶芸への制作意欲に駆られ入部した。そんな事は全くなく、入学当初の彼は皆目興味を持っていなかった。

 それではなぜ入部したのか? その理由は陶芸部顧問が目当てであった。

 ある日、彼は彼女を偶然に学校の廊下で見かけた。その瞬間、高校生とは違うすらりとした大人の体、端正な顔にきりっとした一重の目、白いブラウスの下に隠れる豊満な胸を持つ彼女に彼は惚れた。

 彼はすぐさま彼女が、二年生担当の英語教師、菊池玲子であること、さらには昨年から陶芸部の顧問をしていることを調べ上げた。未婚であることも調べていた事は、言うまでもない。

 それからの彼の行動はまさしく電光石火であった。その日のうちに陶芸部に赴き、仮入部をした。作業場にはもちろん彼の思い人こと菊池玲子もおり、彼はその姿を確認すると舞い上がった。

 彼は彼女に好かれたい一心で陶芸に対して真面目に取り組んだ。そして玲子は彼のその姿勢を見て熱心に教えた。

 実際、彼は陶芸に対してのセンスは悪くなかった。それに彼が嫌う事は地味で結果が見えにくい、つまりは運動系の反復運動の様なもので、陶芸の様に目に見えて形を成していく作業は楽しかった。また、陶芸とは他人と競うものでなく、余程ひどい作品でない以外は自分の陶芸は素晴らしいと思う事が出来た。こうして彼の特別でありたいという欲求も満たされたのだ。

 彼は授業にはあまり行かなかったものの、陶芸をする為に学校には毎日登校した。そして、玲子と話し、彼女の陶芸をする姿を見て心を高揚させていた。

 彼女と仲良くなりたい、さらにはなんとかして恋人にしたい。そして、彼女と抱き合い、触れ合いたい。そんな男性にとっての当たり前の欲望が彼にはあったが、これといって行動を起こすことはなかった。なぜなら彼は今まで女性と交際したことがなかったのだ。それ故、女性との接し方が分からない。事の流れを経験した事がないからだ。ましてや、相手は年上の女性で学校の先生である。そのような事が可能なのか、それすら彼には判断が出来なかった。

 彼は恋愛経験の全くない頭脳で、何百通りもの告白のパターンを思案したが、全ては上手くいかないようである。彼が考えるにその理由はあまりにも自分には魅力がなく、大人の女性を振り向かせるまでものは持ち合わせていないからである。そして実際にその通りであった。

 彼はそのどうしようもない状態に悶々としたが、陶芸をする事、彼女を見て、恋い慕う事で毎日は順調であった。

 しかし、学校内での生活が彼にとって快適であるとは言い難かった。

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